スムル・アスラー・4
「着いたぜ、ここだ」
スムルが振り向いた。
雄大と小松は、しばらくその建物を放心状態で眺めていた。
3人の目の前には、『味の家・ハセガワ』というお店。
店構えは、日本の個人飲食店に似ている。
「お前ら腹減ってるだろ? 結局ほとんど食べてなかったからな」
そう言うスムルの姿が、2人には神様に映った。
「雄大さん、日本食があるよ!」
小松は、珍しく大きな声を出した。
「本当だ。日本食だ……」
雄大は、胸の奥がじんわりした。
『味の家・ハセガワ』のガラスケースの中には、
[ラーメン、カレー、カツ丼、チャーハン]
など、馴染みのある料理がたくさん並んでいる。
(異世界に来て、たった1日のことなのに何でこんなに懐かしく感じるのだろう……)
雄大は、もう食べられないと思った日本食を見て、感動して泣きそうになっている。
「ここは異世界料理を出してくれる店だ。シェフは、お前らと同じ日本人だから口に合うと思ってな」
「あ、あの! ここに連れてきていただいてありがとうございます!」
小松がスムルに頭を下げた。雄大もそれに続いて頭を下げる。
「そういうのはやめようぜ。オレは王様じゃねえんだからよ。ほら、食べ慣れた物って大事だろ?」
「本当に嬉しいです。いま本当に日本食が食べたかったので」
小松は、宿舎で朝食にと各部屋に支給された『ガルン』という食べ物の味を思い出した。
『ガルン』はパンのような見た目で、食感もパンと似ているが、想像以上に甘く口に合わなかった。
そんな事情もあったからか、余計に小松は日本食を欲していた。
「あのもし良かったらスムルさ…あ、スムルも一緒にどうですか? もちろん代金は、僕が払うので」
と、松が誘った。
「いや、オレはさっきの店でたらふく食ったから大丈夫だよ。その気持ちだけは貰っておくけどな」
「そうですか…」
雄大は、ここでスムルにずっと気になっていた質問をぶつけてみた。
「スムルは、何で異世界人のおれたちに優しくしいんだ?」
彼は即答する。
「異世界人だとか関係ねえからだよ」
「それに」と、スムルはバッヂを取り出し2人に見せた。
(そこに描かれているのは魔獣か?…どこかで見たことあるぞ)
雄大は記憶の糸を辿るが思い出せない。
小松が「キマイラだ⋯」と呟いた。
「そうだ、小松はよく知ってるな。オレはチーム『キマイラ』の一員。このエドラド城下町はオレたちが守っている」
そう言ったスムルの表情は、自信に満ち溢れている。
「オレたちはこの町での理不尽な差別を許させねえ! お前らも何かあったら言ってこいよ!」
■
『味のハセガワ』で、雄大はラーメンを、小松はカレーを注文した。
2人は出てきた料理を、一心不乱にガツガツと頬張った。
ただただ「美味しい」
改めて、食べ慣れた物が食べられるという幸せを2人は噛み締めていた。
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