第四十七話 魔術オタクはゴネてみる

「金貨五百枚にどれくらいの価値があるか、ですか?」


「うん、そう」


タルムーグ魔法学院男子学生寮、通称”金竜館”の食堂は夕刻のこの時間帯、毎度の事ながら大変な賑わいである。そんな中、四人掛けのテーブルに三人で座る年若い学生達。言わずと知れた俺、ロシェ、イサクである。


冒頭の問いを俺がロシェに発したところ、彼は何とも言えない表情とともにそっくりそのまま聞き返してきた。ロシェの隣にはイサクが座り、同様に怪訝な表情を浮かべている。



例の「呪文実験室破壊事件」から約一週間が経過した。俺とルリアの授業出席停止期間も解け、現在は普通に学院生活を送っている。まあ授業に出ていない間も大図書館に通い詰め、俺とルリアは思う存分書籍漁りを満喫したので一切不満はなかったんだが。それでも学院の教授達から学ぶ内容、特に午前の座学で教えて貰う知識は大変有用だ。学院に残れたこと、普段の授業が戻ってきたことは本当に感謝しか無い。


そんな訳で今日も元気に授業に出て、午後の実習を終えた俺達は寮の前でルリアやエリシェ嬢と別れ、揃って寮の食堂で夕食と相成った。そこで俺が、先程の質問を二人に発したという流れである。


「逆に色々と質問したいことがあるのですが、とりあえず一つだけ。何故いきなり、そんな質問をしたんですか?」


「ああうん、この間僕が呪文実験室を壊したでしょ?」


「ああ、あれですか。何かやるんじゃないかと嫌な予感があったんですが、予想以上にとんでもない事を仕出かしましたね」


「う、うん。次の日に壊れた部屋を見たけど、凄かったよ」


「その感想はもう何度も聞いたよ、二人共。まあそれで、壊れた実験室の修理費用を僕が払うことになったんだけど。それが金貨五百枚」


「えっ」


「えっ」


「えっ」


「「「えっ」」」


俺の回答を聞いた途端、引きつった表情で固まるロシェとイサク。その様子を目にして、俺も思わず驚きの声を上げてしまった。それだけでなく、何故か周りからも似たような短い呟きが聞こえてくる。どうやら俺の返事は、この夕食時の喧噪の中でも周囲に聞こえていたようだ。カクテルパーティー効果か?


俺達三人はそのまま無言で静止し、俺達のテーブルの周囲も沈黙してこちらの様子を伺っている気配があった。いつも騒がしい寮の食堂の中央に、何故か静寂な空間の”島”が発生している。たっぷり十数秒の空白を経て、ようやく我に返ったロシェとイサクが俺に対して質問を始めた。


「あの、サキは自分で買い物に行ったことがありますか?」


「え?うーん、お小遣いを貯めて雑貨を買ったことは何度かあるんだけど。馴染みの商会に発注して届けて貰ったから、『買い物に行った』とは言い難いかな」


「も、もしかして、い、市場に行ったこととかも」


「うん、一度も無いね。そもそも王都の下町は、馬車で通過したことしか無い」


「あの、金貨以外の貨幣があるのは知ってますよね?」


「ロシェは僕を何だと思ってるのさ。銀貨と銅貨でしょ?」


俺は呆れた様子で言い返しながらも、何となく薄ら寒い気配を感じていた。そしてその悪い予感は、現実のものとなる。




先日に行われた俺とルリアへの聞き取り調査、およびその後の話し合いで、破壊された呪文実験室の修理費用は俺個人で負担することになった。勿論七歳の俺に支払い能力がある訳もなく、両親が立て替えて俺が将来返済することとなる。それでその補修工事の見積りが出てきたらしく、つい昨晩父さんからの<伝言>で、その金額が金貨五百枚と知らされたのだ。


この国の通貨には、金貨・銀貨・銅貨の三種類がある。江戸時代の日本と同様だが、前世と違って通貨に「両」や「円」、「ドル」といった名称はついていない。単純に金貨、銀貨と呼ばれている。取引の際にもただ「銀貨○枚」と言ってやり取りされている状態だ。


