第4話 もう1人の空(クウ)

 私の名前はクウ·マツディーラ。現在2歳になりました。

 私が産まれたのは魔人種の国の一つグレートマシンガーン国。もう一つの魔人種の国、マシンガーセットとは反対の位置にある人種の国、グレンタイサーン国との境の辺境の地の領主の娘だったの。


 ついでに言うと私は前世の記憶があるの。前世の私は松寺空まつでらくうという名前で、同じ漢字で読みが違う名前の男子だった観寺空かんでらそらくんが好きだったのはココだけの話にしてね。


 観寺くんはいつも1人でボーッとしてる男子だったけど、私は知ってる。先生たちからの評価はかなり高かったの。でも存在感が薄い所為で先生たちも大っぴらには観寺くんを褒めたりはしてなかった。学年1位を常にキープしてたのは私だけが知ってると思う。用事で職員室に行った時に先生たちがそう言ってたのを聞いたから。

 

 前世の学校では順位発表なんてなかったからクラス委員だった早乙女くんが自分が学年1位だって自慢してたけどそれは間違ってたの。女子の多くは騙されてたけどね。


 でも私はそんな観寺くんに勝手に親近感を持って勝手に好きになってたの。私なんかに振り向いてくれる筈は無いんだけどね。


 でも今回の修学旅行で勇気を出して観寺くんに告白しようと思ってたのにこんな事になるなんて……


 まさかの観寺くんが私の婚約者なんてっ!?


 今世の私はマツディーラ辺境伯の次女。ソラくんは人種の国に産まれたけど同じく辺境伯の三男。釣り合いは取れてると思うの。


 もう絶対に破棄されないように今世では頑張るの!! 今世の私はラスボスなんだから!!


 そうなの、私の職業は【ラスボス】……


 神様の勘違いでそうなっちゃったけどもう仕方ないってそれについては諦めたの。何故か分からないけど魔法に特化した人生になってるみたい。私の能力値はこんな感じなの。



名前∶クウ·マツディーラ

年齢∶2歳

職業∶ラスボス

称号∶辺境伯次女

位階レベル∶001

体力∶100

魔力∶200

技能スキル∶言語理解·限界突破

  魔法

【攻撃】火魔法·水魔法·風魔法·土魔法·闇魔法

【防御】火魔法·水魔法·風魔法·土魔法·闇魔法

【混合】氷魔法·雷魔法·時魔法·空魔法·界魔法



 でも私はそれに甘んじたりはしないの。前世でもソラくんに負けず劣らずのモブだったけど、みんなには知られずにちゃんと古流の武術を学んでたの。


 だからその基本稽古を1歳を過ぎて立てるようになってからは毎日毎日続けているの。


 私はラスボスに相応しい女になって見せるわっ!!

 魔法だけじゃなくて近接戦闘もちゃんとこなせないとラスボスに相応しくないんだから!


 そう意気込んで私は自分を日々鍛えてます。


 そして、何と今日はソラくんが我が家にやって来るらしいんです。


 ど、どうしましょう!? ここは2歳児らしく振る舞うべきかしら? 私は両親には前世の記憶がある事を伝えてる。兄弟たちにはまだ言ってないけどいずれは言うつもり。


 あっ!? そう言えば神様が前世の記憶を思い出せるかどうかは運次第だって言ってたわ。ソラくんはどうなんだろう? 観寺くんとしての記憶を思い出してるのかな? それならちゃんとお話できるけど……


 と、取り敢えずこの格好のままじゃダメね。着替えないと!


「ミラ、お着替えします」


 私は2歳にして普通に話せる。前世でもそうだけど女の子の方がそう言う成長は早いみたい。ソラくんはどうかな? 早くお喋りを聞いてみたいな。


「ウフフ、クウ様。随分とご機嫌ですね」


 私付きである侍女のミラがそう言って微笑む。


「あら? そんな事ないわよ。ただ婚約者様をお迎えするのに相応しい装いになっておくだけよ」


 私はミラにはツンデレだと思われている。だって恥ずかしいからどうしても本心とは違う言葉が出てきてしまうの。でもミラと両親には私のそんな性格と態度はバレちゃってるんだけど。


「ウフフ、畏まりましたクウ様。それならばコチラのドレスがよろしいかと思います」


 ミラが用意してくれたのは私のお気に入りのドレス。お父様やお兄様たちによく似合うと褒めていただいたドレスなの。


「そうね、それで良いわ」


 素っ気なく返事をしながらも本当の私の内心は『このドレスでソラくんをメロメロにしちゃうのよ!!』と昂っていたの。


「はい、それではクウ様。お着替え致しましょう」


 ミラはそう言って姿見の前に私を連れて行った。そして私はミラに教わりながら自分で着替えていく。これは前世の記憶もあるからどうしても自分でやるとワガママを言って通った事。

 貴族の令嬢ではあるけれどもイザという時に自分で何も出来ないなんて無様な事になりたくないとお父様とお母様に言うとアッサリと認めて下さったの。 


 物わかりの良い両親の元に転生出来て良かったわ。


 着替えを終えた私は家令のジルが呼びに来るまで淑女レディらしく部屋で大人しくまつのよ。


 部屋で大人しく…… 読書でもして…… 魔法の研究でもして…… お茶を嗜んで……


 ダメッ!? 落ち着かないわっ!! ど、どうしましょう?


「ウフフ、クウ様ったら心ここにあらずですね。大丈夫ですよ、もう少ししたらカンディーラ家の方々がお見えになりますから。先ずはその逸る心を深呼吸して落ち着かせましょうね。はい! スーハー、スーハー、ヒッヒッフー!!」


 ミラ、最後のは私にはまだ早いと思うわ……


 深呼吸して落ち着いた私は優雅に部屋でミラの入れてくれたお茶を嗜んでいたの。そこに遂にやって来たわっ!?


「クウ様、旦那様がお呼びでございます。カンディーラ家のご当主様、奥様、ソラ様がお越しになりました。第1応接室でお待ちでございます」


 家令のジルのその言葉に私の気合がより高まったの。私はミラに手を引かれながら第1応接室に向かう。


 いよいよだわっ!? やっとソラくんに会える…… ど、どうしよう…… き、緊張してきたわ……


「クウ様、大丈夫ですよ。今のクウ様ならばどのような男子とて必ずイチコロですわ」


 ミラが部屋に入る前にそう言って私に微笑みかけてくれたの。


 そうよ! 女は度胸!! 前世では陰キャでモブだった私だけど今世では頑張って好きな子と結ばれるんだからっ!!


 やっと会えるソラくんに、ちゃんと今の私を見てもらうのよ!! 行くわよ、クウ·マツディーラ!!今世では恋愛にも積極的に行くんだから!!


 だってラスボスだもの!

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