奇跡持ち
「あー、あー、こちらイオリ。ラライア、聞こえるか?」
とっくに降りた夜の帳の中。
僕は右手に話し掛けながらトライアの町中を駆けていた。
『おぉ……まさか本当に通じるとは……はい、聞こえておりますよ』
その右手で動く口からの声にひとまず安心する。
どうやらうまく行っていたらしい。
と言うのも店を出る前のことだ。
僕はシャルの欠片をテーブルに残してラライアにこう伝えていた。
「シャルを通して遠隔で話せるかもしれない。出来た場合は案内を頼みたい」と。
そうして実際に声を通してみたのがたった今という訳だが……やってみるものだな。
欠片レベルのサイズになってしまうと流石にシャルでも動けないのではないかという懸念があったのだが、どうやらシャルは自身の端から端まで本体そのものと呼んで差し支え無いらしい。
一応そういう想定で作りこそしたが……所詮机上の空論だったからな。ここで僕の理論が間違えていなかったとしっかり把握できたのは何気にいい機会だったのかもしれない。
「それで案内ですが……とりあえず町の状態はどのようになっていますか?」
そんなことを考えていると、右手を通してラライアの声が響いた。
いけないいけない。少なくとも今は目の前の検体の方が重要だ。
かぶりを振って思考を切り替えながら僕はあたりを見渡した。
そうして最初に感じたものは、
「なんというか……ゴーストタウンみたいだな」
そう、辺りの建造物はそのすべてが戸を閉め、明かりを消し。
まるで少しでも目立たないようにするかのような様子を見せていたのだ。
実際その通りなのだろう。
動くという死体がどういった存在なのかはわからないが、襲われたくないのなら少しでも目立つような情報は与えないに限るからな。
とはいえこっちとしてはその死体を探したい側なのだが……
「なぁ、ラライア。普段死体どもは何を目的に動くんだ?」
そう考えた僕は、取り敢えずラライアに聞いてみることにした。
それにラライアは少し思い出そうとする様子を見せると、
「そうですね。毎度共通していることといえば……とにかく奴等は
「……生命」
「はい。例えば外を歩く動物、道端の草。奴らはとにかく生きているものをただ殺すのです」
「ほう」
そう言い切るラライアに僕は思わずそう漏らした。
そうしてこうも言う。
「それは……なんとも妙な話だな。」
「妙……というと?」
そう尋ねるラライアの声を聴きながら、僕は少し整理してみることにした。
一般に死体が動くという現象には二つのタイプがある。
一つが、寄生型。
これは文字通りだな。
死体に何らかの存在が根を下ろし、内側から体を動かす。
動きが遅かったり、視界が元の体以上に広かったりするという特徴こそあるが、この場において重要なのはその食性だ。
こうした生物は、あくまで生物であるため、捕食という行為に積極的である場合が多い。それは勿論栄養を摂る為に。
そして、もう一つが、降霊型。
こちらも……まぁ、文字通りといえば文字通りか。
既に死んだ生物の残滓を死体に宿す。
ほとんどの場合、魂自身の持つ肉体の記憶と着ている死体の齟齬により、降りるにしても三時間程度が限度だ。
それを超えると、霊の方から嫌がって飛び出していくが……まぁ、そこは体との相性次第だ。
さて、こっちもこっちで食性の話がメインになるのだが、実のところ、こちらのタイプに食事という行為は必要ないのだ。
なんせ操っているのが霊だからな。消費するものはこの世に留まる原因となっている感情や、執念。
それでも何かを襲うのは、術者がそう望んでいる場合がほとんどだ。
さて、ここまで長くなってしまったが、要するに何が言いたいかというと、ラライアの説明だとどちらのタイプにも当てはまらない様に思うのだ。
三時間というタイムリミットを考えると、降霊型は考えにくい。
が、寄生型にしても食いすらしないのは明らかにおかしい。
そうなってくると、これは明らかな
そう思い至ると共にラライアにこの事情を話すと、
「そこなんですよね。それに加えて先ほどのタイミング……奴らは、『宗教』という単語を探知する術があるようなのですが、それにしたって先ほどの奴らの襲来はあまりに早すぎた。今までこの二つが結びつくことはありませんでしたが、もしかすると、この件はずっと結びついていたのかもしれません」
二つが結びつく?一つは無論、死体の夜にしてももう一つ、宗教……
宗教というと、思い浮かぶのは先ほどのチンピラどもなのだが……というか、そうだ。
「結局あの法衣どもは何だったんだ?」
そう、突然店に押し入ってきたあのチンピラども。
どうにも僕の『宗教』という言葉がマズかったらしいが……
「あれは一般に邪教と呼ばれている集団です。この世に神はおらず、ただ死のみを唯一の支配者として認めるという思想の危険な集団で、我々冒険者の間では魔物と同じ扱いを受けています。」
「魔物と同じ?」
「えーっと。要するに首を取れば金になるんですよ。ほぼ全国的に懸賞金がかかった状態といえばより正確でしょうか」
なるほど、魔物と同じってそういう……殺しても素材にはならないだろうにギルドが金を出すということはさぞ危険な集団なのだろう。
……とはいえ殺してみた感じ、身の危険すら感じなかったってのが率直な感想なのだが……そんなに警戒が必要な相手なのだろうか。
「それが……これは噂なのですが、かの教えに従う教徒は殺した人数によって特殊な権能を授かるのだとか」
「特殊な権能?」
「はい、なんでも様々な種類があるらしいのですが、ある者は火を噴き、ある者は腕を伸ばす。そういった塩梅に魔術でもない『奇跡』と呼ばれる不思議な現象を引き起こせるようになる……らしいです。少なくとも私はまだ見たことが無いのですが。」
「ほぉ~~……」
魔術でもない不思議な技術……そういわれちゃ魔術師としてはどうしても気にならざるを得ない。
その奇跡持ちとやらをバラしたりできれば何かわかったりするのだろうか。
というかそれ以前に、
「授かるって……誰に?」
「……それが分かれば苦労はしないんですけどね」
まあ、想像はしていたがやっぱりそうか。
そんな企業秘密みたいなものが一般に公開されているようならここまで危険視されるはずもない。
今回の場合で言うと、この死体が歩くというこの状況そのものが奴らの授かったという奇跡とやらの可能性があるという訳だ。
ラライアも見たことが無いという珍しい奇跡持ちと関われるというのなら今回の現象のつながりはこっちとしても願ったり叶ったりだ。
まさしく渡りに船という奴だろう。
これは出てきた甲斐があったかもしれない。
まぁ、取り合えず、
「とにかく、生命が荒らされた跡を探せってことだよな。」
「そうですね、付近に奴らが居ればその周辺はおそらく草木一本残っていないかと」
「なるほど」
分かり易いことこの上ないな。
やはりラライアに案内を頼んだのは正解だったか。
内心そう呟きながら、僕はシャルを伸ばし、屋根に飛び移った。
死んだ血肉の使い方 かわくや @kawakuya
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