これは多分、国際貿易が殆ど行われていないことに由来すると思われる。このハノーク王国と他の国家の間には、北の中央平原や南の大海など人の手の及ばない広大な空間が広がっており、そこではオークのような蛮族から凶暴な野生生物、果ては強大な魔獣などが行く手を阻んでいる。とても交易がやり易い環境とは言えないし、実際に互いの国を行き来することなど滅多に無い。


他国の通貨と自国の通貨を交換する機会がほぼ無い以上、通貨に名称を付けて他の通貨と区別する必要が無いということだ。ちなみに各硬貨の交換レートは、銅貨百枚が銀貨一枚、銀貨十枚が金貨一枚となっている。


俺は今まで、金を払ってモノを買った経験があまり無い。その僅かな経験を振り返ってみると、俺の”火の短剣”はベースの短剣と塗料を含めて銀貨五枚、ルリアの”水の聖杯”は全部込みで金貨一枚と銀貨二枚だった。俺はこの国の物価とか相場とかは全然分からないのだが、この数少ない経験から今回の「金貨五百枚」という請求は結構な金額ではないかという気がしていたのだ。


そこで俺は友人でも一番世情に長けていそうなロシェに、実際どれぐらいの価値なのか尋ねてみたわけだ。だが目の前の友人二人や、今も周りで聞き耳を立てている先輩方の反応を見る限り、想像以上の大金である可能性が高いと思われる。うーむ、大丈夫かコレ?


「あのですね、王都で生活する庶民―――下町の一般的な職人さん達は、ひと月の収入がだいたい金貨一枚に届かないくらいだと聞きます。年収だと金貨十枚前後でしょうか」


ロシェが具体的な数字を口にするが、その内容は俺の悪い予感を遥かに超えて厳しいものだった。


「つまり、僕が学院に支払う金貨五百枚というのは………」


「一般庶民の収入五十年分に相当します」


マジかよ。


こうして俺はよわい七歳にして、生涯賃金と同額の借金を背負ったのだった。




「そうだったんですの。でもサキさんなら、学院を卒業すればすぐにでも返済できそうな額ですわね」


次の日、俺達いつもの五人はいつものように午後の実習を呪文実験室で過ごしていた。以前から使っていた実験室は先週俺が壊してしまったため、今使っているのは別の実験室だ。


呪文実験室はその用途に応じ、手頃な広さの個人用実験室から、複数人で使用できる大規模実験室まで複数の種類が存在している。俺が壊したのは大規模実験室で、それと同じ広さなのは今使っているこの実験室しかないらしい。なので絶対に今度は壊すなと、教授たちからくどい程に念を押されたのを覚えている。


そして実習の合間に挟む休憩タイムに、たまたま話題が俺の借金の件に及んだ。それを聞いてのエリシェ嬢のコメントが、先程のものというわけだ。


「そうだといいんですけどね。そのためにも、今はしっかり学んで学院を優秀な成績で卒業しないと」


などと言ってみたが、俺はエリシェ嬢の言葉を全く信用してはいなかった。はたで聞いているロシェやイサクも「いやいやいや」といった感じの表情を浮かべている。何せ彼女は王国に四家しかない侯爵家の御令嬢なのだ。その金銭感覚が世間一般と同様のものであるはずがない。


いい例が蜂蜜亭のパンケーキである。エリシェ嬢が度々取り寄せ、寮の自室でルリアを始めとした親しい女生徒にお茶会で振る舞っているこの菓子だが、購入に金貨が必要だと知ったのはつい最近のことだ。ひとセットで庶民の月収を超える菓子を頻繁に購入し、あまつさえそれを友人に分け与えているとか普通じゃない。気前が良いとかいうレベルを遥かに超えている。


俺も蜂蜜亭のパンケーキを二人分、ラグ寮長とイディス寮長へ詫びとして贈るためにエリシェ嬢を頼ったことがある。交換条件として俺とルリアの二人は彼女に丸一日愛玩される羽目となったのだが、それと引き換えに無事パンケーキを入手、両寮長に謝罪することが出来た。この時もエリシェ嬢は結局、俺から代金を受け取っていない。そんな彼女が言う「すぐにでも返済できそうな額」など、額面通りに受け取れる訳がねえ。


