二杯目

二日目の月が、空にぽっかりと浮かぶ。

珠のように光るその美しさとは裏腹に、俺の仄暗い地獄は続いていた。

梵は、今日も今日とて俺を無視し続けていた。

その静かな拒絶が俺の心をじわじわと蝕んでいく。

昨夜のあの甘美なキスさえも、まるで夢だったかのようだ。


しかし、昨夜の梵の唇の感覚は、未だ鮮明に思い出せる。熱くて柔らかい互いの唇が、沈みあってひとつになる様な感覚。

朝からあの昂りを思い起こす度に、俺の理性の壁は崩れ落ちそうになった。


────今夜は、来てくれるのだろうか。


いや、あまり期待はするな。梵はさほど積極的なわけでは無い方だ。そう毎晩、仕置にくる筈がない。


……しかし。

しかし、もし来たならば、今夜は一体どんな仕置を……。


そう、淡い期待と僅かな恐怖に呼吸を乱したその時だった。


…するり。


再び俺の背後にあの感覚が滑り込んでくる。


「…そ、…梵…!」


声が、震える。

梵は、昨日と同じように返事をしないまま、ただ俺の背中にその身体をぴたりとくっつけてくる。

その、柔らかな肌の感触。落ち着いた線香の香り。

それだけでまた、俺の身体は正直に反応してしまう。


そして、梵が新たな拷問を始めた。梵の熱い吐息が、俺の耳や首筋を、何度も、何度も、掠めていく。

そのあまりにも直接的で、焦ったい刺激。


「…はぁ…っ、…ぁ…っ、…そよぎ…、…やめ…、…っ…!///」


理性のたがが、外れそうになる。

────我慢、できない。

もう、耐えられるわけがない。


俺は意を決して梵と向き合うように寝返りをうった。

揺らめく炎のように美しく潤んだ瞳が、目の前にある。その、薄く開かれた唇に口付けがしたい。昨夜のように。

しかし、俺からは手を出せない。無論、口付けなどしようものなら、ひっぱたかれるのは目に見えている。


「…おい」


梵が、冷たく俺を威圧する。


「…約束を忘れてはいるまいな。」


「…ふ、触れては、いないだろう…!」


俺は必死で反論した。


「…向き合っただけだ。それくらいは、許せ。」


俺の生意気な態度が気に食わなかったのか、梵は眉間の皺を更に深く刻んだ。


「…そうか。…ならばそのまま、絶対に触れるな。」


その言葉が放たれるのと同時に、俺の下腹部へ強い快感が走る。


「ぉ"ッ……ぁ"……ッッッ!?///」


────太腿だ。

梵が、その滑らかで熱い太腿に、俺の昂りきったそれを、ぎゅっと力強く挟み込んできた。


「……ッ!そ、梵ッ……♡///…熱ッ…♡///ハァッ……♡♡」


信じられないほどの、ぬるりとした快感。

昨夜の記憶が一瞬で蘇り、脳が今にも焼き切れそうになる。

梵は小さく喘ぐ俺を焦らすように、太腿でゆっくりと擦り上げ始めた。


「…ん"ッ♡♡お"ッ……♡ぁ"ッ♡ぁぁ"ッ…♡♡///きッ…きもち、よすぎる…っ♡♡///」


今日一日、期待の火を燻らせていた俺には、そんな緩やかな刺激でも強すぎるように感じられた。それを見た梵は、より一層太腿に圧をかけてくる。


「…そ、梵、だめだッ♡♡///…は、あぁ"ッ♡♡♡♡////」


昨夜のこともあり、俺の身体はもう限界だった。熱く、滑らかな梵の太腿にきつく包み込まれ、ゆっくりと、しかし、確かな快感を擦り込まれる。


触れたい。後先考えず、今すぐにでもこの太腿の奥、その最深部へと入り込んで、梵と一つになりたい。そんな想像をしただけで、すぐにでも果ててしまいそうだ。


「ぐっ……♡///ぁ"ッ♡ハァッ♡///そ、梵っ……♡///中に、入れたい"ッ……♡♡///中で出したッぃ"ッ……♡♡♡///ぁ"ッ♡あ"ぁ"ッ♡♡///梵ッ♡イクッ♡イ"クぅ"ッ……!♡♡♡///」


しかし、梵はそれを許さない。


「…そこまで。」


「ッッ…!?///な"ッッﮩ٨ﮩ෴ﮩ_______♡♡♡///」


精を放つ寸前の俺から、梵はふいとその脚を離した。そして冷たく言い放つ。


「…言っただろう、これは仕置だ。そう簡単にいい思いができると思うな。」


絶望。

その二文字が、俺の心を支配した。

嗚呼、なんということだ。

なんと残酷で甘美な拷問なのだ。


梵は震える俺を尻目に部屋から出ていき、ぴしゃりと襖を閉じた。


「……そ、梵ぃ"……。」


俺はその夜、行き場のない熱を抱えたまま、

梵が残していった肌の温もりと暗い絶望の中で、再び孤独にその身を焦がすしかなかった。


──────あと、五日。


俺の理性は、身体は、果たしてもつのだろうか。二日目にして既にもう、心は揺らぎつつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る