第1章5-6

意識を取り戻したのは、それから3日後だった。

その間、不思議な夢を見た気がするが、やはり覚えていない。

目が覚めたときには、周りには誰もいなかった。そのはずなのだが、お腹の辺りに温もりと重さを感じる。

意識がはっきりしてくるとその感覚はもっとはっきりする。

何か分からずに、そっと上半身を起こすとそこにいたのは・・・オウム?いやオウムではない。色も体形も少し違う。

とにかく派手で色んな色の混じった、ニワトリより一回りほど小さく、ぽっちゃりな鳥が乗っている。

私が起き上がったので、その鳥は短い羽で、パタパタ飛んで、私の肩に止まる。

全く状況の判断が出来ずに、座ったまま動けずにいると、耳元で声がした。

「起きた?起きたね!大丈夫?」

????????

誰か喋ったけれど、私の他にはこの鳥しかいない。

するとまたパタパタ羽ばたいて、今度は目の前に来た。

「僕?僕は僕だよ。桜綾(オウリン)が起きないから僕も寝てたの。」

うわ・・・この鳥喋ってる?何?この急なファンタジー展開・・・それとも私また違う世界に記憶持ったまま来たとか?

「ねぇ大丈夫?」

鳥が聞いてくる言葉に、反射的にうんと頷くと、鳥は嬉しそうに私の周りを飛び回る。

「喋っているのは、君・・・なの?君は・・・何?鳥?」

「僕は僕だよ。鳥じゃない。」

うん。意味不明。

自分が目にしていることが、どういうことなのか理解出来ずにいると、灯鈴(とうりん)が部屋に入ってきて、叫び声を上げる。

「桜綾(オウリン)様!目が覚めたのですね!って何ですか、この鳥?は!どこから入ったのかしら!」

灯鈴(とうりん)がいるということは、ここはまだ黄仁で間違いないらしい。

「僕は鳥じゃない!僕だよ!」

そう叫んで私の肩に戻ってくるが、どうやら灯鈴(とうりん)には聞こえていないらしく、必死で私から離そうとしている。

鳥?は私から離れまいと、必死に足で私の肩に爪を食い込ませる。

「灯鈴(とうりん)、ちょっ、ちょっと待って。痛い、痛いから。」

そういうと灯鈴(とうりん)が鳥を離す。鳥は慌てて私の腕の中に潜ってくる。

痛い方の肩をさすりながら、仕方なく鳥を抱えた。まるで、ぬいぐるみみたいだ。

「桜綾(オウリン)様、3日も目覚められないので、皆、心配しておりますのに、何故、鳥がいるのですか?」

灯鈴(とうりん)の言っている事も支離滅裂だが、言いたいことは理解出来た。

「私3日も寝てたの?道理で体が痛い訳だ。あっ鳥はね、さっき目が覚めたら、もうこの子が私のお腹の上にいたの。私には鳥の話し声が聞こえるんだけど、灯鈴(とうりん)にはどう聞こえるの?」

