第16話 思い出す
シモンたちの町から南の街を目指すことにした。
そうは言ってもそこには1つ大きな山があり山をこえなければ南の街に着くのは難しい。
自然と減った会話と、アルトとテナの表情。
二人を見て安心したのは、二人の間に黙っていても気まずい雰囲気がなく、ただ歩いていけることだった。
僕は色々考えた。
今頃、
祖母が上手いことなんとかしてくれてればいいけど。
母はきっと曾祖母からの話は聞いていただろうからなんとか説明できるとしても、父にはなんと言ってるのか気にはなる。
この世界は、僕の感情を隔てるものがなかった。
自分のしたいようにしても、アルトとテナは受け入れてくれた。
不思議だけれど、この世界ではありのまま自分でいいのだと感じている。
悪いことは悪いとはっきりと言える。
自分の思うとおりに行動することができる。
誰かの力になれる。
成り行きで来てしまったけど、不思議と馴染んでいた。
「元の世界でも、これぐらい自分にもまわりにも正直になれればいいのにな・・・・。」
思わず声に出してしまった。
昔から、自分の意見をはっきりと言えるタイプではなかった。
人見知りはしないけど、自分から話しかけたりするタイプじゃないし、あまり人と話そうとも思っていなかった。
流行っていた遊びについていくわけでもなくて友達も少なかった。
小学校の頃なんかはサッカーのアニメが大流行していたいてたから周りはみんなサッカー少年で。
僕みたいなインドア派は結構少なかった。
それでも僕は良かったんだ。
ピアノが、音楽がいつもそばにあったから。
・・・・でも、寂しくないわけじゃなかった。
僕も僕の考えが言えれば、誰かは一緒に音楽をしてくれたかもしれない。
とりあえず、いつもにこにこしてた。
いじめられるのは嫌だった。
優しい人のふりしてた。
嫌なことも嫌って正直に言えなかった。
僕は、なんて最低な人間なんだろうな・・・・・・。
そんなことを考えていた時、僕は思い出した。
とあるクラスメイトを。
(春日 夜羽)
癖のある長い髪。
いつもポニーテールにしてる、元気な女の子。
(あの子は僕に話しかけてくれたな)
いつも元気で物事をはっきりと言うタイプだった。
自分の意見はちゃんと言う人だった。
素直な気持ちをちゃんと伝えることができる彼女は、友達も多い。
それに比べて僕は自分の気持ちは人に言えない。
もうすぐ夏休みになるのに、まだ友達と言える友達がいない。
とりあえずにこにこして頷いて。
きっとこれからクラスで何かが起きてもまわりの空気に流されて、それに毎回嫌気がさす。
だからって自分がハブとかにされるのはいやで、いじめとかも見て見ぬふりして。
だから僕はピアノが好きだ。
弾いてる間は誰にも邪魔されない自分の空間があるから。
(僕は、なんて臆病者なんだろうな。)
学校で自分の存在が否定されるのが怖くて。
身を守りたい一心で空気に溶け込んでいくように自分を溶け込ませた。
僕は、自分の右腕に触れた。
(もしも自分の世界でこの
僕は、この世界とおんなじように、自分の気持ちを言えるかな?)
聖跡は何も答えない。
聖跡はただ、僕の腕にしっかりと刻まれていた。
(早く、自分の
もし、知ることができたなら、
もし、操ることができたなら、
僕は自分に誇りが持てる気がした。
(音感以外なんもないもんな、僕は。)
ピアノ弾けることだけが、僕のなんとなくまわりに言える特技だった。
幼い頃、ピアノを馬鹿にされたことがあった。
ピアノは女の子の習い事、なんて思われやすいからだ。
そのうえ女顔なものだから尚更だった。
僕が苛められて泣きべそをかいて家に帰ると曾祖母がいた。
そして、『とっておきの素敵な歌』を歌ってくれた。
それからなにかを描くように、腕に指を這わせた。
それを僕はそれがくすぐったくて笑っていた。
それから”右腕のおまじない“ってそのまま名付けたけど、すっかり忘れていた。歌は覚えていたのに。
・・・・あれ?
(よく思い出してみなくちゃ。)
曾祖母はどうやっておまじないをしてくれた?
腕に指で何かを書いていた気がする。
ぐるぐるってしたあとに、十字をきったような見えないけど、そんな気がする。
僕は慌てて自分の聖跡を見た。
歩いていた足を止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます