第5話

 空気が変わるそんな瞬間を肌で感じ取った僕は、かのニュータイプの様にピキーンと電流を走らせたり、種割れ状態で頭の中で、種が割れて集中状態になり、明鏡止水で黄金に光ったりして、この場から逃げようとする!!


 が、ココロは逃げられない。


 逃げられないかぁ~、じゃあしょうが無いか……ふぅ~とため息一つ、肩をすくめて


「駄目だぁ、こんな所にいたら〜!!」ヘイスト、ピオリム、バイキルトー!!

 必死になって逃げようとするけど……。


 やっぱり、ココロは逃げられない。


 うわぁ~、やっぱり駄目かぁ~!!入口&出口が一箇所で数人の女の子がカバディー状態。


 逃げられる訳が無い。


「先生、トイレに行きたいです!!」


「大きい方?小さい方?」えっ?


「いや小さい方かな?」


「はい、ペットボトルで作った尿瓶〜!!」


 例のネコ型ロボットのダミ声で取り出されたのは、単なるペットボトルの頭の方を切り取った円柱系の入れ物。


「こんなので、出来るかぁ~!!」思わず、絶叫するけど、「大丈夫介護課の子もいるから、アフターケア」


「嫌ですよ!!皆の前で何か出来ませんから!!」


「ハイ、そんな貴方のプライベートを守る、着替え用、簡易脱衣室〜!!」フープの周りを囲む様にカーテンで囲み、誰かが持っていれば完成……。


 いーやーだー!!


「嫌ですよ!!何でこんな事するんですか!?」


「だって、そうしなきゃココロ君逃げるじゃない」


「にっ逃げませんよ~」


「絶対?」


「ぜっ?絶対?」何となく目を逸らししながら答える。

「知ってる?目は嘘をつけないの……」林田さんが僕の両頬を包み、ニコニコ笑いながら、


「逃げる?」


「逃げませんよ!!」


「逃げる?」


「……逃げませんよ」


「出来れば逃げたいよね?」


「まぁ、それは……あっ!?」思わず出た優しい言葉にポロリと言葉が漏れてしまった!!


「ハイ、駄目〜!!」ニヤリと笑った林田さんに、


「いや、今のは!!違くて!!つい出たと言うか!!」


「駄目よん、ココロ君逃さないから」美人が舌舐めずりする所、見た事ある?無いでしょ?


 スゲェ、怖いから!!


「さっきさ、殆どの子が処女って言ったじゃない?」


「まぁ確かに言ってましたね!!」少しやけくそ気味に言うと、


「皆、キスもまだなのさ」


「はぁ、そうなんですか?……えっ?」嫌な予感はよく当たる。宝くじは当たらないのに。


「美玉〜!!」林田さんが呼ぶとオズオズと現れた水玉。


 真っ赤な顔は酔っているせいか、別の意味があるのか?


「お前、逃げやがって!!どうするんだよ、この状況!!」思わず攻めるけと……。


「ゴメン……」申し訳無さそうな顔をするから、何も言えなくて……。


「ココロは、キスってした事ある?」恥ずかしそうにもじもじしながら言うけど、周りの状況とセリフが全然合って無いからな!!


「何だよ急に……そりゃ」冗談めかして、茶化して言おうとしてやめた。


 酔っ払っていたけど、水玉の顔が真剣で真面目だったから、


「……あるよ。高校の時、付き合ってた人と。それと、遠距離恋愛していた元カノとも」


「そっか、ココロはモテるんだね……」

 少し寂しそうに言う彼女に、

「モテる……か。どうなんだろ?あの頃は恋愛事よりも皆と遊んだりする方が楽しくてさ、だから本当に大切にしなきゃいけない事を忘れてた気がする」グラスの中の氷がカラカラと音をたてる。酒の勢いで色々言う人もいるけど、僕はそれが嫌いだった。


 本当に大切な事は、頭がスッキリした時に言いたい。



「でも、その人とじゃないと見れない景色あって、その人とじゃないと楽しめない事があってさ……」


 酔った水玉は、少し眠そうで、でも僕の言葉の一つ一つを忘れない様に一生懸命覚えようとしている。


「モチロン水玉の事もそうだ。僕はお前と馬鹿騒ぎしたり、色んな所に行ったり二人で飲めない酒飲んでグダグダになるのだって楽しいよ」


 そうだ、気がつけばいつも隣にコイツがいて、大騒ぎして一緒に勉強して一緒に飯を食べて、知らない内に存在が大きくなっていた。


「ズルいよココロは、モテるの分かるもん」


「何だよ、相当酔ってるな」少し茶化して言うと。


「ねぇ!!」急に真面目な顔をして僕を見る。


「私、ココロが好きだ!!」本当に酔って

 来てるな。


「……悪い部長さん、水玉が限界だ!!連れて帰るよ!!」


 そう言って、水玉を担ぎだそうとすると、


「ちょっと待て、楠木ココロ」可愛らしいけど、少しドスの効いた声で、


「なっ、何でしょう!?」


「女が、酒の力を使って、必死になって告白したのに反応無しか!?」


「酒の力で告白なんてノーカンでしょ?駄目でしょ、そんなの」真顔で小豆田部長を見ながら返答すると、水玉はこの世の終わりの様な真っ青な顔をして、今にも泣きそうだ。


「楠木ココロ!!」小豆田部長が僕の胸ぐらを掴み


「お前には、分からないのか!!必死に言えない自分の気持ちを、酒の力を使ってでも伝えようとする、美玉の気持ちが!!どうしても言えなくて、絶対に逃げられない状況を作ってもらって必死に告白しようとするコイツの気持ちが!!」


 あのな……。


 そんなもの、とっくに分かってるんだよ……。


 深くため息を付くと僕は話しだした。


「ちょっとした昔話なんですけど、聞いてくくれますか?」








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