第二章
謎の美人
目が覚めると、見慣れない天井があった
「‥‥‥‥」
夢を見た。確か、手にぶつぶつが出来る夢。
グロいと言えばグロかったが、なんてことない普通の夢だった。
だから、目が覚めたら、氷鹿の可笑しな行動は嘘で、ヴァルツという人物と過ごした不思議な世界とは別れられると思ってた。
思ってたのに。
(‥‥異世界、来ちゃったのか)
ため息を吐いて、体を起こした。
視界に広がるのは、アンティーク‥いや、ロココ調によく似た白と黄色の家具たち。
シーツに手を押し当ててみれば、少しの弾力はあるものの、指先が簡単に埋もれた。
(あの時の発言、覚えててくれたのかな‥‥ヴァルツ‥ううん、ヴィリティー?さんの家かな?‥人相に似合わず、可愛い部屋だけど‥)
壁紙にはリボンの柄が使われており、箪笥や扉の取手はハートの形をしていた。
この世界だとおかしくない光景なのかも知れないが、私の目には、小さな女の子向けの部屋に見える。
妹さんとかの部屋なのだろうかと勝手に考えていると、扉が開いた。
「お目覚めでしたか。私はこの屋敷で働いている者で御座います。プライド様のご命令により、お嬢様の着替えを手伝いに来ました」
「え!?あ、ありがとうございます‥」
プライド様‥ヴィリティーさんがそう言っていた、金髪の美青年だろうか。
なら、この場所はヴィリティーさんの家ではなく、あの男性の家か。
(き、着替え‥他人に裸とか、見られたくない‥けど、今着てる服もこの世界に来た時とは違うし、今更‥なのかな?)
黒の衣装を見に纏った銀髪の背の低い女性は近くに来ると、私に立つ様言った
言葉通りに立つと、身に覚えのない白い衣を剥がされて、可愛らしい紺色と白の衣服に着替えた。
(‥随分早い手際で着替えさせられたな。一分も経ってないんじゃ?)
「あ、ありがとうございます‥」
「目覚めてすぐで申し訳ございませんが、プライド様が待っておられるので、大広間まで来てくれないでしょうか」
「え!?あ、わ、わかりました‥」
素人の私からしても、頭の傷が治るまでは休んだほうが良いのではないかと思うが、家の主の要望だ。すぐにでも行こう。
廊下まで歩いていると、大きな鏡が目に入った。
緑の髪に赤の目。髪の長さも首にかかるか掛からないか。
姿も戻ってないのかとため息を吐いて踵を翻すと、ある事に気付いて鏡に顔を覗かせた。
「え‥‥?」
頭に大怪我を負ったのに、私の頭には包帯らしきものが巻かれていない。
もっと正確に言うならば、傷跡一つない綺麗な額が露出していた。
「え、なんで‥?」
顔を傾けたり前髪を浮かせたりして傷を探すが、照明に当てられて額が輝くだけだった。
「プライド様がお治しになられました。それで、用はそれだけでしょうか?」
後ろに待機していた女性が、無表情ながらものすごい圧でこちらをみる。
「あ、は、はい!すみません、今行きます‥」
慌てて鏡から離れて、女性の後をついて行った。
(治した‥‥あ、そうだ。この世界には魔法って物があるんだ。治せることも出来るのか‥)
摩訶不思議な出来事を心の中で咀嚼して、常識が違う、と言う事にやきもきしながら、廊下を歩いて行った。
______
「お連れしました」
女性が豪奢な扉を開けると、部屋の真ん中で緑のソファに座っている金髪の男性が居た。
「ありがとうございます。‥初めまして。私は、プライド=スティーブンソン。この屋敷の主人で、あなたを一時的に預かっている者だよ。短い間ですが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げた目の前の男に倣うように、慌てながらも同じように頭を下げた。
「あ、く、胡桃です‥よろしくお願いします」
そんな名前だったかなと胡桃自身不思議に思いながら、プライドの出方を伺った
胡桃、と言う名前を聞いてプライドは不思議そうに眉を下げながら、ニコリと笑って続けた。
「胡桃さん‥はい、よろしくお願いします。それで、胡桃さんはいつ、ヴィリティーの主人になったのかな」
プライドが見せる、ヴィリティーに似た笑顔を見て何故か気が抜けていた所に、主人という奇妙な単語が胡桃の頭に残った。
「あ、主人‥?」
「おや、知らない?うーん‥私の予想と違うな‥‥胡桃さん、吸血鬼と言う種族についてご存知かな?」
嘘っぱちの都市伝説を信じ込ませる様な声色で、淡々と話す。
(私が知ってるのは‥ヴラド公を元にしてるドラキュラ伯爵と、様々な伝承が各地にあって、死者が蘇った存在っくらい。共通しているのは、血を吸って生きながらえてるって事くらい‥)
考え込んでいる胡桃を見て、プライドは知らないと考え、吸血鬼に付いて説明を始めた。
「吸血鬼と言うのは、年に4回、赤い満月の日に生まれる、血を吸って生きる怪物の一種です。基本的に寿命は無いけど、長い事血を吸えずに居ると老いて行き、やがて動かなくなる。吸血鬼には階級があって、種族の大半を占める下級の吸血鬼は日光すら浴びれないので、あまりこちらの世界には来ない。上級種の吸血鬼もとある女性のお陰で来ようとしない。だから、被害の心配はしない大丈夫だよ」
おかしなことは無いように感じたが、一つの点が引っかかる。
「‥‥え?ま、待ってください。こちらの世界ってなんですか‥?」
もしかしたら、元いた世界?淡い希望を抱く。
「あぁ。そうでした。吸血鬼は、夜の世界と呼ばれる、この世界とは別の、日が昇らない世界で暮らしているんです。ヴィリティーは別なんですが‥」
そういう訳では無さそうだ。
「はぁ‥‥」
なんだかよく分からないが、自分が知っている吸血鬼とは違う、元の世界に帰る方法はなさそう、と言うことだけ、胡桃は理解した。
「それで‥ヴィリティーさんは吸血鬼なんですよね?どうして、こちらの世界で‥」
「あいつ、吸血鬼が嫌いなんです。小さな頃親に捨てられて、泥水啜って生きていたらしいんですけど。それ以上は語ろうとしないから俺も詳しいことは分かんなくて、吸血衝動も無いし、聖騎士に置いてるんだ」
また気になる単語が出てきたが、いちいち突いては話が滞る。モヤモヤしながらも、触れないようにした。
「それで、その‥主人ってなんですかね?」
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