第28話 お気に入り

 武器から電気の流れる音がする。武器の周りに稲妻を纏い武器変形の速度、攻撃力総じて破壊力が上がっている。


「俺はお前と戦った後に特訓を詰んだんだよ。この魔力をどうするか考えた。そして手に入れたんだ。この魔道具を」


 全てが黄金の装備の中に一つ違うものがあると思ったが、アレがこの雷を操っているのか。装備の真ん中にあるいかにも稲妻を操ってそうな稲妻と同色のネックレス。だがあれぐらい簡単に破壊できそうだ。


「あのネックレスを狙え。アイツの雷の動力源だ」


 アセナ、セレーナ、ララノアが目的を絞りネックレスの破壊目当てで動く。狙いが定まればコチラの物だ。だが、相手も勇者そう簡単には行かない。攻撃は避けられ、捕まえてもすぐ逃げる。只々黄金の都市を壊しているだけである。埒が明かない。


「コイツ強くなってやがるです!」


 アセナを前線にしセレーナが援護しララノアが裏を取るような出来上がったフォーメーションでじわじわと削っていく。あまりダメージは無さそうだが体力は削っているだろう。時期に終わる。


 瞬時に変わる武器はアセナの素早い攻撃を捌くけるように短剣となり、氷を打ち壊せるよう大剣や斧に変わりセレーナの攻撃をもろともしない鎧へと次々に形を変えていく。


「相手は防戦一方ですわ! このまま三人で攻撃し続ければ勝てますわ」


 この三人でも十分に勝てる。勇者といえ武器が何でも使えるだけ。強欲のように急に新しい事が出来るようになったりはしない。この戦況も変わらないだろう。出るまでも無く終わる。


「黄金弾!」


 雷を纏い放たれた弾はアセナを目掛けて一直線に飛ぶ。セレーナがそれを《死霊の呪》で防ぐも電気が伝っていく。位置と形を把握された。さらに動きも遅くなっている。避けやすいものとなったがアセナと飛んでくる氷を対処することを視野に入れれば然程手痛いものではない。


 現に猛攻により黄金は剥がされ明らかに体積が減っている。魔力を使い雷を発生させ鎧も強化しているのだろう。魔力が黄金ごと分散している。装甲を剥がされるのが大きい。


「このまま削りましょう!」


 また一つ、また一つと黄金が欠けていく。音が響くたびに小さくなる武器はついに短剣ほどの大きさまでになってしまった。鎧も剥がれ落ち元のただの金属の鎧へとなっている。絶好の機会となりアセナの猛攻がさらに加速する。懐に飛び込んでの接近戦短剣で何とか捌いている。アセナが近接戦に入り氷を決め打ちできなくなったララノアも氷のグローブに変え挑む。間を縫うように、アセナだけに集中が行かないように華麗な立ち回りを見せる。吹っ飛ばされるのを阻止しながら数歩離れたところにセレーナがいる。完璧な立ち回りだ。


 苦い顔をしながらも受け流し続ける。流石に勇者、流石の能力だ。単騎でなければもっと結果は違っていたかもしれない。


「――棘乱……」


 一瞬の魔力の増幅このまま倒れるだろうと思い油断していた。同様に常に一歩引いたところから見ていたセレーナも同じだ。完全に反応が遅れた。セレーナが口を開けた瞬間、地面に電撃が走る。痺れ回避が出来なくなった三人を散らばった黄金が形を変え無数の棘となり突き刺す。セレーナのいる範囲までの攻撃のためか耐久力は低いが手足に刺さる。さらに痺れている所に追撃。鉈のような形となった黄金を振り上げる。咆哮を上げながら体に刺さる棘を力ずくでへし折りギリギリのところを歯で受け止める。途端に氷が生成され諸共に吹き飛ばす。


「グゥゥゥウウ……!!」


「……ストップアセナ。そんな雑な魔力じゃまた自分の力に振り回されるぞ?」

 アセナを宥めながら前に出る。流石に何もしないで見ているだけにも行かなくなった。流石は勇者流石に終わるようなことは無かった。鞘から剣を抜き出しゆっくりと刃先を勇者に向ける。


「やっと戦う気になったか! 今度こそ勝つ! いざ尋常に勝負!!」


 散らばった黄金は元通りになっている。奴は散らばった黄金も操れる。そこを気を付けておけばいい。三人とも致命傷ではなさそうだ。だが安静にしていて欲しいとりあえずセレーナとララノアに目配せをし待機しているように指示を出す。


