第3話
彼が言ったの。逃げ出してしまおうって。だから、わたし言ったの。
うんって。
そんなこと起こるはずもないことだった。
だけど突然、彼が現れて、私の人生に彼が現れて、それで
わたし、うんて言ったの。こんな未来が来るなんて、
私、思ってなかったの。だからもう、その日の夜中に、彼の車に荷物を積んで、この町から出ていくことにしたの。
私が人を愛せることを証明するの。
彼が私を愛してくれたみたいに。
彼はスピードを出した。私は窓を開けて、その風に酔いしれた。
夜景の明るさは、私の心にもちょうどよかった。
私は何も言わなかった。ただ、考え事をしてるふりして、助手席から、外を見てたの。窓の反射から彼を見るとやっぱりかっこよくて、これは嘘なんじゃないかって気がしてきたの。でもやっぱり、何も言わなかった。
夢を壊したくなかったから。
そうしたらなんだか、本当に眠くなってきて、重い瞼にあらがうように彼の手に触れようと腕を伸ばした。
ハンドルを握る彼を見ると、優しく微笑んだ口元があった。
逃避行してるみたい、この旅はいつまで続くのかな。
いつまで走っていられるかな。
ずっと終わらなければいいな。
でも物語でさえ、終わりが来る。
いつか、ガソスタに行かなければならなくなる。
終わってほしくないと言いながら、終わりを考えてるのは、
辛い気持ちを和らげるためのずるい行為。
永遠を信じていない、誰も信じていない行為。
だから今私にできるのは、彼が握ってくれた手を意地でも離さないこと。
温かくて骨ばって細くて柔らかい、この手を離さないこと。
この旅はいつまで続くのかな。
私を見ててほしいな。
もしこのまま不運な事故でカードレールから崖へ転落しても私は神様を責めないよ。
幸せな夢のまま、幸せな人生だったと言える不幸な女の子でいれるんだもん。
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