第31話 鎧騎士は連携する
快音を響かせつつ迫り来る木魚の大群は、十人十色……十魚十色な行動をしてくる。例えばこちらを無視して水の流れのままに流されていったり、その場で止まって魔法を発動しようとしてみたり等々、色々としてくる。
――数が多いと意図せずの連携が成立するから厄介だ。
一体一体は一掴みで即浄化される雑魚だが、こうも数が多いと対応に困るぞ。
飛んでくる木弾攻撃は無視。飛び越えようとした木魚を盾でぶっ飛ばす。
木弾を飛ばしてきた木魚は、流れるように掴み浄化して数を減らした。
――昨晩、魔法石でピカピカにしたばかりなのに悲しい。
大したダメージを受けない木弾攻撃だが、こうも受け続けていると鎧に傷が増えていく。
ミラの魔法石で修理可能といっても、彼女が迷宮調整をするのは夜なので……。
もしも一人で奮戦していた場合、それなりの時間を傷だらけで過ごすことになってしまうだろう。
だがそんな心配は不要だ。
――私には頼れる仲間が居るのだから!
「さっきからグチグチうるさい! 射かけるは雷の一矢! 【サンダーアロー】!」
後方から一条の閃光が走り抜ける!
私の思いを読み取り続けて根負けしたらしいシーラからの援護射撃は、かなり離れた場所に固まっていた木魚に着弾。一網打尽にする。
なんとなくシーラの扱いが分かってきた。
魔法にこだわりがあるらしく完璧に制御しないと気が済まない彼女だが、こうして思いの丈をぶつけるとブチ切れて魔法を発動してくれるのだ。ブチ切れても使いにくいと言ってる【マインドスキャン】を切らさないのも彼女のこだわりなのかもしれない。
少し痺れる気がするけど、鎧の傷が増えるわけではないので何の問題も無い。
オマケに木魚達の動きが止まるのも都合が良い。
水に浸かっているから、そのぶん強い痺れを感じているのだろう。
私をスルーした木魚も痺れてしまったのか水の流れに乗って戻ってきたので、チョップを食らわせて浄化する。
乱戦で偶然気が付いたのだが、雑魚相手なら触れるだけでも浄化できるのだ。
「助かったわ! 後輩君! シーラ! よくもやってくれたわね~! えいえいえいえい!」
「うお! 流れちまう前に回収しねえと!」
その隙に体勢を立て直したアリシアが背負っていたロングレイピアを抜き、復讐だと突いて突いて突きまくる。彼女に突かれた木魚達は次々と消えてゆき、魔石などのドロップ品が残された。
ドロップ品は身軽なホーネットが回収している。
放っておくと、また奥へ流れてしまうからな。
大群とはいえ、調整士が倒しやすいようにしているから。
パターン化してしまえば、ダンジョンの魔物は敵じゃない。
消化試合の始まりだ!
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最後の木魚を空高く蹴り上げると後方から紫電が奔り、文字通り手も足も出ない相手を貫く。後には魔石と木の皿が残されて、そのまま落ちてきた。
「ふぅー! 良い仕事した!」
「大漁だったけど。もう、あんなのは勘弁してくれよな」
「ごめーん……」
一仕事したように汗を拭ったアリシア。
彼女に対してジト目のホーネットが皆の思いを代弁する。
「このシーラ様が助けてあげたんだから、恩に着なさいよね!」
「うー……助かりました」
私としてもダンジョンで油断するのは感心できない。
慣れてきた頃が一番危ないと、ミラも言っていた。
「後輩君もごめっ。 何!?」
両手を合わせて私たちに謝ってくるアリシアを腕組みのポーズで見ていると、下流の方で強烈な光が炸裂した。
――何事だ!?
「運が良いのか悪いのか。未調整モンス……フィールドボスが生まれたみたい。来る!」
「なんで!?」
「マジかよ……」
しかめっ面のシーラの言葉で、調整中に見た魔物を思い出す。
彼女が繰り出してきた使い魔ほどじゃないが、どいつもこいつも強敵だった。
フィールドボスというのは何らかの理由で未調整な魔物の呼び名だ。
倒しやすいように調整されていないから、危険な魔物の代名詞でもある。
――これは一筋縄ではいかない。
光の炸裂した方を見ていると、軽快に木を叩く快音がこちらへ迫ってくるのを感じる。音もシルエットもずいぶんと大きい。木魚のような小物ではなさそうだ。
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