第11話 責任
その夜、俺は今後についてどうするべきか考えずにはいられなかった。ブラックバスを見た途端にケースの扉を破損して出てきたかと思えば、身体が大きくなって瞬間に思いっきり魚に喰らいつく猫を一時的とはいえ、飼うことなってしまった。
「なんなんだよ。もう…」
ベットの上に座りながら頭を抱える。
そのまま数回深呼吸をした。
ぼんやりと“あの張り紙”が頭をよぎる。
「…もしかして!」
頭を上げた先に壊れた扉からジッとこっちをみるカムを見つめた。
翌日、俺は久保に電話した。電話口でいつもり早い口調で手短にと伝えられた。
「あの、拾った猫が…その…怪猫なんですが…」
久保はもう一度いいですかと尋ねていた。
「カムがブラックバスを見た途端に大きくなって、魚を食いちぎったんです!これって、街中に貼られてる怪猫なんじゃないんですか!?」
こんな現実味のない話を受け入れてもらえるなんて俺は到底思っていない。でも、1人で抱え込むなんてできなかった。そんな俺に久保は事態を飲み込めてない様子で頷いた。俺の話を聞いて、ゆっくりと久保が俺に質問した。
「カムとは、猫ちゃんの名前ですか?」
そう言えば、俺はまだ先生に名前をつけたことを伝えてなかった。はいとだけ答えた。久保が微笑んだような声が俺の耳に入った。
「外堀さん、とりあえず後でカムちゃんと一緒に病院まで来てもらえますか?話はその時詳しく。」
その日の夕方頃、壊れたケースのままカムと一緒に病院へ向かった。
久保はいつにもなく冷静に俺の話を聞いていた。顔色を変えず、真剣そのものだった。俺の話が終わると、久保は用意していた書類を目の前の台に広げた。
「これを見てもらえますか」
2枚のレントゲン写真。
人間のものではなく、動物のように見える。直感的に猫のレントゲン写真だと俺は思った。
「こちらがごく一般的な猫のレントゲンです」
俺から見て左のレントゲンを先生が指差す。
俺はよくわからないまま頷いた。
「そして、こっちが好夢さんの猫、カムちゃんのレントゲンです」
俺から見て右のレントゲンに先生が人差し指をスライドさせる。またしても俺はよくわからないまま頷いた。久保はそんな俺の反応に応えた。
「結論からお伝えします。前に手術をしてると言いましたが、カムちゃんの手術はかなり大掛かりだったように思います。」
「はぁ…へぇ!」
俺は変な声を出した。
手術をしているとは聞いていたが、それがどの程度なのかまで俺は想像していなかった。続けて久保は話を進める。
「外堀さんが体験したカムちゃんの変化は私の見立てですと、この手術に関係していると思います。このレベルの手術は普通の獣医師が対応できるとも考えられませんので、この手術した人はかなり限られてくると思います。」
それを聞いた俺は少し安心していた。一時的とはいえ、人生初めての飼い猫が得体の知れない化け物なんじゃないかという不安がずっと頭を反芻していた。
それにこんなにも早く元の飼い主に近づける手がかりが見つかるとは思ってもいなかっただけに、少し前進できた気がした。
ただ、この特殊な猫を元の飼い主が見つかるまで育てていけるか、今の俺にはあまり自信がない。そんな俺に久保は頭を下げた。
「申し訳ありません。私がしっかり調べないあまりこのような結果になってしまって。」
一度深く下げた顔を上げた時の先生の顔は本気だった。自分の不甲斐なさを誠意を持って、俺に伝えてくる。
「こんなケースは前例がないので、外堀さんがよろしければ、保護してもらえる施設を探します。カムちゃんはこちらで一旦引き取る形で…」
久保が俺に提案してることは悪い話ではないはずだ。猫がいない元の暮らしに戻れば、当初の釣りを満喫ための一人暮らしが実現できる。
でも、カムを手放す事に納得ができない。一度、元の飼い主が見つかるまで飼う事に責任を持ったからには元の飼い主が見つかるまで飼うべきではないのか。それに“カム”って、人生初めて飼う猫に名前をつけた。その責任はしっかり果たすべきではないのか。久保がどうしますかと俺に尋ねる。
「あの、俺にカムを育てることはできないですか」
ただそれだけだった。自分にできる事はもうないのか。そう考えると素直に心苦しかった。そんな俺を見て、先生は少し微笑んだ。
「では、詳細にカムちゃんについて教えて下さい。できる限りの支援します」
かい猫バイツ! じょーこねみぎー @Butch_MARSK235
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