■2■ 窓辺にて

 ルシアとライラが旅立ってからひと月ほど経った頃。リムネッタは既に意識を取り戻していた。傷は癒えてきているが、今も実家で療養を続けている。


「ルシア……」


 リムネッタは自室の窓から外を見つめる。


「今頃、どこで何をしているのかな」


 ルシアが旅立った経緯については、シャルロッテから詳しく聞いていた。リムネッタが目を覚ましたのは、ルシアが旅立った翌日だった。


「わたしも、行きたかったな……」


 ルシアと一緒に旅をする自分を想像する。ルシアと一緒に戦ったあの時、ルシアとなら何だって出来る気がした。ルシアと気持ちが一つになった、そんな気がした。しかし、目を覚ますとルシアはいなかった。


「わたしも、いつか──」


 言いかけた時、トントンとノックの音がする。


「どうぞ」


 リムネッタが言うとドアが開く。そこにいたのは、シャルロッテとニコだった。


「失礼します」

「お邪魔するよー」


 丁寧に一礼して部屋に入るシャルロッテに続き、ニコも部屋に入ってくる。


「二人とも、今日は揃ってどうしたの?」


 リムネッタは笑顔で二人を出迎える。二人ともよくお見舞いに来てくれていたが、二人揃って来たのは初めてだった。


「どうしたって、お見舞いに来たに決まってるじゃん」


 えへへ、と笑いながらニコが言う。


「うふふ、ありがとう。二人一緒だから驚いちゃった。お仕事は大丈夫なのかな?」


 リムネッタが心配そうに言う。


「今日の仕事は一通り終えてきました」

「仕事は……ま、まぁ午後から本気出せば……ぁははー」


 まだ午前中なのに既に自分の仕事を終えたというシャルロッテと、午後に回すニコ。相変わらず対照的な二人だった。


「ニコもシャルロッテも、負担かけちゃってごめんなさいね」


 リムネッタの療養中、彼女が行なっていた騎士団長の仕事はニコが行なっていた。そしてシャルロッテに至っては、自分の仕事の他にニコの手伝いもしているという状況だった。シャルロッテの仕事ぶりには、周囲も目を見張るものがあった。


「べ、別に気にすることないよ! ゆっくり休んで……出来れば、早く復帰してボクを助けて下さい!」

「うふふ、ニコったら正直なんだから」


 ニコの方がシャルロッテよりも二つ年上なのだが、二人が並ぶと、どうしてもニコの方が年下に見えてしまう。


「仕事の方は私達で何とかしますから、お気になさらず」


 そう言うと、シャルロッテはリムネッタの顔を心配そうに覗きこむ。


「それより、具合の方は大丈夫ですか?」

「えぇ。熱も出てないし、傷の治りも順調みたい」

「よかった」


 シャルロッテはほっと胸をなでおろす。ニコとシャルロッテはその日、リムネッタの家で昼食をとっていくことになった。三人での会食。食事の時間は穏やかに過ぎていった。




……





 窓の外を一人眺めるリムネッタ。昼食が終わると、ニコとシャルロッテは城へ戻っていった。


「ルシア……」


 ニコとシャルロッテが外に出た後、リムネッタは窓を開ける。


──強くて、優しくて、誰よりも気高い心を持つ、そんな騎士になりたいな──


 リムネッタの尊敬する、一番の親友の声。


──ほんの少しでもいいから、平穏に暮らす人たちの幸せを、この手で守りたいよ──


 声と一緒に、そよ風が部屋の中に流れ込んでくる。ルシアがリムネッタに残してくれた言葉。


──私は、リムネッタのために、絶対に死なない──


 そっと目を閉じると、さらさらと揺れる紅の髪が瞼の裏に映し出される。


「いつか、また会えるよね……」


 きっと必ず、また会える。ルシアのことを考えながら、リムネッタは晴れた空、遠く流れる雲を見上げた。

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