救国の女神は本の続きを書く。
さんまぐ
救国の女神が立ち上がるまで。
第1話 救国の女神はアルーナを喚ぶ。
焼けた臭いと怒号と悲鳴。
戦争。
「もうダメだぁ」
「誰か助けて!」
そんな声が聞こえてくる。
立派な鎧姿の老騎士が、「メーライト嬢、よろしくお願いします」と言って、どう見ても町娘の少女に頭を下げると、横にはメイド服の少女が「神様なら平気ですよ。頑張ってください」と声をかける。
少女メーライトは、右手にペンを持ち、左手に紙を持つと「お願い!助けて!アルーナさん!」と声を上げる。
少女が持つ紙が光ると、光は目の前に飛び、光が晴れると純白の鎧を着た少女が立っていて、「よぅ神様!喚んでくれたな?任せろ。隠れた聖剣に導かれた戦乙女の実力を見せてやるぜ!」と言うなり、長い髪をたなびかせながら、腰に備えた金の剣を抜くと、「退け雑魚ども!私に任せな!」と言い、魔物や魔物を引き連れる兵士を切り裂いていく。
「助かった連中は下がれ!アタシの神様を何が何でも守れ!」
この言葉に兵士達は老騎士の周りで陣を敷き直すと、「女神様!」、「神託の女神様!」、「メーライト様!」、「御守りします!」と声をかけて、矢の流れ弾すら体で受け止めてメーライトを守っていく。
人が傷付く事に、メーライトが顔を背けて目を瞑ると、メイド服の少女が「神様、私がおそばにおりますから、耐え忍んでください」と声をかける。
「ありがとうございます。アーセワさん」
「神様、どうぞ呼び捨ててください。神様なら見えていますよね?アルーナは今どこですか?」
メーライトは手に取ったペンを見て、「中庭です。部隊長と戦うところです」と答える。
「ではもうこの戦闘は終わります。神様はキチンと休息をお取りください。お食事のご用意はお任せください」
アーセワが微笑み、メーライトが頷くなか、メーライトの脳内にはアルーナが人も兵士も紙切れのように切り裂く姿が見えていた。
そこに現れる部隊長は、「何だお前は!?お前のような騎士は聞いたことがない!?アルデバイトの地に、まだこのような猛将がいたのか!?」と言いながら、必死にアルーナに剣を向けるが、「お前が知らないだけだっっツーの!!」と言ってアルーナが剣を弾くと、「見せてやるぜ!レイ・ブレイド!」と言って光の剣を放つ。
この世界で魔法を放つのは魔物の力だけで、人間は放てなかった。
剣を真っ二つに折られるだけで済んだ部隊長は目を丸くして、「ま…魔法?なぜ人間が…。なぜアルデバイト人が…」と驚きを口にする。
「そりゃあ、アタシの神様がお授けになられたからさ。私は聖剣の戦乙女!アルーナ!行くぞ!神様の凄さを思い知りやがれ!テンペスト・レイ!」
アルーナの剣から放たれた光の玉を中心に、光の嵐が天まで巻き上がると、その場所に生きている人間と魔物はいなかった。
「一丁上がり!神様〜、褒めてくれー」
アルーナは少女の顔でメーライトの元に戻って行った。
だがメーライトは、アルーナの顔を見て安心すると倒れてしまい、アルーナとアーセワは、その場から光となって消えてしまった。
メーライトは夜明け前に目を覚ました。
そこは豪華なベッドの上で、夜明け前なのにメイド服の女性や、自身を守ってくれた老騎士も起きていた。
「おお、目覚められましたか?メーライト嬢」
「…はい。倒れてすみませんでした」
「いや、そんなことはありません。この第一壁は守られました。それもこれもメーライト嬢の神託のお力あってこそです」
老騎士の言葉に、メーライトは右手を見て力を込めるとペンが現れる。
「2回目からはペンのみで平気です」と言われていた言葉を思い出しながら、「アーセワさん、きて」と声をかけると、光と共に「おはようございます。神様」と言ってアーセワが現れた。
