第16話

 先週目が覚めたのは、午後6時55分だった。


 そして今目の前にある時計は、午後5時55分をしめしている。


 私がいつも起きる時間は、大抵6時くらい。そこで先週はかなり遅く目覚めたし、今週は早く目覚めたってことになる。


 なんだろう? この時間の差。先週もそうだけど、今週の早さも異常で、そこがどきどきする。


「おはよう」


 リビングでは夕占ゆううらさんがテレビを見ている。


 夕方のニュース番組が今放送されている。


「おはよう。今日はちょっと早いね」


「本当だね。でも遅いよりはいいよ」


「そうだね。できればもみじが起きている時間が長ければ長いほど、あたしはうれしい」


「それは難しいな」


 やっぱり起きるのは、私にとって難しい。


 金曜日の夕方から夜にかけて起きているだけでも疲れるのだ。


 そこで金曜日以外にも起きる、それを選ぶのは私にとってしんどい。


「今日の夕ご飯は、おでんだよ」


「わーい、おでんだ」


「あと食後のデザートは、お餅いりぜんざい。先週はお正月でお雑煮だから、今週はおぜんざい」


「おしるこじゃなくて、おぜんざいね」


 豆が一切入ってないおしるこではなくて、小豆の強調されるようなおぜんざい。


 考えてみれば私は今までおぜんざいばっかり食べてきて、おしるこを食べたことがないかもしれない。でもいいや。おぜんざいおいしいし。


 ということで夕ご飯。


 レタスのサラダに、おでんにきんぴら、それから白米を炊いた物。おでんはあっさりしているけど、そのぶんきんぴらはこってりしている。そのバランスがあって、とてもおいしい。


 食事が終わった後は、念願のデザートだ。


「ということでおぜんざいでーす」


 丸い餅の入った、おぜんざい。それを夕占さんが用意してくれた。


「やっぱりおぜんざいはおいしーい」


 小豆の甘さ、おもちの甘さ。その甘さがうまい具合にあって、とてもおいしい。


「べにはは毎日のように缶入り汁粉か缶入り焼き芋ドリンクを飲んでいるらしいけど、もみじはそういうのできないし。これからはできるだけ、もみじもおぜんざいを食べることができるといいね」


「えーべにはたくさん缶入り汁粉飲んでるんだ、うらやましい~」


 とはいえべにはのように、生きるなんてことしたくない。


 例え毎日美味しい物を食べることができるからという理由でも、私はやっぱりこの生き方がいい。


 金曜日の夕方から夜まで起きて、それ以外の時間は寝ていて。それだけがいいんだ、それ以外することなんて何もないんだ。


「そうだよね。もみじも毎日おぜんざいを食べることがいいね」


「私はこの生活が気に入っているから、別に良いよ」


 でも、でも。


 このおぜんざいをたくさん食べること、それができるのは幸せだなって思う。

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