第6話 事後
「「「……」」」
チマチマとコンビニのおにぎりを食べる。普段なら三人とも半分は食べている頃合いだけど、今は天辺が少し欠けたぐらいか。
伊月にしろ流川にしろ、話したい事は山ほどある。だけど昨晩の事があると、どうしたってよぎるものがあった。
(う……)
二人の首筋に目がいく。昨晩の名残とでもいうように、艶かしい首に汗が滲んでいた。それが目に入るだけで、舌や鼻に記憶された香りが頭をよぎる。
よぎれば当然身体は素直だ。やばいと思った俺が身体の向きを変えて誤魔化せたつもりだった。
「「……」」
「……あー。そのぉ〜……」
「「……」」
「……すんません……」
我ながら何とも情けない声である。肩から力が抜けた男の哀れな姿は、場の空気を壊すには十分だった。
「……フフフ……」
「……アハハ……」
「……へへへ……」
「「「ハハハ……」」」
三人で肩を震わせる。張り詰めていたような硬い雰囲気は何処かへ消え去り、前日までの緩やかな空気が流れた。
「本当にいいの?」
「え?」
「この関係」
「うん……」
パジャマ姿のまま、伊月は髪をかきあげる。
「俺はさ。何というか、ありがたいというか」
「好きだもんねぇ」
「し、知ったような口を」
「ふーん。読んでいたのに?」
何を言っているんだ。俺は脳裏を掠めた恐ろしい想像を、二人のにやつきで確信した。
「ごめんね、見ちゃって」
「でも三嶋も悪いよ。枕元に置いてちゃね」
「……ああ」
心当たりは、ありまくりだ。二人が部屋に来るようになってから、その手の作品はリアリティが増していた。気をつけてはいたつもりだったのだが、特に泊まった翌日とかは、自分自身呆れるほど夢中になっていたものだ。
「だからって訳じゃないけど」
「伊月」
「多分ね。多分三人同じ考えだと思うの」
流川は俯きながらも、上目遣いで俺達に瞳を向けた。俺は正直、二人が同じ考えかもしれない事に、驚きと安堵を覚える。
「……俺、は。この空間が良い」
「……うん」
「そう、だね」
「その、本当はさ」
「気にしないで。いいの」
「気にしないでって言われてもな」
「言ってくれてありがとう」
怖かった、と呟いた伊月は頭を下げた。
「流川も、同じなのか」
「……うん」
「いいの?」
「……二人と変になるの、嫌だもの」
多分選ぼうと思えば、選べる。そして二人とも、選ばれなくても応援はするだろう。その方が健全なのは分かっていた。
それでも、やはり三人の空間じゃなきゃ嫌なのだ。片方が欠けては、満たされないと変に確信している。
「変だけど、バレなきゃいいよね」
「法律には、触れないとは思う……」
「フフ、まだ緊張しちゃう」
「そりゃね……」
はっきりいや、昨夜は盛り上がった。異常なシチュエーションに三人とも前後不覚になって、興奮というよりも狂乱とも言える。
「だ、大丈夫だよな?」
「多分」
「多分って、ええ」
「私達も初めてだし、分からないよ」
「知ってる事はしたから、多分」
「初めて?」
「うん。そうだよ」
「いや、ああん……?」
「だからその、うん。色々怖かったの」
「でも、私達三嶋君ならってなって」
「そのね。本当は部屋に行った時点で……」
「ええ、その気だったの?」
「うーん、どうかな」
「こっちはその気は無いとばかり」
「なんていうかな、分からないからもう行っちゃおうみたいな感じ」
「二人だからさ、調子乗っちゃった。帰ってからやばいと思った」
話は止まらない。
だが俺達はもっと喋りたかった。
「あの時手出したら」
「あー、それはちょっと……」
「あぶねぇ」
「反応に困るね」
「あ、ごめん」
「うんうん」
「でもいいの?」
「何回聞くの?」
「不安なの」
「何回も聞くと、私達だけでやるよ」
「ば……?!?!」
破壊力がある。顔を離した二人は慌てふためく俺をケラケラと笑いながら、そっと手を添えてきた。
二人の指を絡め取ると、ちゃんと返答がある。
美人JDの虐めを見つけた俺氏、趣味のドローンで告発したらハーレムルートに突入する。 永野邦男 @kirarohan
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