「へっ?この鳥の声ですか?えっ普通に・・・チュンチュンですかね?」

「あぁそう?そうだよね。うん。忘れて。」

「なぁとにかく、お目覚めで良かったです。鳥・・・についてはまた後で。取りあえず、皆に知らせてきます。」

灯鈴(とうりん)はそのまま部屋を出て行くが、鳥は相変わらず、腕の中にいる。

仕方なく、そのままの状態で鳥を見下ろす。

「君はどこから来たの?君の名前は?」

「どこから?わかんない。気づいたらここにいたの。名前も知らない。僕は僕だから。」

なんだ、この気の抜けた会話は・・・

「どこから来たか分からなかったら、帰れないだろうし・・・喋る鳥を放置出来ないし・・・どうしよう・・・」

「僕は桜綾(オウリン)の側にいるの。だからここにいるの。」

桜綾(オウリン)って・・・まぁそれは良いとして、つまり、ここに居たいということか。

「ここに居たいの?う~ん・・・取りあえず、宇航(ユーハン)様が帰って来るまでは、いいと思うけど・・・宇航(ユーハン)様に反対されるかも」

「大丈夫!僕、ここに居る!」

何を根拠に大丈夫なのか分からないが、何だか本当に気が抜ける。ここに居たい気持ちだけは伝わってくるけど。

見れば見るほど変な・・・綺麗な鳥だ。桜の記憶の中にある「ケツァール」という鳥にも似ているが・・・ちょっとフォルムが・・・

でも悪い感じはしない。と言うよりも、こうして抱っこしていると、安心感がある。

仕方ない。宇航(ユーハン)様が戻るまで、とりあえず預かろう。

「じゃあ僕って言うのも変だから、名前付けてあげようか?」

「うん!付けて、付けて!」

そうは言ったものの、すぐには思いつかない。どうしよう。鳥だから、セセリ?テバ?ズリ?いやいや食材じゃないし・・・

日本で言うとカラフルな鳥・・・うーん・・・カラ・・・華羅(カラ)。そうだ華羅(カラ)がいい。

「華羅(カラ)なんてどう?異国の言葉で色とりどりをカラフルっていうんだけど、そこから取って華羅(カラ)。」

「うん、僕、華羅(カラ)!華羅(カラ)は僕!」

またも嬉しそうに私の周りを飛び回る。こう見ると中々可愛い。カラフルで、少し丸めの体と、短い羽に不釣り合いなほど長い尾羽。つぶらな瞳も可愛い。

そんな華羅(カラ)の様子を見ながら笑っていると、鈴明(リンメイ)達が部屋にやってきた。

「うわっ!何この鳥!」

私が目覚めた事より、華羅(カラ)に驚いたらしい。

「桜綾(オウリン)、何なのこの鳥・・・あぁそれより、体は大丈夫なの?目を覚まさないから、もう起きないかと心配したじゃない。」

「医者は大丈夫と言っていただろうが。まぁ色々あったから心労が溜っていたんだろう。」

「で、この鳥は何?」

鈴明(リンメイ)と師匠が交互に話す。炎珠(エンジュ)は黙ってその様子を見ている。

「もう大丈夫。3日も寝れば、十分でしょ。心配掛けてごめんね。あと、この子は良くわかんないけど、ここにいたいみたい。だから名前付けたの。華羅(カラ)って言うんだよ。」

「桜綾(オウリン)様!そんな得体の知れない鳥を飼うんですか?」

灯鈴(とうりん)が驚いた様な声で私に言う。

「うん。だって可愛いでしょ?それに悪い子じゃなさそうだし。」

華羅(カラ)は私の肩で羽をパタパタさせている。

「何を呑気な・・・大体、お前は倒れたり怪我したりしすぎだ!もう少し考えて行動しろ!」

師匠は少しお怒りのようだ。

「ごめんなさい。気を付けます。何で倒れたかは分からないけど。気を付けます。」

「桜綾(オウリン)様、論家の者は勿論ですが、知らない人間は工房には入らせないように門番には指示しました。工房付近に護衛も配置しましたので、今後はこんなことにはなりません。後、伝書が来たら必ず、私か憂炎様に渡してください。中は見なくて結構です。」

炎珠(エンジュ)にそう言われて少しほっとした。久しぶりに湧いた腹の底から這い出る怒りを考えると、もう関わりたくない。

あの洵新(ジュンシン)という人はきっと、私の事をあまり知らずにここへ来たのだろう。

それなのに怒りにまかせて、つい声を荒げてしまった。あの人が悪いわけではないのに。

「論家が諦めてくれれば良いのですが、万が一と言うこともありますので、十分に注意してください。」

「炎珠(エンジュ)、ありがとう。これからはそうするね。」

炎珠(エンジュ)は満足そうに頷いた。

「みんな、ありがとう。それと、ごめんね。醜態をさらして。」

「桜綾(オウリン)って怒ると怖い部類の人だね。でも、私はスッキリした。途中から殴りたくて、押さえるのが大変だったから。」

鈴明(リンメイ)は笑いながら、私の肩を叩く。なんだか恥ずかしい。

「本当に衣を脱ぐかと、止めるのが大変でした。あんなに力があるとは・・・私も鍛錬せねば。」

炎珠(エンジュ)は真面目にそう答える。

(いやいや、火事場の馬鹿力なだけですから・・・)

「本当にもう大丈夫だから。早く鉛筆も作りたいし、これ以上、寝てられない。灯鈴(とうりん)、お腹すいたから何か食べたい。」

灯鈴(とうりん)は頷くと、私のご飯を作りに、すぐさま部屋を出て行った。

師匠と鈴明(リンメイ)、炎珠(エンジュ)は部屋に残り、それぞれが言いたいことを私に言い始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る