閑話 高額なヘソクリ

第14話 換金と納税

 ……大金を担いで神殿まで歩いたわけだが、道中誰にも絡まれないどころか、片っ端から目を逸らされると言う対応を受ける羽目になった。

 商人や貴族でない背格好の者が大金を持つ、イコールで触らぬ神と言う訳だな。

 確かに、自然な流れなのだろう。

 冒険者や傭兵が大金を得られるような仕事をすると言うことは、危険度の高い仕事を遂行出来る戦闘力がある人外と言うわけだし。

 しかし、長らく日本人として生きてきた身の上としては、大金を持って歩くと言うのが、精神的にキツいのも事実である。


 そんな思いをして、持ち帰った金貨だが、Eカードに入れる時点で目減りした。

 まず、大金貨96枚、金貨と小金貨が1枚づつが、スカウトマン報酬として晴彦へ支払われたわけだが、こちらは別に良い。

 元々、晴彦の紹介がなければ稼げなかった金であり、俺と同じく大金運びの精神的苦行を味わったのだから。

 それよりも問題は、税金。

 アルンランド王国への税金として、1%分少数切り捨ての大金貨4枚。

 対して、日本へ納める取得税が5%分小数点切り上げの大金貨25枚。


 ……分かってはいるのだ。

 正直な話、他の仕事に比べて異様に安い税率であるとは……。

 それでも、数ヶ月分の給料に匹敵する額を納税する羽目になると、思うところも出てくる。


「いやいや、先輩が1度に稼ぎ過ぎただけっすよ?

 1回の異世界転移で、50万円以上の利益を得た場合に初めて納税が発生するんすから!」


 がっつりと取られた税金に、つい愚痴ってしまえば、目の前でコーヒーを飲んでる晴彦に呆れられた。


「……それはそうかもしれないがな」


 俺自身もそれに納得しているので、あまり強く言い返せない。

 実際、利益50万円以下に対して、無税。

 50万円以上でもたった5%ってのは、相当に有り難い扱いであるのだ。

 しかも、取得ではなく、利益に対してとか厚遇過ぎる。

 それはつまり……。


「冒険者派遣が、国として儲かるってことだろうな」

「……まあ、誘導はされてるっすね。

 冒険者になれば稼げる。

 向こうで散財すれば、税金が掛からないってのは……」


 俺の呟きに同意を示す晴彦。

 まあ、普通のサラリーマンやってる身である。   

 日本政府が庶民のためにとか、今更期待していない。


 現実を見るなら、アルンランド王国のダンジョンで稼いだお金は経費として、アルンランド王国内にある日本企業に取り込まれる。

 日本で使用するよりも、高い利回りで……。

 それを通して、日本の財政に寄与する訳だ。

 何せ、サービスにしろ物品にしろ、日本産のクオリティーが圧倒的に高いので、自然と散財しようとすると日本の資本企業の店に集中してしまう。


「下手に隠し財産を持たれるよりも、効率的に税収が確保できるわな。

 そんで、50万円のライン。

 冒険者が下手に溜め込まないようにするための抑止力だろう?」

「税金として徴収されると聞くと、勿体ない気がしてしまいますもんね……」


 これは国と言う大きい枠だからしょうがない所ではあるんだがな。

 税金の多くは、社会の維持に使われているのだが、それが実感できるかと言えば否。

 そうなると搾取されている気分になって、少しでも節税を考えてしまう。


「実際は、アルンランド王国で日本企業の商品を買うと、日本で買う時の10倍以上の値段なのだから、素直に納税した方が安いのだろうが……」

「……本当にそう思っています?」

「負け惜しみだ」


 強がりとも言うか?

 いまいち、損をした気がするんだよな。

 頭では分かっているんだ。

 仮に100万円分を稼いだとして、素直に納税してから、日本で使えば、95万円分の買い物が出来る。

 対して、50万円分をこちらで使えば、税金はないが、日本で5万円で買えるものを50万円で買うわけであり、言うなれば55万円分の買い物しか出来ない。


 いや、アルンランド王国の物やサービスを買えば別なんだ。

 それも理解しているが、品質の差は埋めようもない。

 ……つくづく嫌な手法で税収を得ようとする。


「……と言ってもだ。

 儲けはでかいわな。

 あれこれと差し引かれたが、未だに3,000万円超が新規口座にあるわけだし」


 税金うんねんで愚痴るよりも、手元に大金が転がり込んだことを考える方が建設的だ。


「そうっすね。

 で、何に使うんすか?」

「……どうしようかな」


 気軽に訊ねてくる晴彦に対して、俺の気分は暗い。

 これが数万とかであれば、妻への説明もまだ誤魔化しがきいたのだが、桁があまりにも多すぎる。

 今時、宝くじでもこんな短期間で稼げる額ではない。

 数週間前に買った宝くじが当たっていたとかにでもするか?

 ……ないな。

 ネットで幾らでも過去の当選番号を調べられるんだ。

 一瞬でボロが出る。


「家計費に入れて、そこからお小遣いでって形を取るには高額すぎる……」

「……なるほど、既婚者だとそういう問題もあるんっすね。

 異世界関連は、家族相手でも守秘義務があるわけですし……」


 朝、小遣い稼ぎに副業の登録してくるわ。

 って出ていった夫が、夕方数千万円稼いで帰宅。

 しかも、詳しい事情は話せないとなれば、警察に通報されても不思議じゃない。


「新しく作った口座から、週末毎に数万引き出して使うしかないのだろうな……」

「折角、大金稼いだのにチマチマしか使えないっての悲しい話っすね」


 晴彦の不憫な者を見る視線を受ける羽目になり、どう考えても、制度設計が独身者向けなんだろうと空しい気持ちに、


「……ああ、50万のボーダーには、これの対策もあるのか」

「……へ?

 なるほど。

 既婚者だと、日本ではチマチマとしか使えないのだから、予めがっつり税金を回収しておくっすね?」


 俺の呟きで気付いた晴彦の言葉に同意する。

 ……そう。

 1度に大きな買い物が出来ない既婚転移者。

 その税金対策の一面と考えるとある程度、手堅い手法とも言える。

 ……50万の5%で2万5千だろ?

 下手なサラリーマンの所得税1ヶ月分以上の額だ。

 家庭持ちで貯蓄に回したい連中から、毎回絞るには適した金額とも言えるだろう。

 何せ、家庭がある以上は日帰りが基本だ。

 ……まあ、だからと言って、何をどうこう出来るわけでもないのだがな。

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