エリシェ嬢は高位貴族の令嬢であることを感じさせない、気さくで良い人………いや、立派なレディ………もとい、黙っていれば大変な美少女なんだがな。ただ、年端もいかぬ幼女や幼児を愛でるという取り返しのつかない悪癖があるだけで。現に今も、ルリアに後ろから抱きつこうとして全力で抵抗されているがな。


今回そんな残念美少女である彼女に、「金銭感覚がおかしい」という新たな残念ポイントが見つかってしまった。俺は暴れるルリアと何とかして抱きつこうとしているエリシェ嬢の間に割って入りながら、もう少しまともなクラスメイトに恵まれてえな、などと考えていたのだった。




「やあ諸君、久しぶりだな!私が居ない間、君達には寂しい思いをさせてしまったのではないかね?」


次の日の朝。前日に不遜なことを願ってしまったせいなのか、まともでないクラスメートの筆頭が復帰してきてしまった。次兄のオズ・アドニ・カツィールの葬儀のために国元へ戻っていた、”バカ侯子”ことユリ・アドニ・カツィールが学院に帰ってきたのだ。久々の登場だと言うのに、教室の入口で訳もなく髪を掻き上げて気取ってみたりと、すっかりいつもの調子である。


カツィール侯爵家は男ばかりの兄弟三人であるため、一つ上の兄であるオズが亡くなった今、侯爵の子どもは跡取りである長兄とユリの二人のみである。まだ二十歳を超えたばかりの長兄の補佐として国元に残り、もう学院には帰ってこないのではないかという声も一部にはあったのだが、彼はあくまで魔法の道を進むつもりらしい。ちぇっ。


「ユリ様!お帰りなさいませ!!」


おっと、誰もが唐突な侯子の登場に呆気にとられている中で、一人喜び勇んで迎えに行った奴がいるぞ。言うまでもない、奴の取り巻きである大柄で丸っこい少年だ。もう三ヶ月近く同級生をやっているというのに、未だ彼の名前を覚えていないんだよな。ま、覚える必要を感じないからだけど。


同じく侯子の取り巻きをやっていた、小柄で陰険な方の少年(彼の名前も結局覚えなかったなあ)が俺の暗殺未遂事件に連座する形で学院を辞めてユリと共に国へ帰って以来、たった一人で随分肩身の狭い思いをしていたようだからな。親分が戻ってきたので、また以前の様に増長するのだろうが。


「やあサキ、長々と不在にして申し訳なかった。また今日から級友として過ごさせてもらうので、よろしく頼むよ」


またコイツらにうざ絡みされる日々が始まるのか……と憂鬱になっていたところで、早速向こうからやって来やがった。俺は苛立ちを悟られないよう懸命に表情を作りながら、表面上はにこやかに応対する。


「お久しぶりです、ユリさん。国元での御用はお済みになったんですか?」


「ああ、そちらは問題なく片がついた。実家の連中には、このまま家に残ってほしいとだいぶ懇願されたがね。誰しもが認める大魔法使いとなり、カツィールをアルカライに並ぶ魔法の名門にするという志を捨てるわけにはいかず、こうして学院に舞い戻って来た次第だよ」


フ、と髪に手を遣りながら聞かれてもいないことを語るユリ。あーそーかい、言うことだけは立派なんだよなコイツ。言うことだけは。


「それで、私が不在の間に何か変わったことは無かったかね?例えば、君がまた新しい呪文を覚えたとか」


「!!………ユリ様、その話は」


おっとユリ侯子、そんなこと聞いちゃうんだ。隣見てみろよ、取り巻きクンが「その話題は止めとけ」って顔をしてるぞ。仕方ねえなあ、別に自分から言いたいわけじゃないが、聞かれたからには答えてやろうじゃねえか。


