第3話 救国の女神は救済のペンを授かった。
青空と星空と鏡のような湖面の上にいたメーライトは、正に女神といった女性を見た。
女神は「間に合いました。良かった」と言うと、メーライトの手を取って「この世界をお願いします」と言う。
突然の事に驚くメーライトに、「目覚めたら、私が授ける救済のペンで、アーセワの物語を書いてください」と言った。
そこで目覚めると、枕元には紙が置かれ、メーライトは豪華なペンを握っていた。
耳にもう一度、「このペンで救いなさい」と女神の声が聞こえた気がした。
メーライトは直感的にペンと紙を隠して、両親と姉の畑仕事を見送る。
そして女神の言葉を思い出し、一心不乱になってアーセワの物語を書き切ったとき、外からは悲鳴と絶叫が聞こえてきた。
すぐに扉が開かれると、父親が家に飛び込んで来て、「ナイヤルトコが魔物と攻め込んできた!すぐに壁に避難して、騎士団に守って貰うんだ!」と言った。
メーライトは驚きながら「救済のペン」と本と紙を持って外に出ると、姉と母は呆れた顔でメーライトを見て、姉が「早く逃げるんだよ!」と言って駆け出す。
背後からは、逃げ遅れた人たちの絶叫と断末魔の声、魔物が魔法を放ったのか爆発音もする。
姉は苛立っていた。
それは、父母がなんだかんだ言って、メーライトのペースに合わせて走っていて、到底追いつかれて殺されるか、捕虜にされて魔物の餌になる。
この足手まといの妹さえ居なければ、そう思った姉は母と父の手を取って、「追いつかれるよ!もっと速く逃げよう!」と言う。
メーライトからしたら限界だった。
それを見抜いている両親は、「でもメーライトがいるんだぞ!」と言って話にならない。
その時に足がもつれたメーライトが転ぶと、背後からは小さな魔物、ゴブリンの姿が見え、姉は嬉々として、「ほら!間に合わなくなる!仕方ないんだよ!私は畑仕事もやれるよ!お父さん達とずっと居るから!」と言って、両親の手を引いてメーライトを見捨てようと提案して走る。
初めは拒否した両親だが、母親が姉に合わせて加速すると、父も最後にはメーライトを諦めて見捨てた。
メーライトは不思議と悲しくなかった。
自分ですら仕方ない、身体が弱く、足手まといだから仕方ないと思った。
だが、あの姉の嬉々とした顔、この機会にメーライトを切り捨てようとした顔を見て、心底嫌われていた、疎まれていたと気付いて辛くなった。
立ち上がろうとした時、もう姉達は突き当たりにいた。路地を曲がれば第一の内壁が見えてくる。
最終コーナーを嬉しそうに曲がる姉の顔は晴々と、歪みきっていた。
遠いのに何故か見える顔。
だがその顔は次の瞬間に焼失した。
「ぎゃっ」という小さな声の後で、曲がり角の向こうから炎が吹き出してきて、姉達はケシズミになった。
メーライトが「え?」と驚く中、曲がり角から出てきたのはナイヤルトコの鎧を着た兵士で、「待ち伏せ作戦成功〜。魔物達で追い立てて、曲がり角でズドンは楽しいなぁ」と言う。
たしかに曲がり角の逆側には焼死体の山が出来ていた。
逃げるのに必死で視野が狭まり気付かなかった。
メーライトは死を覚悟する。
背後からは魔物、前には家族を焼き殺した敵兵。
敵兵は「へぇ、生き残りは可愛い子だ。持って帰ってペットにするか、この炎の腕輪のテストにするかなぁ」と言いながら、魔物達に「戻って次の連中を追い立ててきてね〜」と指示を出すと、ゆっくりとメーライトに向かって歩いてきて、「死んどく?それとも俺のペットになる?」と聞いてきた。
何を言われたのかよくわからなかったが怖かった。
首を横に振りながら後ずさるメーライトに躙り寄る敵兵。
敵兵が手を向けてきた時、敵兵は背中を剣で貫かれて、その背後から「無事かい!?」と声をかけられた。
助けてくれたのは若い兵士。
突然の事で言葉がうまく出てこないが、メーライトが頷くと兵士は「良かった。とりあえず壁まで行こう」と言って、メーライトを抱きかかえてくれる。
「1人?家族は?」
メーライトは今更心細さから目に涙を浮かべて焼死体を指差す。
兵士は悔しそうな顔を見せると、「…そうか。遅れてごめんね。だがこれからは守るからね」と言って、メーライトを内壁一番へと案内した。
兵士は壁に入るとすぐに、「誰か!救助者だ!奥に!俺は次の救助者を助けに出る!」と声を張ると、大人の人が来てメーライトを連れて奥へと向かう。
「君は内壁やその先に行ったことはあるかな?ははっ、こんな経験はなくて怖くてね。話し相手になってくれないかな?」
男はそう言いながら歩き、内壁は今メーライトの入った小さな勝手口から中に入り、中庭を抜けて奥に行き、大門を開けることで次に行ける作りになっている事、内壁は三番まであり、その先に王城がある事を説明した。
「…なら、二番から人が来てくれるんですか?」
「いや、難しいね。ナイヤルトコからここまでは、離れているからまだマシだが、飛べる魔物が空から壁を超えていたから、二番の連中はそっちの対処をしているんだ。下手をしたら裏側から門を開けられる可能性すらある」
男に余裕はない。
この不安感と恐怖を小さな少女に共有して、自分の心を少しでも軽くしようとしていた。
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