カルト・カルター・カルテット
金借 行(かねかり こう)
Prologue
「ねえ
息がかかりそうな距離で彼女が呟く。
白を基調として金銀の装飾を施された一室。奥には祭壇じみた机があり、その前で彼女は僕を抱きしめていた。彼女の体から熱っぽい体温が伝わり、僕の低い体温が彼女の温度に近づいていく。
「僕は君を救いに来たんだ」
僕が言うとそれに返事をするように
幸常教という名前を冠した新興宗教の本殿。その奥で彼女は信仰という呪いに取り憑かれていた。あの日別れてからどれだけの間、ここで一人で苦しんでいたのだろうか。味方もおらず頼れる大人もいないこの状況で高校生の女の子が一人、必死にこの世の不条理に耐えていたのである。そんな風鈴の心情を思うと、自然と頬を涙が伝った。
あの日風鈴のSOSに気づいていればもっと早く助けられたかもしれない。そうすればここまで苦しむこともなかったのに……考えれば考えるほど悔やまれるばかりだ。
でも僕は成し遂げた。紆余曲折、様々な策を弄して、様々な人間に働きかけて、遂に風鈴を救ったのだ。後悔ばかりせず、もしかしたら僕はもっと自分を誇ってやるべきなのかもしれない。
この日のために極力睡眠を削っていたせいか、それとも風鈴を救う責任感で気づいていなかった疲れがどっと押し寄せてきたのか急激な眠気が僕を襲う。
「風鈴、疲れたろう。 僕も疲れたんだ」
「ふざけないで!」
風鈴の緊張が少しでも解けないかと思い昔見たアニメを真似しておどけてみるが、元が主人公が息を引き取るシーンだったためか怒られてしまった。空気を読めない僕の悪癖は相変わらずらしい。
しかし冗談ではなく耐えがたいほどの眠気である。事は済んだ。少しだけ眠って、後のことは起きてから考えよう。次に目が覚めるのは風鈴の膝の上だったりして。そう考えるとこの眠気に早く打ち負かされたいとすら願ってしまいそうだ。
「ごめん風鈴、僕は少し眠るよ」
別にここにたどり着くまでに怪我をしたわけでもないのに急に意識を失ったら彼女が勘違いしてしまうかもと思ったので一言だけ告げて目を閉じた。するとまたそれに答えるように僕を抱きしめる力が強くなる。そんなに強く抱きしめられたら本当に気を失ってしまうよ、風鈴。
思考がぼやけ眠気が自我を覆っていく。薄れていく意識の中、僕は風鈴と出会ったあの廃屋の事を思い出していた。
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