第27話 素泊まりオンリーの真実
共同浴場へとやってきた僕は【男】と書かれた暖簾をくぐる。脱衣所では綺麗に畳まれた服が一組カゴに入れられており、他の宿泊客でもいるのだろうかと考えながら僕も服を脱いで浴場へと向かった。
「ヘージ、湯加減はどうだ?」
「まだ浸かっていないんだけど……、シェイブがなんでここに?」
「それもそうか。ならさっさと体を洗ってこい」
4人ほどが同時に仕様できる程度の広さがある簡素な風呂場だが、そこにはスキンヘッドの先客がおり気後れしてしまった。
「―――ふぅ。熱めでちょうどいい、疲れが取れるよ」
「そうか。それならならよかった」
「で、なんでシェイブがお風呂で待ってたんだ? 一応は僕はお客だし、入浴時間も終わっていないのにシェイブが先にお風呂に入ってるのはおかしいと思うんだけど」
少し熱めのお湯は旅の疲れを十分に癒してくれる。心も体もほぐれた僕は宿泊客よりの先にお風呂に入っていた宿屋の主人という状況についてもう一度尋ねた。
「その、……さっきは悪かった。実はアリアとは昔からの知り合いでな、少しからかっただけなんだ」
さきほどの悪ふざけについて謝罪を受ける。考えてみればアリアさんは良くこの町で買い物をしているし、この宿屋へ一直線に向かったことを考えれば二人が知り合いでもおかしくはなかった。
「そういえばアリアさんって神殿で一人で暮らしたし、むしろシェイブのような知り合いがいてくれてよかったと思う」
「そう言ってもらえると助かる。―――で、お前さんたちの関係についてちょっと聞いてもいいか?」
シェイブは友人としてアリアさんの心配をしているようで、神殿に引き籠っていたアリアさんが僕らと一緒に旅に出た理由をきちんと話しておくべきだと思いこれまでの経緯を彼に伝える。
「お前ら魔族に襲われたのか!? よく無事だったな!!」
「アリアさんが魔法で戦ってくれてなんとか。それでサクラも言ってたけど、セリアさんっていう僕らを育ててくれた人がアリアさんの妹なんだ」
サクラやジューダスという前世に関わることと、オティヌスという神とのやり取りを伏せて旅に出た理由までを話した。
「確かに……、一度でも魔族の侵入を許した神殿に住み続けるよりはいい」
「納得したか? 確かに僕らはまだ会って間もないけど、それでもアリアさんは僕らの大切な仲間だよ」
それから他愛もない話も交えながらこの町のことを教えてもらいました。
「それでな、うちは兼業農家でファガリアの栽培をやってるんだが、アイツがいきなり『とても美味しかったのよね! 売ってほしいのよね!』と押しかけて来てよ。ちょいちょいと個人的に売ってやってたんだ。それにアイツ、この町じゃ森の中に住んでる別嬪さんで有名なんだぜ」
さっきのデザートを食べているときのアリアさんを思い出し、あの人が食べるのに夢中になるファガリア、そしてシェイブが兼業でファガリア農家をしているという情報が繋がります。
「もしかして、レストラン『すいーつ』っていうところにファガリアを下ろしてたりする?」
「おう! もしかして食べてきたのか? どうだ? 美味しいだろ!」
「ああ、とても美味しかったよ。明日、アリアさんが農場に連れていってくれるって言ってたけど、大丈夫か?」
「また勝手にアイツは……、まぁ、問題ない。それよりもあまりの光景にびっくりすると思うから楽しみにしてな」
そう言ってシェイブは豪快に笑う。よっぽど自分の仕事に誇りを持っているようで少し羨ましかった。
「……この町での残りの2泊をここに泊ってもいいか?」
「大歓迎だ! ありがとな!」
「明日の農場見学、楽しみにしてるよ」
湯船の中でガッチリと握手をする。裸の付き合いをした僕らは友人といってもいいだろう。
「遅すぎるのよねっ!」
お風呂からあがり部屋に戻るとアリアさんがプンプンと怒っていた。
「おにーちゃん? アリアさんの怒りはもっともだよ?」
「そーなのよね! どうして後からお風呂に入りいった私たちよりも遅いのよね!」
女性は長風呂と聞くが、二人よりも先に入って後から出てきた僕は外出を疑われたりしたため、色々と誤解を解く。
「アリアさんの言っていた農家ってシェイブのことだったんだね」
「私が驚かそうとしてたのに……、シェイブには後でお仕置きが必要なのよね……。二人は先に寝ているといいのよね」
「ねぇ、ちょっと待って! そうだったの!?」
「そうなのよねっ! サクラちゃんは可愛いのよね!」
寝耳に水なサクラはこの宿が目的地で、ファガリアを作っている人がシェイブだと知るととても驚いたようで、それに満足したアリアさんはお仕置きのことは頭から消えたようだった。
「明日シェイブにはサクラに感謝するように言っておかないとな……」
しかし、兼業農家か。確かに宿屋を素泊まりオンリーにしておけば朝ごはんの準備しなくてもいい、その分の時間を農業に回せると考えたら効率的だ。それにベッドをダブルベットのみの二人部屋だけにしておけば布団を干す手間も半分だ。
「シェイブのヤツ、そこまで考えて……」
……そこまで考えて、そこまできっと考えてないなと思い、僕は眠りについた。
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