第20話 迫りくる足音
いつから? と聞かれればわからない。
でも確かなのは物心が付いた時には、僕は周囲に疎外感を覚えていた。
別にいじめられていたり、ハブられていたわけではない。
例え友達と遊んでいても、可愛い子と一緒に並んで歩いていても、学校のイベントで暮らす一丸となって頑張った時も。
全部、全部、全部全部全部……。
まるで自分はこの世界の住人ではないと。誰かから言われているわけでもないのに、そんなことを感じて日々を過ごしていた。
それでもお花の世話をしている時は不思議とそう感じなかった。
今までは余り深くは考えなかったけれど、さっきのアオイさんの話を聞いて僕は確信した。二十年前に来たという人間は父さんで、父さんを助けたのが母さんだと。
つまり僕は妖精と人間の間から生まれたハーフ。
そのことに気が付いた時、腑に落ちたんだ。
どうしてあっちの世界では馴染めなかったのに、こっちの世界では馴染むことが出来たのか。
「帰りたくない……」
思い出してしまったからこそ、よりその思いが強くなる。
サクラがいない世界で、僕は生きていける自信がなかった。
前に記憶を思い出して不安になったときがあった。あれは夢の内容ではなく、あっちの世界に帰る事への不安。
あまりにもこっちの世界が美しく、僕にとって過ごしやすいから……。
「……サクラ」
「――はい」
「……ぇ?」
その声が届いた瞬間、僕の視界は一気に明るくなった気がした。
「……あれ、僕は……」
窓の外はすっかり暗くなっていた。
それにいつの間に移動したのか、僕はベッドの上で横になっていて、その隣には愛おしい彼女が僕を見つめていた。
「……おはよう、ございます」
「はい、おそようございます」
「僕、いつの間にベッドに……というか、なんでサクラが……」
いっぺんに色んな事が起こりすぎてよくわからない。
「そういえば手……変わらないか」
いや、むしろ少しだけ広がっている。
やっぱりアオイさんの言った通りだ。
「……はぁ」
「ふふっ」
そんな僕を見てサクラはくすりと笑う。
「サクラ?」
「すみません、肇さん起きたばかりなのに表情がころころ変わって、それがなんだかおもしろくて」
「でもよかったです。思っていたよりも元気みたいで」
「……肇さん倒れたんです。アオイお姉ちゃんが部屋から出たら中で大きな音がして、慌てて部屋の中に入ったら、肇さんが気絶していたらしいです」
「すぐにベッドに運んだのは良かったんですが、お姉ちゃんたちはやることがあるからわたしがずっとこうして添い寝をしていました」
「そ、そうなんだ……」
ということは、途中から感じていたアレは全て夢……。いや、違う。あれは列記とした僕の中にある気持ちだ。
サクラはずっと添い寝をしていたって言っていたけど。
「サクラ、寝言とか言っていた、かな……」
あまり変なことを言っていなければ良いけど。
「それは、えっと……ごめんなさい、肇さんの寝言全部聞いちゃいました」
「ちなみにどんなことを言ってたの?」
「その、寂しいとか、帰りたくない、とか……。あとは、えへへ~」
「待って、なにその笑顔。可愛いけど、それ以上に僕が何を言ったのか気になるんだけど」
「秘密ですっ。……それよりも肇さん。一緒にビニールハウスへ行きませんか?」
「ビニールハウス?」
「はい。歌う時は肇さんに聴いてもらいたくて、まだ歌っていないんです。だから……」
そういうことか。確かにこの世界に来てから、サクラが歌う時は必ず僕が聴いていた。
「わかった」
「ありがとうございますっ」
……もしかしたらサクラの歌を聴ける機会は、これが最後かもしれないから。
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