第22話 幕間③

「……どうだった?」

「幸せそうに寝てたよ。ほら、持ってきたぞ」

「ありがとう」


 そう言ってオレは縁側に座って空を見上げている椿の隣に腰を下ろす。

 オレの手には何年かぶりに買ったお酒が二つ。

 二人してお酒が好きだけどアルコールに弱く、肇が生まれたのを機に飲むのを控えていたけど、今日くらいはいいだろう。

 お酒を開けると、カシュツという小気味よい音が響き、


「ごくっごくっ……ぷはぁ。あぁダメだな。缶チューハイならいけると思ったけど、やっぱりそんなことはなかったわ」


 もう少し酔いが回っている。

 椿もオレに続いて一口。


「…………はぁ」

「あの子を産んでもう二十年かぁ……。長かったような、一瞬だったような不思議な感覚ね」

「……そう、だな。もう、そんなに経つのか」

「ねぇ和文さん、私はあの子の母親としてちゃんとできていたかしら。私は妖精だけど、それでも人波以上に愛情を注いであげられたかしら」

「それをオレに聞かれてもな。なにせ子供なんて初めてだからな……。正直オレもあいつの父親としてちゃんと出来ていたかどうかわからん」

「でもまぁ、あんなに立派な息子に育ったんだ。きっとオレたちは間違っていなかったと思う」

「そう、ですよね。うん、そうですよ、和文さんの言う通りあんなに立派に成長したんですもん」

「子供を育てるのが親の務めってんなら、成長した子供の門出を見送るのも親の務めってもんだ」

「和文さん……」

「椿……」

「お疲れさまでした」


 コツンと互いの持っている缶がぶつかり合う。


「明日は笑顔で送り出してやらねえとな」

「ふふっ、そうですね」

「そんでもって、あいつがいなくなったら……」

「…………」

「椿さえ良かったらなんだが、二人目、作ろうか」

「和文さん……」

「もしいつかあいつが戻ってきたら、驚かせてやろう」

「ふふっ、それはいいですね」

「……ま、もしかしたら孫と初対面することになるかもだけど」

「それはそれで嬉しい事じゃないですか」

「はは、違いねぇ」


 最愛の息子との別れは寂しいけれど、これはあいつの選んだ道だ。

 だから悲しむなんてことはしない。堂々と、いつものように、笑顔で送り出す。

 ……それがオレたちに出来る、最後の子育てだ。

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