第三章 夢の軌跡

■1■ 騎士への扉

「はっ、はっ……」


 一人の少女が息を切らせながら、太陽の昇りきった真昼の町中を走っていく。


「わわっ、ごめんなさい!」

「おっと……気をつけなよ」


 途中、何度か人にぶつかりそうになりながらも、胸の興奮を抑えきれないといった表情で再び走りだす。


「着いたっ!」


 スタンドーラ家の門前に着くと、門が開くのも待ちきれないといった様子で軽く門を飛び越え、敷地に踏み込んでいく。


「おや、こんにちは。今日は随分とやんちゃな訪問だねぇ」


 庭の手入れをしていた館の使用人が笑顔で挨拶をする。


「こんにちは! リムネッタは!?」

「お嬢様なら、部屋で本を読んでいると思うよ」

「ありがとう、今日も素敵な一日を!」


 言いながら大きく手を振り、館の入り口へと走っていく。


「あんなに慌てて……あぁ、今日は確か……」


 使用人の言葉が終わらないうちに、少女は館に入っていく。そしてその広い館の中を、まるで自分の家のように迷わず一直線にその部屋へと向かっていった。


「リムネッタ! いる!?」


 部屋の前で立ち止まり、ドアを大きくノックしながらその名前を呼ぶ。


「ルシア?」


 ドアが開いていき、現れたのはリムネッタだった。


「リムネッタ! 聞いて! やったよ!」


 言いながらルシアはリムネッタの胸に飛び込んでいく。突然ぎゅっと抱きつかれて最初こそ驚いていたリムネッタだったが、すぐにルシアの訪問の意味を悟り、表情が喜びに満ちていく。


「ルシア……おめでとう! ルシアも、一緒に騎士になれるのね!」

「うん!」


 リムネッタも優しく抱きしめる。ルシアはそのまま天にも昇ってしまいそうな心地だった。


「おめでとう、ルシア……これで、二人の夢が叶うのね」

「まだまだ! これから、夢を叶えていくんだよ」

「うふふ、そうね」


 合否通知は何日かに分けて送られ、今日はその最終日だった。リムネッタのところには、先日既に騎士登用の通知が届いていたが、今日ようやくルシアのもとへ、登用試験の合格通知が届いた。憧れ続けた二人の騎士への道──それが今、開けた瞬間だった。この時、ルシアは十五歳。国王が代替わりし、騎士の身分制限が撤廃されてから二年が経過していた。

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