周囲を見回し、「まだ夜明け前じゃございませんか。お食事のご用意をしますか?」と言ったアーセワは、心配そうな顔の合間に不服そうな顔になると、「まったく、あのアルーナは…知識と認識が足りないのか、私からも注意をしますからご安心くださいね」と言う。
「アーセワさん?アルーナさんが何をしたんですか?」
「神様にはその説明からでしたね。私達は神様のお力でこの場に喚ばれています。私たちが使える力も、全て神様のお力に依存します。私は2度目ですが、アルーナは初回だったのに、あんなに見せつけるような強大な力を使えば、神様の負担になってしまいます」
メーライトと老騎士達は、アーセワの話を真剣に聞いて質問を返して理解を進めていく。
喚び出された存在は、全てメーライトの体力と精神力に依存している事、魔物にしか使えない魔法を使うには、メーライトの力を消耗させる事、だからアルーナの放ったテンペスト・レイで言えばやり過ぎだった事。
この先について聞くと、何度も喚び出して、繋がりを滑らかに当たり前にする事で、メーライトの負担を減らしていき、体力を付けてもらって、魔法を放っても倒れないようにする事を求められた。
「ですが、アルーナに関して言えば、まだ神様のお力が完全ではありませんので、もう一日くらいは休まれたほうがよろしいと思います」
これには老騎士も「奴らは壊滅しましたし、増援も2、3日は無いでしょう。まず本日はお休みください。その間に中央とはどのようにするか話し合ってきます」と言い、メーライトに休むように告げる。
「あの!」
「何でしょうか?何かご入用でしたら遠慮なくお申し付けください」
「いえ、こんな豪華なベッドに、こんな綺麗なお部屋は、申し訳…」
「そんな事はありません。何をおっしゃいます。神託の女神様には、これくらい当然のことです」
メーライトは自分の町娘の格好で、こんなベットでは申し訳ないと思ったのだが、老騎士はそれを認めずに、アーセワも横でウンウンと頷く。
押しに弱いメーライトは、言われるままベッドに横になると、アーセワは「神様、私は神様が眠られても肉体の維持が可能ですので、是非そのように願ってください」と言う。
「えっと…、アーセワさんは私が寝てても出てきててください。これでいいですか?」
「さんは要りませんよ?」と言いながらも「はい。これでお世話ができます。お食事が必要になりましたらお申し付けください」と言って、騎士とメイドを連れて部屋を後にしようとする。
メーライトは慌てて「あの!」と呼び止める。
アーセワだけが足を止めて振り返り、「はい?何でしょうか?」と優しく微笑む。
「騎士様も」と老騎士も呼び止めたメーライトは、「あの…!他に本は?」と聞くと、困り顔のアーセワは「神様、ご無理はダメです」と言い、老騎士は「女神様、申し訳ございません。焼け落ちてしまい、ここにはもうありません。後は次の壁か、王城のある中央になります」と言って中央と呼ばれた方を見る。
「では、中央に行かれましたら、何かお願いします!」
「女神様…、ありがとうございます。そうさせて貰います」
3人が出ていき、自宅よりも大きく豪華な部屋、生涯縁のない豪華なベッドの上で、ペンを見るメーライト。
神託の女神。
仰々しい名前だが、壁にいた神官がメーライトをそう呼び、その名が定着してしまった。
老騎士は本名と女神をその時の気分で使い分けるのか、アーセワが来てからは女神呼びが多い気がする。
神が授けてくれた「救済のペン」、メーライトは夢枕に立った女神の姿を思い出し、「このペンで救いなさい」という言葉を思い出す。
昨日までは役立たずのみそっかすで、自分に見向きもしない程に忙しい両親と、意地悪な姉がいた。
それがナイヤルトコが魔物と攻め込んで来て、家族とは死に別れた。
逃げ込めた壁の中でアーセワに出会い、数時間後にはアルーナに会えた。
メーライトはその事を思い出しながら天井を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます