第40話 正義の味方?
俺は立ち止まって辺りを確認する。
「どうしたんですか?」
「気をつけて……誰かいる」
俺は自分と信乃ちゃんに
「……ぅぁ」
「ぁ……ぁぁ」
かすかに呻き声のような言葉にならない獣のような声が聞こえた。それも複数。
「たぶんゾンビだ。俺の後ろにいて」
信乃ちゃんを庇うようにしながら、敵の位置を探る。
右隣の棚の向こうにいるな。
「とりあえず無線で連絡しておくか」
トランシーバーを取り出すと、声を潜めて一方的に発信する。
「こちらC班。別棟にてゾンビらしき敵を発見。各自気をつけてくれ」
それだけ言って通信を切る。応答した声を敵に聞かれたら厄介だからな。
「よく、サクッといこう」
確実に倒すには
ならば、近接で仕留めるか。そう考えてマチェットを構える。
暗殺者のように近づいて、その頭を撥ねた。
「左一文斬り」
よし、一匹倒したぞ。あとはどこだ。
移動するので、信乃ちゃんの手を握る。嫌がられると思ったが、素直に付いてきた。
レジのところに一体いる。
「諸手突き!」
さらに近づいて一体倒す。
まだいるだろうな。
さらに耳を澄ませて敵の位置を……。
「おい、アルファとベータが消えたぞ」
「誰かいるのか?」
とっさにしゃがんで物陰に隠れる。信乃ちゃんも、もちろん従わせた。
「ぁ――」
「……」
そして、彼女を喋らせないように、指を口に当てて沈黙のジェスチャーをする。
「隠れてないで出ておいでぇ、ゾンビにしてあげるからね」
それはグールだった。白い髪に赤い目と牙を持ち、そして狂人だと思わせるような言動。
俺は冷静に観察する。今のところ二人のグールが確認できた。
「見つけた! そこか」
グールの一人がこちらに来る。
仕方ない、敵の人数を確認してから攻撃したかったが。
俺は立ち上がると、こちらへ向かってきた相手に向かって「
だが、魔法の槍は避けられてしまう。ゾンビと違って、移動する敵は照準が難しいからな。
外したことで頭を瞬時に切り換えて、近接戦闘を行う。
目の前のグールに突進し、ローキックを打ち込んだ。
人形のように転がっていく敵。だが、もう一人のグールがこちらに向けて銃を撃ってきた。
厄介だな。あいつから先にやるか。
そのまま、跳躍して距離を詰めると、銃を持つ手を蹴り上げた。
蹴飛ばされる拳銃。
トドメを刺そうとマチェットで斬りつけるが、避けられてしまう。少し大振りだったのがまずかったか。
逆に向こうの拳がこちらに当たる。まあ、ダメージはない。
俺はマチェットを構え直し、じりじりと相手に近づいていく。
だが、向こうも慎重になり、腰から大型のナイフを抜いて構える。
こんな狭い燃えやすいものがある空間でなければ、
そんな時に3人目のグールが現れる。そいつは一匹のゾンビを従えていた。
敵は信乃ちゃんのところへと向かう。
彼女は
「おまえ、何者だ?」
目の前のグールが話しかけてくる。
「ただの人間だよ」
「そのわりには頑丈だな。我らと同じ回復機能を持つのか?」
「企業秘密だよ。いちいち説明してられないって」
「なるほど、何か秘密があるのだな。おまえは持ち帰って研究対象にしなければならない」
目の前の敵をどうやって仕留めようかと考える。信乃ちゃんも気になるが、各個撃破で地道に敵を排除すべきだろう。
「イプシロン。何を手こずってるんだ。こちらはガンマを確保したぞ」
3人目のグールから、そんな言葉が目の前の敵に投げかけられる。
「先に戻ってろ、俺もこいつを確保してから拠点に戻る」
この野郎、俺を倒すつもりなのか。やれるもんならやってみろ、と思ったが、信乃ちゃんが連れて行かれそうだな。冷静にならないと。
それなら力技で倒すか。
「倒せるものなら倒してみな!」
そう言ってマチェットを投げナイフのように敵に投げつけると、腰を沈めてそのまま突進する。
マチェットを避けたことで隙を見せた敵は、ふいを突かれて簡単に倒れてしまう。そして、倒れた敵の頭を掴み、力任せに首を折る。
ぐったりとしたところで、
そして粒子化して崩れ去るグール。
思ったより時間がかかったな。信乃ちゃんのいた場所を確認すると、姿が見えなかった。
グールに連れ去られているのか? マズいぞ。
――『ピー!!』
俺は緊急用の警笛を鳴らす。先ほど無線で知らせたから、仲間がこちらに向かっている可能性も高い。
マチェットを回収すると、信乃ちゃんを探すために駆け出す。まだ外には出ていないはずだ。
「信乃ちゃん!」
入り口付近で彼女の姿を見つける。
だが、彼女の近くには一体のグールが倒れていた。
しかも、上半身と下半身が綺麗に真っ二つに切り裂かれている。まさか、信乃ちゃんがやったのか? いや、彼女は武器を持っていない。
ならば……。
信乃ちゃんの側には、見慣れない人物が立っている。スーツ姿で仮面を被った男性だ。仮面はいわゆるベネチアンマスクと呼ばれる目の周りを隠すタイプである。
「誰だ?」
彼は白い手袋をしていて、その手に持っているのは日本刀にも見える。少し短いような気がするから『脇差し』か。
俺は戦闘態勢をとる。魔法を撃ち込もうと右手を前に――。
「待って下さい」
信乃ちゃんが、謎の人物の前に立ちはだかる。
「危ないよ!」
「この人はあたしを助けてくれたんです」
俺は右手をおろす。とはいえ、仮面を付けてて怪しいんだよなぁ。
仮面の男は、肌の感じからして50代だろう。髪の色は白髪交じりの黒髪。瞳は……赤目ではない。グールではないと思いたいが……。
「信乃ちゃんを助けてくれたことはお礼を申し上げます。お名前を教えて頂けますか?」
俺はそれでも警戒態勢を解かなかった。なんだろう、この感覚。
男の目がこちらへと向けられる。これって、あの時の感覚と似ているな。親帆さんを救出に行ったさい、拠点の偵察してた時に感じたあの視線。
そして、先ほどグールと対峙する前に感じたあの視線とも。
「悪いな、それは教えられない」
「そうですか」
「さらばだ」
謎の男は、そう言ってどこかへと消えていく。
だが、警笛に気付いてこちらに来ていた小春と道世もその男を見ていたらしい。
「仮面、妖刀、謎の男」
道世がそう呟きながらうっとりとしている。そうだな、中二病には憧れの存在かもな。
「先輩、あの人誰だったんですか?」
小春の反応が一般的だよなぁ。
「さあ? 正義の味方?」
「先輩とは話が合わなそうですね」
「まあ、そうだな」
だけど、正義の味方ってわけでもなさそうなんだよなぁ。
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