第9話 ボス戦
「む?」
イクミの前に、もう一人の来客が。自衛隊のような武装をしている。冒険者か。リーダーは、ハイイロオオカミ型のライカンのようだ。
オオカミタイプのライカンが、いじめの首謀者をスライムから引っ張り出した。
「いいところに来た。助けてくれ!」
いじめの首謀者が、冒険者のリーダーに手を伸ばす。身体はもうドロドロで、もう助からないのに。
「やれ」
イクミは、玉座のかたわらにいたスケルトンに指示を送った。
スケルトンが、その場から飛び跳ねる。着地の際に、いじめ首謀者の背中を剣で刺した。
「だ、だず、げ」
いじめっ子の頭を、スケルトンの足が踏み潰す。
「
「冒険者だろ? 知ってるよ」
イクミが、手を上げた。
スケルトンが、剣を振り上げる。
「また現れたの? あれだけ盛大に負けておいて、まだやるってわけ?」
「前回は、要救助者がいた。今回は、なんの護衛対象もない」
「心置きなく、ワタシを殺せるっていいたいの? やってごらんなさいよ」
「そうさせてもらう」
オオカミのライカンが、銃撃してきた。
銃弾には、雷属性の魔法攻撃が、上乗せされている。直線的な攻撃しかできないスキルだが、威力は他の魔法とは段違いだ。
モンスターが、ハチの巣になっていく。
魔物に近代兵器が通用しないなんて、フィクションの世界だけだ。奴らにはちゃんと銃弾も通用するし、当たれば傷つき、死ぬ。
ダンジョン内の魔物でさえ、例外ではない。
イクミはその場から動かず、魔法障壁で弾き返す。
銃弾が、障壁を突き抜けてきた。肉眼で視認できるほど、遅い。
イクミは、雷撃で弾丸を破壊する。
わざわざリーダー格が、数名だけ引き連れて、正面切って襲撃に来ている。銃撃も、小出し小出しで。
奇襲を待っているのが、見え見えだ。
あのリーダーは、スケルトンに対処させることにする。
「くっ」
スケルトンに剣で切り込まれて、リーダー格は防戦一方になった。
さて、どこから来る?
「来た!」
特大の雷撃が、イクミに降り注ぐ。
だが、イクミは魔法障壁で、攻撃を完全に防いだ。
「なんだと!?」
「衛星砲台とは、考えたよねえ!」
武装した人工衛星で、はるか上空からレーザーを撃ってきたのだ。
現代日本が、こんな違法兵器を使うとは。
よその国と、取引したのだろうか?
だが、悪手もいいところだ。
「宇宙空間から撃ち込めば、ダンジョン化した世界の物理法則も中和できると思っていたようだけど、おあいにくさまだね」
そんな浅い思慮で、このダンジョンの法則は打破できない。
「ダンジョンにいる魔物を倒すには、ダンジョンに直接入って攻撃するしかない!」
「くそ……む!?」
オオカミのライカンが、外に視線を向けた。
なにごとか?
