六章『断絶』~第二話 少女の涙~

 情報屋ウィセナ。いつかまた利用するとは思っていた。ただ、それは予想よりずいぶんと早かった。


「……あれ? イスパさん、いらっしゃいませ! 本当に来ていただけるとは……嬉しいです!」


 ウィセナはたいそう興奮していた。客が来たことがそんなに嬉しいのだろうか。

 今日もこのギルドは誰もいない。ウィセナが一人だけ。そもそもここは本当に冒険者ギルドなのだろうか。いつ来ても誰もいないギルドなんて、見たことも聞いたこともない。


「調べてほしいことがある」


 ここに来た目的は情報。ウィセナもそれをわかっており、きゅっと姿勢を正した。


「ええ、お聞かせください。何を調べましょうか?」

「ウェルナが殺された。犯人を探してほしい」


 調べるのは当然、ウェルナの死の真相について。


「ウェルナ……さん? どのような人物ですか?」

「ウェルナ=ナトゥア。ブルームの町で大樹の研究をしてた」


 情報としては少ないが、これ以上のことをイスパは知らない。ウェルナを慕っていたが、彼女のことを何も知らない。


「ああ、ブルームの町の! えっ……あの方が、殺されたのですか……?」


 目を見開くウィセナに、イスパは首を縦に振って答えた。


「雷の魔法で殺されたらしい。それと、魔石が奪われた」

「しょ、少々お待ちを。ええと……」


 ウィセナが紙とインク、そしてペンを持ち出し、メモを書き始めた。


「ウェルナ=ナトゥア。ブルームの町の方ですね。大樹の研究をしていて、雷の魔法で……魔石、というのは?」


 イスパの言ったことをしっかりと全て覚えていた。さすがは情報屋といったところか。


「ウェルナが研究してた。神木を刺激すると採れるらしい。私が見つけた大きい魔石を渡したら、奪われて殺された」


 犯人の狙いはおそらく魔石。そのときまで存命だったウェルナが、イスパが魔石を渡したことで命を取られた。


「魔石……初耳です。私の情報網にすらかからないとは。独自の研究なのでしょうか」

「多分、そう。ウェルナしか知らなかったんじゃないかな」


 ウェルナの他に、魔石について話す人はいなかった。少なくとも一般的ではない。ウェルナがあんな部屋で研究していたことから、外部の人間に知られるようなものでもなさそうだ。


「なるほど。その情報があれば、探すことはできそうです」


 探せるとウィセナは言う。希望が見えた。


「お願い。見つけてほしい」


 これを逃すわけにはいかない。ウェルナが殺されてしまった今、彼女から手がかりを見つけなければもう何もできない。またひたすらに世界を走り回ることになる。


「……イスパさん。旅は急ぎでしょうか?」


 ウィセナが神妙な顔で一瞬固まったと思いきや、そんなことを言い出した。


「いや。この情報がないと動けない」


 それは決して、念を押すための嘘ではない。今のイスパにとってはウィセナの情報が頼みの綱。


「十日……いえ、七日。待っていただけますか?」


 普段のふわふわした態度から打って変わって、鋭い目つきのウィセナ。冗談を言っているようには見えない。


「いいよ」


 どうせ待つことしかできない。十日だろうが七日だろうが、問題はない。


「ありがとうございます。必ず成果を出しますので。では今日を一日目として、八日目にまた来てください。そのときにお話を」

「わかった。ありがとう」


 交渉成立。ウィセナが調べてくれる。イスパはギルドを出てリダの町へ戻る。ウィセナと会っただけのとんぼ返りである。

 実質、これが最後の希望。ウィセナに賭けるしかない。イスパは成功を祈りながら、リダへの帰路を急いだ。



 

 

 夕暮れ。リダへ帰還したイスパは、すぐに宿へと戻った。部屋の隅に座り、杖に仕込んだ刃の手入れをする。安静にしていろと言われ、今は特にやることがないので。


「おう、イスパ。本当におとなしくしてたんだな」


 そこへカルスがやってくる。どうやら、イスパがずっと部屋にいたと思っているらしい。実際はもちろん、外出している。別の町まで。

 ただ、安静にしているのは本当である。一日とかからず往復できたのは、それなりの無茶をしたから。倒れないように調整はしつつ、急いだ。実は体力や魔力が限界に近い。また一晩眠れば戻るが。


