第24話 おやつの時間

 子供の頃のおやつって、どんなものを食べていましたか。ブリア・サヴァランではないけれど、おやつに何を食べていたかで、その人のルーツが分るような気がしますよね。

 私は、おやつに関しては、ちょっとばっかりコンプレックスを持っている子供でした。なぜなら、うちのおやつって、地味~だったのです。


 今でもはっきりと覚えています。毎日、三時になると、母が、お菓子の入った箱と、菓子皿を二枚取り出し、おやつを用意してくれたことを。嬉しい楽しいおやつの時間。ですが、問題なのは、そのラインナップです。


 花林糖、醤油せんべい、芋けんぴ、五家宝あたりがレギュラーで、そこに、名も知らぬ駄菓子やあられ、あめ玉なんかが準レギュラーで入ってくるって感じ。お腹を壊しているときは、卵ボーロだし、なぜだか干しぶどうなんてものありましたっけ。


 もちろん、美味しかったのですよ。きな粉が大好きな私にとって、五家宝は好きな味でしたし、おせんべいも好きだったし。干しぶどうだけは、今でも意味が分らないけど。ただですね、友達の家で出てくるおやつは、クッキーとかポテトチップス、あと何とかの山とか里とか、とにかく我が家のおやつとは全然違うのです。


 うちのおやつだけ、えらく古くさいということは、ちょっとしたコンプレックスでした。なぜ、母がこういう、地味で古くさいお菓子をおやつに出すのか、理由はわかりませんでしたが、ただ、ポテトチップスと山と里だったら、きっと私は、お腹を壊すまで食べ続けるか、お腹を壊さないけれど、でぶでぶに太るかもしれないと、子供ながらに、何となく思っておりました。何せ、食いしん坊だったので。


 そんなある日、外で遊んだ流れで、いつもの遊び友達を四人、家に連れて帰りました。私の家は、玄関入ってすぐが、子供部屋と称した四畳半で、他の部屋にほとんど影響を与えなかったので、いつ友達を連れて帰っても、母がそれで嫌な顔をしたことはありませんでした。なので、わりと気楽に友達を家に連れて帰っていました。


 大抵、母は、子供達を一直線で子供部屋に案内すると、後は居間で縫い物をしたりして、ほぼノータッチ。なので、友達が来るたびにおやつを出すなんてこともなかったし、遊びに来た方も、そんな期待はしていなかったと思います。

 

 ところがその日は、みんなが来たのが三時だったと言うこともあって、珍しく母が「おやつですよ~」と、全員分の菓子皿をお盆にのせて、子供部屋まで持ってきてくれたのです。

「わぁ、おやつだ」

子供達から歓声があがりました。しかし、私だけは、顔を強張らせておりました。


 その日のおやつも、花林糖と芋けんぴと塩せんべいと金平糖が少し、という、まさに昨日私が食べたのと同じラインナップでした。そこにはチョコレートもクッキーもありません。山も里もありません。あまりの期待外れに、みんなががっかりするだろうと思うと、いたたまれませんでした。その上、うちのおやつが古くさいお菓子ばかりだということも、みんなにわかってしまうし。


 私は、うつむき加減で芋けんぴをもそもそ食べながら、みんなの中に失望の空気が流れるのを、待っていました。そうなった時、どんな言葉を発したら、白けた空気を笑いに変えられるだろうかと考えながら。しかし、お喋りの続きをしながら、花林糖や芋けんぴを食べるみんなの手は止まらず、笑顔のままです。


 ついに我慢できなくなった私は、自分から口を開きました。

「あのさ、うちのおやつってさ、変わってるよね」

明るく、ちょっとおどけたような口調で言いました。

「なんて言うか、古くさいって言うか、ねぇ、地味すぎるよねぇ」

そんな私の言葉に、みんなはきょとんとしています。


「そうかな。どれもとっても美味しいよ」

そう言って、ふうちゃんは黒糖の花林糖を、大きくひと噛みかじりました。ぼりぼりと美味しそうに食べるふうちゃんは笑顔です。すると次にゆきちゃんが、

「うちではあんまり食べたことないけど、これ」

と言って、芋けんぴを私に見せました。

「あ、それ、芋けんぴね」

私がすかさず言うと、

「あ、これ、芋けんぴっていうんだ。これ、美味しいねぇ」

「あたしは、金平糖がすき」

きみちゃんの妹の洋子ちゃんも言います。

「え? そうなの?」

私は、どんどん嬉しくなりながら、尋ねました。すると、四人全員がうんうんと頷くのです。

「とっても美味しいよ」 

 みんなの率直な言葉を聞いて、私の胸の中は、暖かいもので一杯になりなりました。そして、初めて私は思ったのです。そうか。そうだよね。美味しいよね、このお菓子。地味だけど。


 さて、大人になってから、私は母に、

「ねぇ、何でうちのおやつって、けんぴとか花林糖とかだったの?」

と、聞いたことがありました。

「え、だって、美味しいから」

と、母。

「理由はそれだけ?」

私が驚くと、

「そうよ。あなたは嫌だったってこと?」

と、逆に驚いています。

「ちょっと嫌だったよ。だって、古くさいんだもん」

「ええ? そうだったの? 知らなかったぁ~。てっきりあなたも大喜びしていると、思ってた~」


 いや、驚きすぎですよ、お母様。でもね、あの地味・・・、じゃなくて素朴なおやつ、確かに美味しかったわ。今となっては、懐かしくて良い思い出だしね。


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