魔導十傑

魔導十傑

 悪魔族、ゼオラオスの宣戦布告。

 五大魔王ペンタグラムと名乗る新たな五体もの魔王の存在。

 そして、人間を悪魔へと変える薬の存在。


 再び現れた魔王という存在に備えるべく、東西南北の四つの大陸に散らばる魔法を極めしトップテン――魔導まどう十傑じゅっけつの面々がコールズ・マナに召集された。

 コールズ・マナ強襲事件から、三日後の話である。


 場所はコールズ・マナ大会議室。

 コールズ・マナの理事長にして世界五位の魔法使い、アンドロメダ・ユート・ピーが待ち構えていた。


 生徒達は全員寮内へ追いやられ、魔導十傑の姿を直接見る事は禁じられている。

 だが全てを禁じると逆にいけない行動に出る生徒がいるため、寮内の至る所に映像を映す魔水晶を設置。生徒達は映像での静観を余儀なくされた。


 だがイルミナ・ノイシュテッターとウェンリィ・アダマス、そしてウィカナ・フライングダッチの三人はコルトの工房にいた。

 ウィカナがいるのは、彼女に変身出来る薬が出回っているための対策だ。イルミナとウェンリィは護衛兼証人。工房以外の何処かにウィカナが出れば、それは間違いなく偽物であるという事になる訳だ。


 だから喚起もしたくても出来ない訳で――


「イルミナ……煙たい」

「会議の間だけよ、我慢して」

「イルミナが我慢して」

「あんた、ニコチン切れたあたしを相手に勝てると思う?」

「平静さを欠いてたら勝てる」

「言うじゃない」

「止めて下さい、二人共。私の前で、争うつもりですか」


 護衛より守られる本人の方が強い件。

 このまま戦いになれば間に入ったウィカナに両成敗は必至。

 ならばどうするか――二人は思考を巡らせる。


「……トランプで勝負する?」

「七並べなら負けません」


 最初に来たのはもちろん、学内に在中するコルト・ノーワード。


 世界魔法使い序列第二位の実力は未だ健在。無詠唱のままでも自身の魔法を三つ取り戻し、現在も研究して取り戻しつつある彼の実力は、学生らには未知数だ。


「コルト!」

「コルト、久し振りです……」

(来てくれたんだ)