「ブルームはどうだったんだ? これからはどうする?」


 カルスたちの案内は本来、ブルームに戻るまでだった。ここからの予定はまだない。


「しばらくこの町にいる。調べなきゃいけない」


 イスパの声はいつになく真剣だった。それを感じ取ってか、カルスの目つきも変わる。


「……なんかあったのか?」


 立って見下ろしているカルスから、イスパの表情は見えない。それでも、イスパの放つ気配が穏健でないことはわかる。


「ウェルナが殺された。犯人を探す」

「ウェルナ? まさか、ウェルナ=ナトゥアか?」


 カルスはすぐにその名前を出した。イスパがうなずく。


「ブルームで大樹の調査をしていた奴だな。殺されたって、本当なのか?」

「見たから。死体」

「っ……そうか……」


 イスパ本人が確認したとあれば、信じるしかない。こんな質の悪い嘘をつくとも思えない。


「偏屈な研究者って、あの町じゃ有名だったが……殺されるとはな」


 カルスが片手で頭を軽く掻きながら言う。いきなりの凄惨な情報に動揺を隠せない。


「イスパは、そいつと知り合いだったのか?」

「そう。大樹の情報を聞いた」


 イスパの唯一とも言える人のつながりであり、大樹の手がかりでもあった。そのつながりが断たれた。


「それなら、俺らも一緒にブルームに行くか? 殺しのことを調べてみようぜ」


 カルスの提案は非常に親切なものではあった。が、イスパは首を振る。


「無理。私が殺したことにされてる」

「なんだって……!?」


 イスパはそのウェルナ殺しの犯人として捕まりかけた。町に戻ればまた同じことになるのは目に見えている。


「私が行けば、捕まる」


 カルスたちが一緒にいたところで、捕まるのは同じ。それどころか、カルスたちも共謀していると難癖をつけられるだろう。ただの警備隊に捕まるほどノロマではないが、そんな状態で白昼堂々捜査ができるわけがない。


「…………」


 いつもとは違う、意志は強いままだがどこか諦めたような様子。表情にも陰りがあるように見えた。そんなイスパを見て、カルスは一つの案を思いつく。


「……なら、俺たちでブルームを調べてみる。いいか?」

「ありがとう」


 イスパがいるとできないのなら、自分たちだけでやればいいだけの話。イスパに許可を得たことで、カルスは笑ってうなずいた。


「俺とクロトで行ってくる。キヒトはこの町に待機させるから、用があれば使ってくれ。それと、遠出するならキヒトに一言伝えておいてほしい」

「わかった」


 連絡役としてキヒトが残ることになる。イスパならば一人でもどこまでも行けてしまうためだ。


「よし。じゃあ早速行ってくるぜ。イスパはどのくらいここにいるつもりだ?」

「七日」


 情報屋ウィセナが指定した期限は七日。それまではこの町で過ごす予定だ。


「七日だな。それまでには一旦戻る。それじゃあな」


 別れの挨拶はあっさりに、カルスは部屋を出ていった。キヒトとクロトに話をつけにいくのだろう。完全にカルスの独断だが、あの二人はきっと従う。信頼が築かれている。

 一人残った部屋で、イスパは作業に戻った。刃を研ぐ音だけが部屋に響く。


「…………」


 ウィセナに託し、待つ。待つことが目的。そのせいか、考えることを失ってしまった。待つことしかできない。残りは推測しかない。大樹についても犯人についても、今できることはない。


「あれ……?」


 イスパは思わずそんな声を上げ、手を止めて目元を指で拭った。


「なんで……?」


 涙が流れた。理由がわからない。わからないが、流れてくる涙は拭かなければならない。

 何も考えられなくなると、思い出してしまう。ウェルナのことを。短い時間だが、話していたことを。抽象的ではあったが、誰と話すよりも充実していた。少なくとも、イスパにとってはそうだった。


「大丈夫。見つける」


 犯人も、大樹も。必ず見つけ出す。イスパは決意を固め、鈍色に光る杖を握りしめた。

 

 



 翌日。イスパが起きた時間には、カルスとクロトはすでに出発していた。かなり朝早くに出ていったらしい。キヒトと共に朝食をとり、これからの予定を話し合う。


「イスパ、この町の冒険者ギルドにはまだ行ってないんだよね? 今日は行くの?」

「うん」


 この町に初めて来たときは、倒れていたのを拾われた。目を覚ましてからはウィセナのところに行ったので、この町のことはまだほとんど見ていない。まずは冒険者ギルドに行き、情報を集める必要がある。ここも空振りとなるか、知らない話が聞けるか。