「おおおおおおお止めてってえええ!」
オンロードのバイクが、闘技場に突っ込んできたではないか。
乗っていた少年が、少女を抱きかかえて飛び降りる。
バイクだけが、イクミめがけて突っ込んできた。
「なによ!」
イクミは、玉座から飛び退く。
さっきまでイクミが座っていた玉座が、バイクによってグシャグシャに。
玉座は爆音を上げて、炎上した。
「やってくれるわね……」
*
「
「持ってるよ! ウーバーのバイトで必要だもん!」
このバイクには、変な改造がしてあったのだ。エンジンをかけるなり、いきなり青い炎を上げてぶっ飛ばしたのである。
人のバイクを借りるときは、ちゃんとチェックしておかないとね。
「もう。無事だったからよかったものの!」
「ごめんなさい。そうはいっても、到着したみたいだね」
ステージのような場所に、一人の女子高生が立っていた。
そこらじゅうに散らばっている肉片は、ボクと同じ上下茶色の制服を着ていた。こちらは木島第三の制服である。ボロボロだけど。
「たしか、
「誰かと思えば、あんたも木島第三の? 全員逃げたと思ったのに」
「逃がしてくれたわけじゃ、ないでしょうが」
「ええ。木島第三の生徒は、一匹残らず殺すつもりよ」
「ボクは一回、死んだよ。復活したけどね」
「復活した? どうやって?」
「今から教えてあげるよ」
ボクは、ダンヌさんと融合した。
右腕に、ゴリラのような太い筋肉と長い爪が形成される。
「バカな。その腕は、【ダルデンヌ】の!? どうして獣王が、人間なんかに協力をしている!?」
どうもイクミは、魔王ダルデンヌの存在を知っているみたい。
「知らないよ。そんなの。たまたま、目に入ったからだろうね」
実際は、どうかわからない。
ダンヌさんがボクを裏切って人間を敵に回す可能性だって、ゼロではないのだ。
とはいえ、今はボクに力を貸してくれている。
「でもさ、キミを許せないのはボクもダンヌさんも同じだよ! 日常を、返してもらうからね!」
「やれるもんなら、やってみなさいよ! スケルトンキング!」
イクミが、ガイコツに指示を飛ばす。
「このバカを、始末して!」
スケルトンが、ボクに向かって剣を振り上げた。
「緋依さん下がって!」
ボクは緋依さんの盾になって、剣を受け止める。
「こういうやつは、やっぱ火炎でしょ。【ファイアーボール】!」
ガイコツの心臓に、手をかざした。
「待つお! ナオト!」
「え?」
ダンヌさんが止める前に、ボクはファイアーボールを放ってしまう。
ボクのファイアーボールを、スケルトンは剣で反射させる。
「おっと!」
とっさに、ボクは身を翻した。
爆風を利用して、スケルトンと距離を置く。
「打ち返された!?」
ゼロ距離から攻撃を放ったのに、剣で打ち返すなんて。
「スケルトンキングの特技は、【カウンター】だお!」
ボクの手には、自動的に【アイスシールド】が展開されていた。
ダンヌさんがとっさに【アイスシールド】を展開してくれなかったら、ボクはまっ黒焦げになっていたかもしれない。
それでも、制服が少し焦げ付いた。
「ありがとう、ダンヌさん」
「どもども」
「仕切り直すよ!」
「だおね!」
素人の太刀筋で、右腕を振り回す。
キバガミさんと緋依さんも、戦っている。
だが、玉座に座るイクミまで、たどり着けない。
このガイコツを【
ガイコツを倒しても、仕方がないんだ。
「【絶対障壁】は、より強力な魔法を打ち込まないと、破れないお」
「人工衛星からのレーザーも、弾き返すもんね」
「あれは、ダンジョンが干渉しちゃったからだお」
ダンジョンと地上は、正確には地続きだ。
その気になれば、ミサイルもレーザーも地球の側から撃ち込めばいい。
だが、撃ったところでダンジョンの結界に阻まれてしまう。
ダンジョンに入る前に、ミサイルは破壊される。
レーザーはかろうじて通り抜けられるが、威力はさっきわかった。
「あれが対ダンジョンの秘密兵器だったみたいだお。でも、やっぱり光学兵器でもダメだったみたいだお」
「少しずつダンジョンを焼いてってのも、かえって効率が悪いかもね」
「そうだお。直接ボスを殺したほうが、予算的にもいいおね」
だが、このスケルトンは強いな。
こちらの攻撃を、軽々とさばいている。まるで、ゲームプレイヤーと戦っているみたいだ。
まったく、イクミに近づけさせる気がない。
「強いでしょ、ウチの父は」
玉座から、イクミがこちらを見下ろしている。
「このひとが、キミの?」
「そうよ。ワタシが殺して、配下にしたの」
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