第14話 歌詞の秘密
シモンは結界の中で、聖跡をなぞると、何やら言葉を唱えた。
すると、聖跡はたちまち浮き上がり一枚の楽譜へと変化をしたのだった。
「いいですか。僕らが預かっている楽譜は、娘が残した物語のようなものです。」
シモンは楽譜を手にとり、そして僕に見せるのだった。
「歌詞を見てください。コラールにしてはシュール過ぎるんですよ。
ご存知だと思いますけどふつうミサ通常文とは違うような感じがします。
賛美の歌詞でもないし、なんだか未来に起こる予言のような・・・」
そう言って僕らは、シモンの楽譜に目を通した。
来たれ民たみよ、この場所に集つどえ
来たれ民たみよ、天の父に祈りたまえ
国に災い起きる時
異界の扉が開かれる
使徒を集つどえと呼び声を
叫んだその時動き出す
天より降りし十二使徒
集つどえ今こそ立ち上がれ
天より降りし十二使徒
民たみを救うは使徒の旋律うた
来たれ民たみよ、この場所に集つどえ
来たれ民たみよ、我に力を
「僕の持ってる歌詞とは違う。」
「そうなのか、水色」
「うん。最初の二文と最後の二文は多分一緒。」
僕がそう言うとシモンは頷いた。
「そうなんですよ。
コラールは全部で12個。全員歌詞の内容が違う。これに何か意味がありそうな感じがしませんか?それに中をよく読んで。これは水色君に起きた出来事じゃないですか?」
そうだった。
僕に起こったことが記されていたのだった。
どうりでトントン拍子でことが進むはずだ。
娘は、こうなることがわかっていたのだ。
娘は僕に呼び掛けた。
「恐らく、この世界に何が起こるのか記されているんです。
十二使徒全員を集めて歌詞を見れば繋がっていて、最終的にどうなるのかがわかるはずなんです。」
シモンは楽譜を手に持った。
そして、僕の知っている節を歌ったのだ。
それはまさしく“とっておきの素敵な歌”。
するとたちまち楽譜は光を放ち、そしてシモンの聖跡へと戻っていった。
ステファンは結界を解除して、シモンは僕に言った。
「もしかしたら楽譜が何かを悟り、水色君を呼んだ。そして一刻も早く十二使徒を集めてほしいのでしょうね。」
アルトとテナは頷いていた。
僕も考えた。
“国に災いが起きる“とは一体なんなのか。
これは、この世界に来るときにコラールが言っていた楽譜を巡った争いなのか?
「何か当てに成るものがあればいいんですけどね。
流石に僕らに語り継がれている伝承には誰がどんな魔法を使えるのかわかりませんしねえ。」
シモンは眉間にシワを寄せる。
すると、リオはアルトとテナに質問した。
「二人はどんな
「俺は風」
「私は炎です。」
そこにシモンが加わる。
「ステファンは土、僕は水です」
その時に僕は気づいた。
十二使徒の能力は、誰かしらと対になっている?
風が加われば、炎は威力が増す。
“雨降って地固まる“と諺があるように、土と水は
「相性がいいんだね。」
僕は、思わず声に出した。
アルトとテナは頷いた。
「十二使徒は二人で対になってる可能性が高いのかな。
これから出会う人も、二人でセットかもしれないね」
「多いにあり得るな。」
「ですね。これから十二使徒を集める手がかりになるかも。」
シモンはペンを取り出した。
「テナ君、地図はありますか?」
「はい」
テナは、懐から地図を広げてシモンに見せた。
「僕が考える十二使徒の情報を提供します。
それに郵便屋ですからね、近隣の町には詳しいですよ。
人の流れや傾向はわかると思います。」
シモンはペンを滑らせていく。
「先ずはここの真南ですね。
ここは色んな人種の方が住んでます。王女さまの別荘のある大きな街ですから、十二使徒が潜伏するにはいいと思います。」
そして、そこから東をペンをさす。
「この街から東に行くと、サーカスの町です。
大道芸人や旅芸人がよく訪れるので隠れやすい。
あと、僕の知り合いがいますので、宿の話をつけておきましょう。」
そう言って地図に書き記してくれた。
「あとは山をぬけたこの街。貴族が統治しているんですけど娼婦が多い街で音楽や舞台も盛んです。
人の出入りが多いので、探してみる価値はあるかと思いますよ。」
この街を指した時、テナの顔が一瞬歪んだ気がした。
しかし、それは僕しか気づいていないようだった。
テナはこの街に行ったことがあるのだろうか。
シモンは話を進める。
「申し訳ないのですが、僕たちは郵便屋ですから旅の伴はできません。
ですがここの町からはほぼ動きませんし、情報収集をして皆さんに伝えるってかたちで勘弁してもらえませんかね?」
申し訳なさそうにシモンは言った。
僕はそれでもかまわなかった。
大所帯になっても動きづらいだろう。
アルトとテナも頷いた。
シモンはニコリと笑った。
「ありがとうございます。さあ、夜も更けました。今日はここでゆっくりしてってくださいね。」
僕たちはシモンのその言葉に甘えて、ぐっすりと眠った。
まだ全然進んではいないはずに、もう何日も歩いたような疲労感があった。
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