「俺は町の人たちに聞いてみるよ。まだ行ってない場所があるから」


 キヒトたちも三人で、この町の住人に情報を聞いている。相変わらず冒険者ギルドには行かないらしい。そんなに行きたくないのだろうか。


「兄さんに聞いたけど、七日はここにいるんだって? 何か用事があるの?」

「ある」


 この町に用事はないが、ウィセナとの約束が七日。これはまだ話していない。というか、気絶から起きるなり一人でナマルまで行っていたことをキヒトたちは知らない。


「そっか。力になれることがあったら言ってね。兄さんから聞いてるとは思うけど、どこか遠出するなら俺に行先を教えてほしい。それ以外は自由にしていいよ」

「わかった」


 遠出の際はキヒトに報告。これさえ守れば大丈夫。イスパは納得し、この町の冒険者ギルドへと向かった。

 



 

 ギルドの建物に入り、まずは掲示板へ。端から目を通していき、下の方まで来たところで、イスパの目が一点を見つめた。


「…………!」


 いつもは特に新鮮でないギルドの掲示板に、目を引く情報があった。他に比べて明らかに新しい紙に書かれている。『ブルームで人殺しが起きた。殺されたのはウェルナ=ナトゥア』と。

 この世界で、人殺しはさして珍しいことでもない。重要な人物が暗殺でもされれば話題になるが。ウェルナは名指しされるほどの人物なのだろうか?

 つい最近のことがここに書かれているということは、情報を持っている人間がいるはず。イスパは掲示板の全てに目を通した後、くるりと振り返った。改めて見ると、ギルド内の雰囲気がどこか奇妙に感じる。冒険者ギルドは大人の男が賑やかにしている印象があるが、ここはなんだかどよめいていた。イスパはその中の、テーブルを囲んで何事か話している男たちに近づいていく。


「聞きたいことがある」


 この男たちが何を話しているのか知らないが、躊躇いなく話を切り込んでいく。


「ウェルナ=ナトゥアのこと、何か知ってる?」


 返事を聞かずに用件を叩きつけた。男たちはじろりとイスパの顔や体に視線を巡らせ、やがて一人が立ち上がった。


「お前もあの殺しを調べてんのか? 情報が欲しけりゃそっちも出しな」


 どうやらあまり友好的ではないようだ。最近のことなので情報はそれ相応の価値がある。


「ウェルナがやってた研究の内容なら知ってる」


 大樹の栽培と魔石。これは知られていないはず。殺されたことによって明るみに出ていなければ、だが。


「大樹の研究だろ? それならとっくに知られてる」


 知っているらしい。魔石のことまで知っているとは思えないが、イスパはそのまま話に乗ることにした。


「偏屈で何をしてるか知られてないんじゃないの?」

「それはブルームの町での話さ。どういうわけか、あの町の中ではその情報が遮断されてる。奴が大樹の研究をしていると知ってるのは、ブルームじゃ一部の人間だけだ」


 イスパが知らない情報。そういえば、ブルームの町では聞き込みをしていない。ウェルナのことを誰が知っているか等は調べていない。ブルームの町長が閉鎖的だとはウェルナが言っていた。実際、イスパは町の前で門番に止められた。ルーガハーツですらなかったことだ。


「じゃあ、誰に殺されたの? その一部の人?」

「さあな。これ以上知りたけりゃ、金でも出しな。他に払う方法があるならそれでも構わねえぜ?」


 この町の冒険者は意地悪なのだろうか。それとも、この情報が高額なのか。


「他の方法って?」


 イスパは普段から、大した額の金は持っていない。払うのなら別の方法になる。


「そりゃ、お前も女ならやりようがあるだろ」


 あるらしい。が、イスパにはよくわからない。女だったらなんだというのか。


「何かの依頼なら、やるけど」


 女どうこうは関係ないが、労働で支払うことはできる。獣でも人間でも退治できる。


「おいおい、そうじゃねえだろ。もっと単純に——」


 男の手がイスパの体に伸びる。


「……あっ」


 次の瞬間、男は顎を下から叩かれ、よろめきながら後ろに倒れた。何故か、声を上げたのはイスパのほうだったが。以前にも似たようなことがあったためか、無意識で風をぶつけてしまっていた。


