第21話

「……」

ルノルドとリイコの間に気まずい沈黙が流れる。

(俺はリイコとは無関係な男だ。それは最初から今までずっと変わってない)

(だが、だからと言って)

(このまま何も知らずに旅を続けるのは……)

「ねえ、ルノルド」

「ぎゃっ!?」

「あたしに話したいことがあるんじゃなかったの?」

明らかに不機嫌なリイコ。

「今話そうと思ってたのさ」

「嘘」

「う、嘘じゃないさァ!!」

「変なこと考えてたの?マウマウが言ってたけど、ルノルドってヘンタイってヤツなんでしょ」

「はぁ!?」

「ヘンタイがどんな意味か知らないけど、ルノルドにピッタリの言葉なのはあたしにもわかる!」

「だっ……!ヘンタイヘンタイ連呼するんじゃない!!」

さっきから通行人の視線が痛い。こういうときに不利なのは圧倒的に男なのだ。

「お、俺はあんたのことを知っておきたいと思ってわざわざ時間を取ってだね……!」

「あたしは別にルノルドのこと知りたくないもん」

「うっぐぐ……はあっはあっ……!」

本当にこの女は苦手だ。相性が悪いのだろう。

「あたしのことは前に話したもん!忘れるなんてやっぱりオジサンだね」

「ち、違う!オジサンって言うな!」


「ん?んん?おじちゃんのこと呼んだかい?」

「買い物完了」

「で、2人ともお話は済んだのかい?」

ヒラガキがマウノネオを毛布で包む。途端に顔色が良くなるマウノネオ。

「おふたりでゆっくりお話できてたっス!」


「どこかだ!!!くっ……話にならないぜ!」

「ルノルドがすぐ怒るからじゃん!」

「それはあんただろう!」


「あー、はいはい。痴話喧嘩はそこまでにしてください。じゃあ、荷物詰んで行くっスよ!」

「マウマウ、あんたねェ……」

「ルノルドは放っておいて行こ!ラトレル!」

「だが……ルノルド・エル・レアンドロと私は……」

「えっへへ、なんだこりゃ楽しいねい。おじちゃん退屈しねェや」

「あ、あんたたちねェ……!」




「壊れたってどういうことだよ!これは『永遠の機械』なんだろ!」


「……え?」


「そ、それは私たちの作った機械ではありません!」

「いいや、『デイヴィス』印が入ってる!これが偽物だって言うのかよ!」

「よく出来た偽物が出回っているという噂はあり……」


「何だ?例の機械かね」


声のする方に向かう。そこには困った顔をしたスーツの青年と、ロボットを抱き締めて怒っている子どもがいた。

「俺のロボットが壊れたんだよ!」

「別の企業がつくったものである可能性が高いですから、我々が出来ることは何も無いです……」

「ううっ……ぐすっぐすっ」

子どもは泣き出してしまった。

「そのロボット、見せてみろ」

ルノルドが屈んで子どもに話しかける。

「え、何だよオジサン」

「オジサンじゃないぜ。……これなら修理出来る。コイツはまだ生きたいらしいからね」

「直るの!?」

「ああ。……あんたは修理工か?」

「ち、違います……」

スーツを着た青年が弱々しく言う。

「そうか。ロボットは俺が修理しよう。永遠の機械なんて使う必要は無いさ」


子どもを抱っこしてその場を立ち去ろうとするルノルド。そのときだった。

「はっ……!ルノルド!危ない!」

リイコの声に驚く、が、もう遅い。

「引っかかったな!」

「うおっ!?ぐっ……!」

腹にじわりと痛みが広がる。刺された。

「る、ルノルド!!」

一番に動いたのはラトレルだった。

「来るな!今度はこのままコイツの首をきってやる!」

ルノルドの首筋に小刀が。

「……!」

「ジュンキチ……そ、そんなにあたしを連れて帰りたいの?なんで!?」

子どもはジュンキチだったのだ。謎技術で容姿を変えていた……リイコは気づくのが遅くなったことを後悔していた。

「社長の願いにはリイコが必要だからだ!」

「な、んだか、分からんがねェ……!俺を巻き込むな……!うっぷ!?」

「俺は本気だ!リイコ、こっちに来い!」

「来なくていいぜェ!リイコ」

「子どもになったってウサギになったって無駄だからな!」

「分かっている……!やっぱりあんたはすごいぜ……痛いから動けない……」

「ルノルド・エル・レアンドロ……」

「万事休すってヤツっスかね……」

(無理やり力づくで抜け出せなくもないが、問題はその後だね。この余裕、まだなにか隠しているかもしれない)

次はリイコが脅されるかもしれない。それは避けたい。


「おーい、こっちこっち」

ヒラガキがジュンキチに向かって手を振る。

「妙な動きをするな!きるぞ!」

「ん?おじちゃんは手を振ってるだけだがねぃ」

(あれっ、あの動きって)

リイコがなにかを思い出す。


―はあ……今日も疲れたわね、リイコ。


―こんな日はいちいちボタンを押して服を脱ぐのすら面倒かも……自堕落過ぎるかな。


―分かるわあ。そうだ、そんなときにはこうするのよ。


(たしか、右、左、左、上、下、右……)

記憶の視線の方向とヒラガキの手が連動している。反転に、だが。

「な、何をしているんだあのおじちゃんは……俺は結構腹が痛いんだが……」


「ひゃっ……!?」

甲高い声。ジュンキチがルノルドの首にあてていた小刀を落とす。

「痛っ!!!」

首の皮膚が軽く切れる。しかし、抜け出すことはできた。

「ふ、服が……脱げちゃった……なんで……さ、寒いよお…」

騒ぎを聞きつけた街の人たちが集まってきている。その真ん中で、恥ずかしくて蹲るジュンキチ。

「さすがに酷だと、おじちゃんも思ったんだがねい……仲間のピンチにこうするしかなかったのよ」

「ジュンキチ」

リイコがジュンキチに駆け寄り、着ていた上着を羽織らせる。

「うう……」

「こんなことまでしなくても、あたし、帰るよ」

「え!?」

「だからもう変なことしないで」

「おねえちゃん、帰ってくるの!?」

「お、おいおい、リイコ」

「ルノルド、あたしがストワード中央に向かう理由はそこに帰るからだよ」

「……えっ!?」


「社長に会うまでに、この大陸のことを知りたかったの。だから、無理やり帰らされるのは嫌だった!」


「だって社長はあたしのことずーっと閉じ込めて、外の世界を見せてくれなかったんだもん!偶然外に出られたんだから、それくらいしてもいいよね?」


「……ね、ルノルド?」


唖然とする一同。

「あんた……」


「やっぱり、とんでもない女だぜ……」

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