スムル・アスラー・2


 腕を掴んできた人物の顔を確認すると、斜め向かいのテーブル席の男だった。


「その目玉は食べない方がいい」


 そう言われて、雄大は素直にフォークを置いた。この男にあまりにも迫力があったからだ。


 男の居たテーブル席に、大剣が立てかけられているのもまた怖い。


 彼は猛禽類のような鋭い目つきをしていて、それに加えて頬に大きい傷もあった。


 まるでRPGに出てくる盗賊の身なりで、町のゴロツキのような雰囲気が漂っていた。


 男は厨房に向かって歩いていき、カウンター越しから、


「何で目玉を取ってないんだ!」


 と、さっきの店員と料理人に一喝した。


 店内の空気が張り詰めた。


 男は店員らを呼び寄せ、雄大と小松の前で謝罪させた。


 店員らは、そのあと逃げるように厨房の奥へと戻っていった。


 雄大と小松はいまいち状況を理解してはいなかったが、助けてもらったのは分かったので「ありがとうございます」とお礼を言った。


「いや別に礼なんていい。それより名乗ってなかったな。オレは『スムル・アスラー』だ。年は22。よろしくな」


 男は気さくな笑顔を見せた。


 雄大と小松も順番に自己紹介をし、握手を交わした。


「へぇ、あんたら日本から来たのか? 良い国だよな」


「スムルさんは日本を知っているんですか?」


 珍しく小松のテンションが上がっている。声のトーンもひとつ高い。


「あの、オレにはタメ口でいいから。スムルって呼んでくれ」


 スムルはそうお願いし、2人が承諾すると話を再開させた。


「ああ、もちろん日本は知ってるよ。オレは蕎麦とお好み焼きが好きなんだよ」


「食べたことあるんですか?」


「日本料理の店もあるからな」


 振り返り、「雄大さん!」と小松は目を輝かせている。


「日本料理屋あるんだな!」


 雄大も一緒になって喜んだ。


 小松はすぐさまスムルに日本料理屋の場所を聞いた。



 スムルは雄大の隣席に腰かけ、

「しかし、あれ食べなくて良かったな〜」

と言った。


(そういえば何で止められたのだろう…)



「あの目玉を食べてたら、お前3日は腹を下してたぞ」


「え?…そうなんですか」


「おう、タマノメは普通目玉を外してから提供するんだ。目玉の部分に微量の毒があるからな。それを店員は知ってるはずなのに……あームカつくぜ!」

 

 スムルは声を荒げた。


(ギリギリセーフだったんだな……)


 トイレに籠る自分を想像して、心底タマノメを食べなくて良かったと思った。


「そうだ。雄大と颯人。お前らに見せたいところがあるんだ。今から一緒に来てくれるよな?」


 気づいたら、スムルはもう2人を下の名前で呼んでいた。


 スムルの有無を言わさせない感じに押され、みんなで退店することになった。

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