「なっ……このガキ!」


 一緒にテーブルに座っていた男たちが揃って立ち上がる。怒らせてしまった。しょうがない、力で切り抜けるか……なんて考えていた矢先。


「お待ちください」


 低音な男の声。制止の声としてはずいぶん丁寧で渋い声が聞こえてきた。


「ギルド内で乱暴はお控えください。聞けばそちらのお嬢さんは、情報を求めてここに来たようではありませんか。拳ではなく言葉で解決できるはずです」


 低い声でやたらと礼儀正しい言い方をする。冒険者ギルドには似つかわしくないほど丁寧だが、それでこの男たちの怒りは収まるのだろうか。


「管理人さんよ。乱暴してきたのはこっちのガキだぞ?」

「それはそうですが、先に『手を出した』のはそちらの方でしょう」


 大の字で寝転がっている男に目をやりながら、渋い声の男は言った。どうやら今の流れを全て見ていたようだ。殴ったのはイスパだが、何かしようとしたのはあの男が先。


「外では自由にしてくださって結構ですが、ここでは私が管理人です。私の方針が気に食わないのでしたら、ご退出を」

「……ちっ」


 怒った男たちは渋々といったふうに引き下がった。倒れている仲間はそのままだが、椅子にどっかりと腰かけた。


「失礼いたしました。貴女にも事情はあるかと思いますが、ここでの暴力沙汰はどうかご勘弁を」

「わかった」


 理由があったとはいえ、イスパが乱暴をしたのは事実。そこは反省。


「貴女も、ウェルナ氏の殺害について調べているのですね? でしたら、私の知る限りの情報をお教えしましょう。対価は貴女が持っている情報……ということでいかがです?」

「いいよ」


 対価として足るのかはわからないが、穏便に話せるのならなんでもいい。イスパは快く受け入れた。


「では、こちらへ。申し遅れましたが、私はジョルジオ。ジョルジオ=べフィール。お見知りおきを」

「イスパ=サコバイヤ。よろしく」


 互いに名乗り、場所を移す。ギルドの入り口近くにある席に座る。ジョルジオはカウンターを挟んで対面に立ち、イスパに飲み物を出した。ギルドの管理人というより、酒場の店主のようだ。ジョルジオの立ち姿や服装からもそう思えてくる。


「では私から。ウェルナ氏の殺害についてですが、単なる個人での行いではないようです。町ぐるみ……とまでは言えませんが、警備隊なども抱え込んだ事件かと思われます」


 強盗や私怨によるものではなく、町という組織での犯行。そうだとすると、イスパがすぐに犯人扱いされたのもうなずけるか。


「殺害された理由は不明ですが……貴女は何かご存じなのですね?」


 まだ何も言っていないが、ジョルジオは見当がついているようだ。ウェルナ=ナトゥアについて、イスパが重要なことを知っていると。


「ウェルナの研究。魔石が奪われた」

「マセキ……ですか?」


 やはり、魔石のことは知られていない。ブルームに近いこの町のギルドにも知られていないのだから、知っているのはウェルナと直接関わった人間だけだろう。


「魔力がこもった石。神木に刺激を与えると採取できるらしい。大きいのを見つけたから、ウェルナに届けた。その夜に殺された」


 情報交換にはこの説明も何度もしなければならないだろう。嫌な気持ちになるが、仕方がない。


「なるほど……その大きな魔石というのが貴重なものなのですね。それを奪うために、ですか……」


 初めて聞く物の名前が出てきても、ジョルジオは真剣にイスパの言葉を受け止めている。敵対せず信用して話を聞いてくれるというのはありがたい。


「情報が欲しい。犯人を見つけたい」


 今のイスパはその情報だけを求める。大樹など、今は二の次。ブルームで情報統制されているのが本当だとしたら、情報を得られるのはむしろこの町になる。


「その魔石の価値をわかっている人間でなければ、奪うことはしないでしょう。犯人も大樹の研究者、しかもウェルナ氏に近い人物……心当たりはありませんか?」

「わからない。ウェルナが誰かと会っているのを見たことがない」


 イスパがウェルナと話すとき、常に二人きりだった。あの家に客が招かれているところを見たことがない。外でウェルナが誰かと話しているのも見ていない。そもそもイスパは、数日しかウェルナを見ていないのである。