「はぁ……タイマンと行こうか」


《復讐者》の能力は三人の仇を込めてさらに能力が上昇する。前の恨みもあるため十分戦えるレベルに達した。見ていて分かったが負ける要素は無さそうだ。ピンチになっても《死に物狂い》《起死回生》がある。


 大きく踏み込み一気に距離を詰める。思った通りのバフ量だ。想像以上に速い。しかしその速度にも勇者は付いてくる。流石に戦いなれている。魔力を乗せた一撃を受け止めるでなく受け流し、鎧の形を変え不意の攻撃を仕掛けてくる。タイマンでは不利だ。この事を見越して単騎で来たのだろうか。魔力量、能力の使い勝手、今まで動いていなかった分の体力。全てのアドバンテージを容赦なく無くす。


「勝てるデス!!」


 自分の血を振るい飛ばしながらアセナが声援を発す。傍から見ればこちらが優勢に見えるかもしれないがその逆だ。完全に攻撃のレパートリーで負けている。何とか力で強引に弾いているだけである。太刀が大鎌に変形し盾から銃弾が飛んでくる。振りかぶり上段かと思えば横から変に伸びてきた黄金に殴られる。魔力を十分に溜める時間さえ無い。


「まずいですわ……」


 掠り薄く出る血は増えていくばかり。猛攻は止まらない。タイマンで片をつけると豪語したこともあり三人とも不用意に手を出すことが出来ない。多少の犠牲は否めない。上段への対応に集中する。脚への傷は許容する。意図に気づき乗って来たのか、上段ばかり狙ってくる。捌ききれない下攻撃をもろに食らう。


 ――次に深い攻撃が来たら、


 変則的な攻撃を受けつつ総ダメージが蓄積されていく。頭に声が響き痛みが消え体が軽くなる感覚を受け攻撃に転ずる。突然の変速により相手は乗ることを止めるそして狙い通りに太腿に突き刺ささる。


 魔力の瞬間解放。辺りが暗くなるように先の戦いで強欲から譲渡された魔力が辺りを覆う。その魔力を集め剣へ流す。先端に、より鋭く、尖り、高密度に。赤子であろうと感じ取れるこの魔力。より剣に魔力を固めそしていつもとは違い鋭く。尖ったものへ。


 まるで糸のように細い魔力が剣の先端から一直線に伸びる。目の前にいる勇者の額へと標準を合わせる。この至近距離当たれば即死。大きく飛び退く。退き際に切り裂かれた脚の痛みをもろともせずに狙い続ける。


 体勢を崩させ回避する作戦の失敗。この魔力からの焦りか、大きく飛んでの後退によるがら空きになっている体。勇者も理解し完全防御の姿勢に入る。一直線上の攻撃ならばその一直線を守れば良い。そこに黄金を集中させ分厚い壁を作る。隠れた急所をそのまま狙い続け、


「――ディビィニティ・カルネージ・パチッシュ」


 標準となっていたレーザーを元に細かく無数の爆発が黄金の壁を無理矢理に突き破り、装甲を剥がす。そこに加わる第二の刃。爆発の後を追うように本命の攻撃が刺さる。


 極限まで濃縮させた魔力の解放。一直線上に効果範囲を狭め技の威力を極限まで高め、線上を剥ぎ取る。黄金の鎧諸共いとも簡単に削り取り、黄金が空中を舞う。その飛び散る中に真っ赤な血が引き立ち、高く吹っ飛びながら血を撒き散らし嫌な音を立てて落ちる。


「……もう降参したらどうだ?」


「――僕は勇者だぞ? この借りも返してやらないといけないしな……!!」


 大量に流れる血が地面に跳ね飛び散る。ボタボタと止まることを知らない。フラフラとしながらも片手剣に変え戦う意思を見せる。


「……お前の左腕もきっちり切り落としてやるよ。魔女の使徒!」


「――!? アセナもう良い! アイツは戦えない!」


 魔力を手に纏いしっかりと殺せる威力の攻撃。片腕では防ぎきれないだろう。しかしその攻撃は弾かれた。分厚い黄金の壁によって。


「私のお気に入りと国を壊すつもりか強欲の使徒? アセナたんには手を出さないが、お前は違うからな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る