「当然! コルトがいるもんねぇ」

「うん、うん……」


 世界魔法使い序列第六位、ベアトリス・エティア、ベアトリーチェ・エティア姉妹。


 二人で一人分。一人では半人前などと思ってはいけない。一人だけでも、そこらの魔法使い程度ならば瞬殺出来る。

 魔王の片腕を斬り落とした姉。

 魔王の魔法と対抗した妹。

 一人で強者。二人で最強。それがエティア姉妹である。


「おい、そこのイチャイチャバカップル。さっさと進め。こんな残暑の苦しい日に腕組み合って、暑苦しい」

「いや。全身甲冑の魔導騎士様に言われたくないんだけど」

「それ、熱くないんですか……?」

「心頭滅却すれば火もまた涼し、だ」


 世界魔法使い序列第四位、魔導騎士グラディス・クラウディウス。


 世界で唯一魔導騎士の称号を与えられ、名乗る事を許された剣聖。

 魔法使いというカテゴリーから取り払っても、最強に位置する剣士だ。


 彼の登場には、ウェンリィ含めた剣士が高揚を御し切れなかった。

 彼に剣で挑み、打ち破るのが夢である剣士の数は、それこそ星の数ほどいるのだから。


「ほら、さっさと行くぞ。また、暑苦しいのが来た」


 四人を覆う程の巨大な影。

 翼の先から先までの長さは優に十メートルを超え、鼻先から尾の先までは二〇メートルに届きそうな巨体は無数の鱗に覆われており、ただの砲撃ではビクともしない。

 空を飛空し、水中さえ泳ぐその巨体にて五〇〇年生きるその生物は、地上最強の生物と言われても過言ではない。


 そんな巨龍の背に乗るのもまた、人間の規格では充分な大男。

 両手を枕に脚を広げて寝ていた彼を起こすため、龍はわざと急降下。荒い着地で大地を揺らす。


「あぁあ、着いたのか……起こし方が雑なんだよおっさん。もっとスマートに起こしてくれ」


 世界魔法使い序列第七位、シシド・レオニーダ。


 曰く、使。世界でも珍しい、魔法が使えない魔法使い。

 それでも馬鹿のように強い謎を知るのは、世界でもごく少数だ。


 そんなシシドを下ろした巨龍は鼻息を噴くと人の姿へと変じた。

 そうしてようやく、二人は同じ背丈になる。人化した巨龍と並んで同じ身長だと言うのが、シシドの大きさを際立たせて見せた。


「儂が送らねばこの会議に間に合いもしなかった小僧が、よく言う」


 世界魔法使い序列第八位、グレンマルス・ドラグナーガ。


 世界最強の龍人族の長。世界最長の時間を生き、他の種族と共に生きる事を決めた者。生まれ持った強さに合わせ、魔法使いとしての強さを併せ持つ者。

 最年長のエルフ族、アンドロメダに次ぐ年長者だ。


「俺達が最後か? さっきまでガキ共の魔力を感じられたが」

「――」


 二人の背後に、不意に立つ影。

 二人が振り返ればもうそこにはおらず、彼は二人の前を歩いていた。


「脅かすなよ、バラガン! っつーか、会話まで高速詠唱かてめぇ! ほとんど聞き取れなかったじゃねぇか!」

「――」

「だから、速過ぎて聞き取れねぇって!」


 世界魔法使い序列第十位、バラガン。


 通称、不動のバラガン。

 過去何人もの魔法使いが座して来た、魔導十傑十位の座。しかし彼がその座に就いてから数十年。誰にもその席を明け渡さない事からそう呼ばれるようになった。


 世界最速の高速詠唱を得意分野とし、彼の詠唱と会話内容を聞き取れるのは、世界魔法使い序列第九位以上の魔法使い――つまりは魔導十傑の面々のみ。

 彼の言葉を聞き取れる者だけが、魔導十傑になれるとさえ言われている。


 だからシシドは繰り返し訴えていたが、実際には聞き取れていた。


「相変わらず、舌が良く回る男よ。まぁいい。疾く、アンドロメダの下へ行こう。また魔王が現れたなどと、戯言を宣う奴らについて話が聞きたい」

「まったく……まだ五年だぞ? 五年で魔王って復活するのか? しかも五体もいるって話じゃあねぇの。あぁあ、面倒だ」

「――」

「もうおめぇは喋るな、バラガン!」


 既にいるアンドロメダとコルトは除くとして、続々とやって来る魔導十傑の面々。

 魔水晶越しでもその圧倒的魔力と存在感が伝わって来て、緊張を隠し切れない。

 シシドが魔水晶の映像に気付いて手を振って来た際には、皆が一歩退いたくらいだ。


 そして三人がやって来てから数分後、今度は四人もの少女達が揃って門を潜って来た。

 ここまでで七組。だからあと三人のはずだが、六位の姉妹のような特殊な事例か――それは正しいようで正しくない。


 彼女らは全員ホムンクルス。

 人によって作られた人造人間。対悪魔族に特化した、意志ある戦闘兵器。

 彼女らを創った創造主こそが、世界魔法使い序列第九位、スターライト・リリスである。


 四人は創造主の手足であり、目であり、耳であり、口。本人の姿を見た者は誰もおらず、年齢や種族等の個人情報も知られていない。

 一時期は四人の中の誰かが、リリス本人なのではないかとさえ噂されていた。


「ここがコールズ・マナ……綺麗な場所ね。主の研究室とは大違い」


 通称、暴風のデルタ。

 四人の中で一番背が高く、筋肉質な体付きをしている。


「グラディスは何処? まだ来てないの?」


 通称、紫電のガンマ。

 四人で唯一帯刀しており、四本もの刀を差している。


……どうでもいい


 通称、氷のベータ。

 四人の中では最も小柄。そして、声も極めて小さい。


「皆、気を引き締めて。相手は魔王なのよ。主のためにも、私達が恥を掻く訳にはいかないわ」


 通称、煌炎のアルファ。

 四人のリーダー格でモデル体型の美女。黄金色の髪からは、ずっと火の粉が散っている。


 以上の四人を作ったのがスターライト・リリス。

 彼女達の創造主にして、他にも名も無き魔導人形を戦争に投入し、魔王との戦いに尽力した魔法使いである。


 ただのホムンクルスとは思えない魔力の量、そして質。

 ホムンクルスだと侮っていたイルミナでさえ、七並べの手が止まるほどの驚愕を御し切れない。


 それからまた数分して、全校生徒が期待していた二人が、同時に来た。


 世界魔法使い序列第三位にして、最強の女魔法使い。魔女、ゼノビア・ホロウハウル。

 此の世で唯一魔女の二つ名を人間の身で語る事を許された女。

 魔王の心臓を三度潰し、魔王の幹部を一人で相手にするほどの戦闘狂。

 女性としての美しさも兼ね備える彼女だが、先程通ったアルファにも負けず劣らぬ抜群のスタイルと造形美を以てしても、彼女の血生臭い逸話の数々が、生徒達を戦慄させる。


 そして、遂に来た。

 世界魔法使い序列第一位。


 世界最強の女がゼノビアなら、彼は世界最強の男。

 エフィルトール・ダブルグラス。


 魔王ゾディアクに止めを刺したのはコルトだが、魔王ゾディアクと互角に渡り合えたとなると彼になる。彼以外に、魔王を単騎で何時間も相手出来た魔法使いはいない。

 彼を超える者がいるとすればゼノビアか、今後成長するコルトしかいないだろうと言われていた時期もあったが、コルトが声を失った今、最強の魔法使いとして君臨している。


「奇遇だな。息災だったか、ダブルグラス」

「おまえは訊くまでもなさそうだな、ホロウハウル」

「まぁな。魔王を騙る馬鹿が出て来るとは思いもしなかった。思わぬ退屈しのぎの相手が出来たわ。おまえもそうだろう?」

「馬鹿な事を……私は、戦いなんてもうヤだよ……何処へ行っても戦争、戦争。私は何のために魔法使いの頂点になったのか……まったく……」


 戦闘狂と平和主義者。

 噛み合う様で噛み合わない最強の二人が到着した事で、ここに、魔導十傑が集結した。

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