「では、大樹の研究者についてはどうです? ウェルナ氏に関係なくとも、独自の研究をしている方などは」

「それなら、いる」


 研究者と聞いて一番に思いつく人物がいた。逆にそれしかいないが。


「バーゼル=リーブス。ルーガハーツで妙な儀式をしてる」


 今のところ、この二人しかイスパは知らない。町の聞き込みで大樹を調べているという人に話を聞いたことはあるが、皆揃ってルーガハーツやその近くといった話しかしない。


「バーゼル=リーブス……? はて……どこかで聞いたような……」


 ジョルジオの記憶に何かが引っかかっている。バーゼルの名前にそんな反応を示した者は初めて。イスパは無意識に身を前に乗り出した。


「知ってるの? バーゼルのこと」

「いえ……ここに入ってくる情報といえば、周辺の町のものが多いのですが……」


 ジョルジオが思い出そうとしているのは伝わってくるが、出てこないようだ。ここリダの町に集まってくる情報、その中にバーゼルの話があったのだとすると、バーゼルはこの近くに何か関わりでもあるのだろうか。


「思い出せるよう、情報を洗っておきます。そのバーゼルという方のことで、何かわかっていることはありますか?」


 先ほどの男たちとは違い、ジョルジオはかなり協力的だ。イスパが持っている情報を渡すことにはなるが、今は真実を突き止めることが優先。


「ベスティっていう女の子が側にいる。雷の魔法が使える魔法使い」


 まさに今、ウィセナが調べてくれている。ジョルジオの情報網にはかかるだろうか。


「ベスティという名前の女の子、ですね。雷の魔法とは……噂だけの話かと思っていました」


 雷の魔法を使えるというだけで珍しい。イスパもその一人だが、ここでは言わない。今必要でない情報まで教える必要はない。


「そちらも調べてみましょう。情報提供、ありがとうございます。こちらもそれに応えられるよう、力を尽くします」


 かなりやる気のようだ。ありがたい話。ただ、一つ問題がある。


「その調査、七日以内に何か成果は出せそう?」


 既に一日が経過しているが、ウィセナが自ら課したリミットは七日。おそらくそのときにはイスパも行動を開始することになる。できればジョルジオの方もそのくらいで区切りをつけたい。


「では、五日後に一度ご報告させていただきます。といっても、その日数でできることに限りはありますが……」

「それでいい。ありがとう」


 五日。狙ったようにちょうどいい日数だ。話を区切り、イスパは立ち上がった。


「先ほどは失礼を致しました。ですが、当ギルドは貴女を歓迎致します。またいつでもお越しください」


 最後まで礼儀正しい姿勢を貫いたジョルジオに別れを告げ、イスパは町へ繰り出す。

 ウィセナに会うまであと六日。それまで何もしないわけにもいかない。ブルームの町はカルスとクロトが調べている。この町のことはキヒトが聞き込みをしている。ならば、自分には何ができるか。


「キヒトに伝えないと」


 行き先はキヒトに報告。カルスの言いつけを守るため、イスパはキヒトを探す。町の中から見つけるのは容易ではないが、それでも探す。ここはそう大きな町でもない。知らない人間ならともかく、知っている人間は見た目や歩く所作で見分けられる。そこらの家の屋根から屋根へ飛び、上から見る。間もなくしてイスパはキヒトを見つけ、そのすぐ横に降り立った。


「うわっ、びっくりした……急に上から来ないでよ、イスパ」


 キヒトが文句を言ってきたが、無視。


「ブルームの町に行く」


 やはり、あの町は怪しい。調べるのはそこしかない。


「えっ? でも、イスパは犯人扱いされてるんでしょ? 危ないんじゃ……」


 キヒトの言う通り、イスパはウェルナ殺しの犯人として見られている。だがそんなことを言っている場合ではない。


「それでも、やりようはある。暗くなる頃に行く」


 夜ならば警備隊も満足に見えない。万が一イスパの姿を見つけられたとしても、夜の闇で捕まえられるわけがない。


「うーん……イスパのことを止めろとは言われてないけど……行くなら気を付けてね」


 特に何も咎められなかった。止められても行くが。


「じゃ、行く」


 許可を得たイスパは、すぐにブルームへ向けて出発した。

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