リュドスとケイギ

 「それで、新しいA棟の奴らはどんな感じだ?」


 若干の気まずさが残る中、リュドスからケイギに話を振ってみた。


「今回は、ほどの人材は見当たらなかったよ。だが、ひとり威勢が良い女性がいてね。と言ったかな?」


(リタ・ヒート……強気な彼女か)


「あの娘か。説明会でも目立っていたからよく覚えている」


「彼女は仲間を助けるために、攻撃魔法を発動させていた私に向かってきた。なかなかの気概だとは思わないか?」


 誇らしげに語るケイギに目を見開いた。


「お前、攻撃魔法を使ったのか!?」


「当ててはいない。見せただけだ。いや、彼女には当てたか……だが、加減はしたよ」


「おいおい、自分がどんな魔導士か分かっているのか? 安易にそこらで魔法を使うんじゃないぞ……」


 リュドスに注意され、ケイギは微笑した。


「まさか君に心配されるとはね。今後は気をつけよう」


 リュドスは頭を抱えた。


 ケイギは、エドラド王国屈指の勲章付きの魔導士で、元は王を近衛で守る十導士だった。


 例えば、彼が本気で炎魔法を放てば、辺り一帯が焼け野原になる。そこらの魔導士とは格が違うのだ。



 「そういえば……」と、ケイギは顎に手を当て、斜め上を見た。


「A-12号室の者たちは、なかなか面白いかもしれませんね」


(彼らはさっき会ったばかりだが……)


 リュドスは、先程の光景を思い出した。


 意気消沈した4人。その中で唯一、明るさと好奇心が僅かに残っていた『堂本雄大』という存在が妙に気になった。


「どうやら、彼らは他の部屋の者たちと少し違うようです」


「へぇ、どう違うんだよ?」


「そうですね……彼らは楽しそうに笑っているのですよ」


「笑っている?」


「有り得ないことです。この状況で、君なら笑えますか?」


(いや……無理だ。俺だったら、逃げたり、自殺したりするかもしれない)


 リュドスの顔が一瞬陰り、取り繕うように言葉を発した。


「なかなかの大物たちじゃないか」


「そうでしょう」


 ケイギは、なぜか得意げな表情を浮かべた。


「俺の所にも、この世界の情報を聞きに来たよ。確かに、前向きな奴らかもしれんな」


「リュドスのところに行ったのですか? 」


 ケイギは、すっとぼけた。


「お前が俺の居所を教えたんだろ。まったく……」


 ケイギは悪戯に「フフフ」と笑った。


「それで──君は、彼らにあの事を伝えたのですか?」


 とつぜん脳裏に焼きついた光景がフラッシュバックする。


 「リュドスさん!」と呼ぶ、かつての4人の声が聴こえる。だが、それは幾度となく見る幻だ。


 彼らは自分に笑いかけてくれるが、顔や体はいつも影に覆われていて、はっきり見えなかった──



「無責任に、言えるわけないだろ……」


「そうですか。君の気持ちも分かりますが、彼らが少し気の毒ですね」



 カランと、出入口のドアが鳴る。


 リュドスとケイギが、ほぼ同時に出入口の方を見た。


 そこには、たった今噂をしていた、リタと、連れのビンが立っていた。


 ビンの手には、バスケットボールが大事そうに抱かれている。


「うわ、なんだよ…胸糞悪りぃ」


 リタはケイギを見つけるなり、そう毒づいた。


「店変えるぞ」


「でもスムルたちに呼ばれて来たのに、帰って大丈夫なんですか?」


「そんなもん、明日説明すりゃ良いだろ」


「はぁ……」


「オラ、行くぞっ!」


 リタはビンの腕を引き、勢い良く退店した。


(彼女たちは、キマイラともう知り合いなのか?)


 リュドスは、その事実に目を見開いた。



 ふと横をみると、ケイギがなんとも言えない物悲しい表情を浮かべていた。


「どうやら、俺たちは完全に嫌われているようだな」


「いや、おそらく私に対してでしょう……」


 リュドスはかけてあげられる言葉が見つからず、静かに肩をトントンと、2回叩いた。

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