「そう言えば先日魔法を試していたら、呪文実験室を壊してしまいまして」


「………うむ?よく聞き取れなかったのだが、何を壊したと言ったのかね?」


「呪文実験室ですよ。壁や天井に大穴を開けてしまいまして。おかげで恥ずかしい話ですが、三日ほど謹慎を命じられてしまいました」


「そ、そうだったのか。それはな、何とも、剛毅な話だな」


くくく、動揺してる動揺してる。俺は内心の愉悦を努めて表に出さないようにしながら、表情を変えずに何でも無いことのように話を続けた。


「それと、あれから私とルリアは新たに三つ呪文を覚えました。現在覚えているのは十一個ですね。あと一月もすれば、第二階梯に登れるでしょうか」


「………は?」


今度こそユリ侯子は、口を開けて完全に固まったまま身動きしなくなった。それを見て取り巻きクンが「………席に着きましょう。授業が始まりますよ」と促し、彼は手を引かれるようにして自席へと戻って行った。


「可哀想に。彼は確か入学当初の自己紹介で、『在学中に第二階梯に上がる』と豪語してましたっけ」


「そ、それなのに入学から三ヶ月と少しで、それを成し遂げそうな級友がい、居るなんて不幸だよね」


「しかも二人。本当にルリアちゃんってば、無敵で素敵ですわ」


ユリがいなくなって、こちらの友人サイドが口々に憐れみともからかいともつかない言葉を口にする。勿論ルリアは、最初から侯子のことなどガン無視だ。


俺はともかく、ルリアと同じ年に学院へ入学したのが運の尽きだったな。これで奴もこれからの学院生活、少しは大人しくなってくれるといいんだが。駄目かなあ、駄目だろうなあ。ああいう手合は超ポジティブで、放っておくとすぐ増長するからな。


それでも少なくともその日、ユリ侯子は至極静かに授業を受けていた。目の焦点が少し合ってないような気もしたが、俺の勘違いだろう。




さて、出世払いの借金を負ったとは言え、多少の問題はあれど俺の穏やかな学院生活が戻って来た。そうなれば勿論、魔法だけでなく魔術の方にも力を入れたいのが正直なところ。しかしながら学院内で魔術の儀式を行使するのは、婆ちゃんやアザド教授から必死で止められている。居残りで呪文実験室を使わせて貰える話もおじゃんになったし、これからどうすべきか頭の痛いところだ。


こういう時は一人で考えるより、誰かの知恵も借りて話し合ったほうが効率が良い。そういう訳で俺は夕食を終えた後の自分の部屋で、頼りになる相談相手に話を持ちかけることにした。その相手とは無論、ルリアの使い魔のはずなのに夜は俺の自室で同居生活を送っているイシスである。


「そういう訳で、今は本気で儀式を実践する時間も場所もねえ。どうしたらいいと思う?」


「んー、確かに今のサキきゅん達の生活状況だと、大掛かりな儀式を試すのは無理かもねえ」


俺の頭の上で寝そべって頬杖を突きながら、イシスは暢気な口調でそう答えた。俺ももう慣れたもので、視界に入ってはいないものの頭皮を通して如実にその存在を伝えてくる、イシスの肢体の感触にも心惑わされずに話を続ける。


「このままじゃ、折角手に入れた”精霊の書リベル・スピリトゥム”も宝の持ち腐れだよ。何とかならないもんかなあ」


俺のボヤキに、イシスが鋭くツッコミを入れる。


「確かにその本にあるような喚起エヴォケーション儀式を試すのは無理だろうけど、それだけが魔術の儀式じゃないでしょ?」


「ん?どういうこと?」


俺が問い返すと、イシスがはあ、と大きく溜息をついたのが聴覚と触覚で伝わってきた。


「サキきゅんが喚起儀式の時にもやってる、”十字の祓い”や”五芒星の小儀式”。あれだって立派な儀式だよ?というか、これこそ儀式の基本中の基本なんだから、毎日繰り返しやるぐらいの気持ちでないと」


おおう、そうだった。”十字の祓い”は全ての儀式を始める前に、術者の心身を清めるためのもの。後に続く儀式を成功させるためにもまず最初に行うものだが、自身を霊的に清めるというのはそれだけを目的にしても十分な効果がある儀式だ。


