056-クライアレン/エリワンステップ防衛戦・開幕

「ただいま参上いたしました」


エミド本城。

ジェキドの前で跪く女がいた。

キシナではない。


「第二十一船団長アディナです」

「第十五船団長グンドです」

「待っていたぞ。さあ、船団を率い、クライアレンを奪還せよ」

「「はっ!」」


二人は去って行く。

ジェキドにとっては、都合のいい玩具であるキシナではなく、イレギュラーの種を孕んだ船団長に対しては丁重に接する理由もなかった。


「いいのですか? 作戦の説明などは....」

「いらぬよ、そのための抑制レベルの低下なのだからな」


ジェキドは苦々し気に呟く。

抑制レベルを下げた人間を、それが強さになっているとはいえ放置するのは、彼にとってはそれほどに面倒な事であった。


「それよりもキシナよ」

「はい」

「今回の戦いを、どう見る?」

「問題なく勝てるかと。四十二大星國船団が出たうえ、クライアレンはエミドの領土です。負ける要素がありません」

「そうではない、感情の問題だ」

「.....すみません、分かりません」

「そうか」


ジェキドは悔しそうに視線を戻した。

それを、キシナは僅かに生まれた違和感を感じながら見つめるのであった。







そして。

ワームホールが出現し、エミド艦隊がエリワンステップへと侵入してきた。


『アディナ、お前は本隊と交戦せよ』

『では、偉大なる塔の奪還はお任せします』

『そうしよう』


第二十一船団は即座に探知したVe’zの本隊と、第十五船団はコントロールタワーへとワープする。


『敵艦隊接近』

『ニューエンド、アルカンシエル一斉射』


飛んできた敵艦隊に、回避不能の必殺の一撃が襲い掛かる。


『バカめが』


それを見て、グンドは嗤った。

直後、グンドの乗る艦、ラドジェリアから光の波が放たれる。

波は当たった艦を発光させ、それが全体に拡散したところで、そこにアルカンシエルとニューエンドが直撃した。


『我らを侮ったな?』


そして、光の残滓の中から、エミド艦隊が姿を現した。

前面に展開していたシュヴァリエ=ノクティラノスに、三門のP.O.Dを照射して攻撃する。

シュヴァリエは十二本の触手で連続攻撃を仕掛け、次々とエミド艦を撃沈していく。

だが、シールドは確実に消耗しており、ワームホールからは続々とエミド艦が現れていた。


『ラエリスを出撃させる』


そして、Ve’z艦隊の後部にいた空母アータスから、数十のラエリスが出撃する。

だが、エミド側も負けじと、後方部の母艦を展開する。


『我等もまた、小さな相手の殲滅を得意とするのだよ!』


母艦から展開されたのは、クーラスと呼ばれる、P.O.Dを搭載した艦載機である。

だが、その実態はドローンと変わりがない。

内部の人間は艦に搭載されているモノとは異なり、”整備”されることはない。

それ故に、それを示すかのように、発進した機体の幾つかは停止し、後続の機体に跳ね飛ばされてどこか遠くへと飛んでいく。

洗脳処理に対抗する人間や、”規律”を守らずに秩序を乱した星の生き残りの末路であった。


「.......あんなものまであるとはな」


そして、それを見ていたエリアスは、拳を握りしめた。

戻れなかったエリスと同じ船に乗っていた人間達。

彼らはきっと、その中の一人なのかもしれないと。


「ケルビス――――殲滅せよ」

『お任せください』


エリアスの命に、ケルビスは――――当然であると、答えたのであった。

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