邂逅

皆が、新しき友情に心を躍らせるような、まだ残る少しのぎこちなさに切なくなるような、そんな姿をみてひとり孤独を感じるような…そんな入学式が終わり、一人帰路についていた。

今日知り合ったのであろう、同じクラスの男女が仲睦まじく談笑しながら歩いていた。

よく見たら、男のほうは少し鼻の下をのばしている。

まあ、長い黒髪の美人が一緒に帰ってくれたなら、だれでもそうなるわな。

俺は、黒髪美少女の今にもはちきれてまろびでてしまいそうな胸をみながら思った。


…そもそも学生というものは学ぶ生徒と書く。つまり学業に力を入れず、友情だとか恋だとかにうつつを抜かしたりしているやつらはもれなく学生ではないといえるだろう。

その点に関しては、俺はとても優秀な学生と言えよう。なぜなら友達はおろか恋人すらおらず、これから作る予定もない。中学の頃から帰りのあいさつが終わる頃から家に直帰し、風呂や飯等々を終わらせ寝るという生活を送り続けている。

友人に急に予定をねじ込められることも、恋人に誘われ貴重な休日を侵すこともない。最高だ。


なぜだろう、涙が出そうだ。



だめだ。気分を治さなくては。

私は冷めた心を温めるため、とある古本屋に出向いた。そこは、古いとも新しいとも言えない様な本が陳列している。古本と言っても漫画や小説、画集など様々で、特に少年漫画の棚のあたりは立ち読みコーナーと言っても差し支えがないほど本を読む人がいた。


「おい!なぜ我に本を献上せんのだ!!」


女児の声が店内に響き渡った。

喧騒はレジ付近から聞こえる。それに、さっきの声は一体何だ?

ずいぶんと変な喋り口調だな、

と思い、レジの方に向かうとそこにいたのは、腰ぐらいの高さの、角が生えた女児だった。

…なんだこいつは。


「ですから、代金を払っていただかないと…。」


「はぁ!?我は魔王ぞ、なぜ代金など払わねばならぬ!」


両者譲らない。放っておいたら数時間は同じ攻防続くと見えた。

ただそれはできるだけ避けておきたい。

レジで騒がれているせいで本が買えなかったら、もう泣くしかないからだ。


「…い、妹がすみません。代金は俺が払います。」

このように敵地に突っ込んでいくような勇気は、入学式の時に出しておきたかった。

俺は彼女が買おうとした本十冊分の代金を払った。

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この世界はロマンが少なすぎる! pcラマ @pcrama

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