そして”五芒星の小儀式”は、”追儺式”のことだな。空中に五芒星を描いて、儀式を行う場所を清めることを目的としている。これだって、例えばこの部屋で行えば悪い霊的影響から自分のプライベート空間を守っているということになる訳で、やって損の無い儀式だ。ちなみに”小”とついているだけあって、大儀式も別にあるぞ。


つまりはあれだ、部活と同じ。グラウンドやコートが使えない時は、部室で基礎練習に明け暮れるという訳だ。というか基礎練習なんだから、確かに毎日やるのが上達のコツだよな。そうか、思いがけずに巻物や”精霊の書”を読んだお陰で派手なことばかりに目が行ってしまい、基本をないがしろにしていたとは。コイツは盲点だった。


「先生の仰る通りだわ。これからは毎日のイメージトレーニングと魔力鍛錬に加えて、”十字の祓い”と”五芒星の小儀式”も日課に加えよう」


「それがいいよ。ちなみにルリちゃんはあたしの指導で、もうとっくに毎日やるようになっているから」


何?!それは聞き捨てならんぞ。唯でさえルリアには魔法じゃ敵わねえんだ、これでもし魔術でも追い抜かされるようなことになった日にゃあ、俺の立つ瀬が無くなってしまう!


俺は両手を頭上に伸ばしてそっとイシスを抱え上げるとベッドに座らせ、部屋の中央に立ってまずは”十字の祓い”から練習し始めた。イシスは何も言わずに俺が儀式を行うところを見ているようだったが、何となく満足そうにしている気配が伝わって来る。


続けて”五芒星の小儀式”を執り行い、更にイメージトレーニングであるサイコロ法や魔力を鍛える小周天の法までやったところで、俺はベッドに腰を下ろして一息入れた。これらは全て非常に集中力を必要とするので、大して体を動かしてもいないのに結構な体力を消耗するのだ。俺は額の汗を拭いながら、何となくイシスに向かって再度語りかける。


「いやー。基本を繰り返し練習するのもいいけど、何か新しい事をやりたいって気持ちもあるなあ。先生、何か別に試せそうな事とか無いですかね?」


それに対するイシスの返答は、明確に呆れの混じったものだった。


「ちょっとー、あたしが基本を忘れるなって注意したばっかりなのに、もう忘れて別のことをやりたがってるの?やっぱりサキきゅんって浮気性なんだね」


「やっぱりって何だよ。それと浮気性とか言うな、新しいことに貪欲とか挑戦の気概に溢れてるとか、別に言い方があるだろ。それで、本当に何か無いの?」


めげずに重ねて問う俺に、イシスはベッドに寝っ転がって盛大にため息を付いた。そして片目だけ開けてちらりとこちらに視線を送り、渋々といった風情で口を開く。


「………まあ、無いことはないわね。あんまりオススメしたくないけど」


やったぜ。前から思っていたけど、イシスこいつってばチョロいな。俺は靴を脱いでベッドに上がると、正座の姿勢からの流れるような土下座で頼み込む。


「先生!それを教えていただけないでしょうか!!一生ついていきます!!!」


頭を下げた姿勢から上目遣いに様子をうかがうと、シシスがじとっとした目つきでこちらを見つめていた。使い魔が召喚者に似ると限ったわけじゃないだろうが、こういう視線は本当にルリアそっくりだな。


「本当にサキきゅんって、こういうところで節操無いよね。これじゃルリちゃんも苦労するわ」


俺はそれに答えず、ひたすら平伏したままの姿勢を保った。暫くの間を置いて、今日何度目かの溜息が聞こえてくる。


「仕方ないなあ。先に注意しておくけど、調子に乗ってやり過ぎたら絶対ダメだからね?まず―――」


説得の甲斐あって俺はこの夜、魔術の全く新しい応用方法を教わることが出来たのだった。





開けた次の日、学院での最初の授業でアザド教授から一ヶ月後の学外活動についての告知があった。そしてそれが、俺の学院生活を激変させることとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る