第4話
異能特課。
一音さんが所属している異能力者を管理している組織、正式名称は異能力者管理及び異能犯罪事件特別対策課というらしい。
基本的には警察庁の傘下にある組織だが、かなり独自性、独立性が強くほぼ別組織のような扱いのようだ。
「異能力者相手なら警察の判断より私達の方が優先されるの。警察が異能者を逮捕しようとしても私達がダメと言えば逮捕できないわけだから、司法においても対異能者なら私達の方が立場が上ね」
「つまり異能特課が無罪といえば無罪、有罪といえば有罪だと?」
「そうよ。私も法治国家としてはまずい事だと思うけど、正直異能力者が存在する社会に法律が対応できていないの。表向きには異能力者も一般人と同じように扱われていると思われているけどね」
そんなものだろうと思っていたけれど実際に当事者から聞かされると感じるものがある。
「言っておくけど異能力者だから罰を受けないという訳ではないから。あくまでも国に益がある異能だと判断されて、国に対して貢献する意思があるものには恩赦があるってことよ」
「つまり僕に下される罰も僕の対応次第って事ですね」
そういうと一音さんは何も言わずに目を逸らした。
「まぁ、そんなに悪いところじゃないわよ」
質問の答えではない答えだけが返ってきて、それ以降はお互いに一言も話す事なく僕は彼女達の目的地へと連行された。
目的地は横にとても広い建物だった。
高さは8階ほどで、奥にもかなり広い。
僕達を乗せた車は建物の入り口前まで運んでくれた。
車が停まると一音さんがドアを開けて外に出る。
僕は手錠をされていてドアが開けにくかったので、一音さんが出た後同じところから出た。
車から降りると差し込む太陽の光に目が眩む。
やけに眩しいと思いながらも目を細めていると、次第に視界が馴染み眩しい理由に気がついた。
ただでさえ眩しい光を反射して輝く大きな建物が僕達の正面に見えている。
近くで見るそれは先ほどまでいた大きい高校の校舎が犬小屋に見えるほど巨大な白亜の施設だ。
「ほら、気持ちはわかるけどちゃんとついてきて」
「あぁ、すみません」
あまりの大きさに間抜けにも口を半開きにしていると、僕の前を歩く一音さんが振り返って声をかけてきた。
その声に軽く謝罪して言われた通りに前を歩いている、僕よりも少し小柄な背中の後に続く。
「あ、そうだ」
しばらく歩いていると、前を歩いていた一音さんが何かを思い出したように突然声を上げた。
歩みを止めずに首だけで視線をこちらに向ける彼女は言葉を選ぶように少し唸ったあと言いにくそうに口を開く。
「いちおう忠告だけど、結構キャラが濃い人が多いからヤバそうな人に会ったら絡まれないようにしてね」
「えーと、それはどういう」
僕が言葉の意味を問いただそうとした時、僕と一音さんの間になんの脈絡もなく突然壁が現れた。
「うわっ」
「あやっ!」
突然の事に止まりきれずぶつかった僕が声を上げると、ぶつかった相手も声を上げる。
現れたのは壁ではなく僕よりもほんの少し背の低い女の子だったようだ。
「あっ、すみません」
「おおっ、こっちこそごめんね!ちょっとミスっちゃったよ!」
ぶつかったのが女性とあって反射的に出た謝罪の言葉に突如現れた少女も謝罪を返してきた。
ほんの少し下がって改めて少女の姿を確認する。
黒いセミロングの髪にピンクと金色のカラフルなメッシュ、メリハリのあるボディーライン、バッチリメイクが決まったプロの笑顔。
服は記憶にあるようなフリフリの衣装ではなく、パーカーにショートパンツという格好だが、彼女の事は流石の僕も見覚えがあった。
「君が話題の禅理 京波君だよね?出だしは少しミスったけど自己紹介はちゃんとさせてよね!」
今朝のニュースでも見た顔。
異能力を活かし反社会性の異能力者と戦いながらアイドル活動を行う、日本では殆ど知らない人がいない、世界的にみてもかなり知名度の高い有名人。
「私の名前は紺野
僕の目前で決めポーズを弾けさせたアイドルを見て、たった今一音さんから聞いたアドバイスを思い出し、その意味を心から深く理解した。
僕等は奇跡の船中に @himagari
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