歩きたい・1

🧙


「ラグ」


 第3職員室の鍵を魔法で閉めた。


 24時間常駐の警備兵が居るが、各部屋は最後に使用した者が戸締まりをしなければいけない。


 職員室のある4階から1階に降りて、出入口までの廊下を歩く。


 出入口付近の警備室の横に差しかかったとき、


「お疲れ様です。リュドスさん」


 警備兵の『ハワラン』が声をかけてきた。

 

「お疲れさん」


「今日も遅いですよね」


「まぁいつものことだからな」


「東職員棟勤務になってからの3年間、ほぼ毎日この時間じゃないですか」


「性分だ。知ってるだろ?」


「でしたね」


 ハワランは、憂い混じりの笑顔をこちらに向ける。


「でも、あんまり無理をしないでくださいね。リュドスさんが自分を追い詰めて倒れてしまったら、ぼくらも悲しいんですから」


「気遣いありがとう。でも大丈夫だ」


 そう返答して外に出た。


🧙


 エドラド城の東門に向かった。東職員棟から東門までは徒歩3分程。


 東門付近には足用の魔獣車が7台並んでいて、そばに運転手たちが立っていた。


 その中に『ラディー』と『ミミアンナ』も居る。


「ヤッホー、リュドス。あたしの魔獣車に乗ってかない?」


 ミミアンナがリュドスに手を振った。


「よお、ミミアンナ」


「おい馬鹿女! 何でお前はいつもリュドスさんにタメ口なんだよ! 敬語を使え!」


「ラディー、別に俺は気にしてないぞ」


「いや、そんなわけには…」


 ラディーはハの字眉になり、こちらを何とか立てようとしていた。


「クソ真面目でつまらない男ね。リュドスとあたしは仲がいいから良いの! ねー」


 ミミアンナは同調を求め、リュドスは笑顔を浮かべる。


「リュドスさんだから許してくれてるんだ。もっと目上の人には敬意を持て!」


 「お前らは相変わらず仲が良いな」


 思わず噴き出した。


「仲良くない!」「仲良くないです!」


 互いに譲らない。


 「また始まった」という空気の中、その光景を見て他の運転手たちもニヤニヤしている。


「それでリュドスはあたしの魔獣車に乗っていくの?」


「いいや、今日はやめておこう」


「え〜また〜」と、ミミアンナが拗ねた。


「あんまり無理は言うな。リュドスさんは歩きたいんだよ」


 ラディーがミミアンナに言い聞かせるようにいった。


 もう何度もミミアンナからのお誘いを断っていた。


 天気が悪いときに魔獣車に乗ることもあるが、晴れている日はだいたい断る。


 お金が無いわけではない。


 リュドスの給料であれば、毎日魔獣車で帰宅したとしても余裕でお金は余る。


 ラディーの言う通り、リュドスはそれよりも歩きたかったのだ。


 (せめて、それぐらいの事をしないと……)


 歩くことでしか、償えないのだから──

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