とある男を想っている彼女の話
『本日1300時、かねてより収監されていた囚人の要望により実に350年振りの深宇宙探査ロケットが打ち上げられました。
探査員となった人物は予算横領、同僚に対する不認定性交渉及び不認定次世代児作成、権限の付与されていないデータベースへのアクセス及びデータの閲覧、情報の偽造、上層部批判、反体制派への協力と数々の罪を犯したため死刑囚となりました。
探査ロケットはこれより1年をかけ推進剤が無くなるまで宇宙を加速しながら飛んで行き、1年後から探査データを送信してくれます。
それからロケットが損傷して失われるまで貴重なデータを我々に提供してくれるのです。
探査員は推進剤の無くなる1ヶ月前に目覚め、ロケットのデータ送信作業を終えた後はその罪の重さを最後の瞬間まで後悔と反省をしてその人生を終える事になります。
この死刑囚を利用した制度は長らく行われておりませんでしたが、偉大なる統治機構の幹部により…
』
ブツッ
私は彼に関する情報を垂れ流している音声をシャットダウンした……何も思い出せなくなっていた…
いや、それは正確ではない…彼と過ごした思い出の記憶ははしっかりと情報端末に移してあるし、何だったら今迄の彼に関する全ては取ってある。
しかし、それらを確認しても彼という人物がいた記録という認識でしか見れなくなっていた…
浅ましい…彼に散々アプローチしておいて受け流された腹いせに酷い言葉を投げかけてしまった…彼は苦笑しながら飄々としていたけれど、友人の彼にはひどく怒られてしまった…
ふてくされずにさっさと謝って正面から告白していれば何か変わっていただろうか…?
彼が宇宙へと向かわされてから長い時間がたった気もするしまだ少ししかたっていない気もする……時間を確認するのも怖い…彼がいないということを確かめるのも怖い……
このままでいるならいっその事……
「随分酷い有り様だね。」
そんな言葉をかけられて部屋の明かりがつけられた、部屋の入口を見ると件の友人が立っていた。
「なによ…彼に死刑宣告したお優しい法務官様じゃないの…今度は私に死刑宣告?いいわよ、彼の所にいけるなら…」
「馬鹿なことを言ってるんじゃない……彼に頼まれた事を遂行しに来たんだ。」
「ふ〜ん…私に彼から何か伝言でもあったの?」
「ああ、似たようなものだが…」
「!!聞かせて!彼はなんて言ってたの?!」
彼から私にたった一言でもいい!なにか残してくれたのなら私は…!
「君も知っての通り、死刑囚は通告に来た法務官に最後の願いを伝えられる、その際に彼から3つ頼まれたんだ、一つは処刑方法を深宇宙探査へ変更する事、もう一つはその際にデータをインプットする事だった…」
「…それで、最後の一つは…?」
「君の事を頼まれたよ……君を幸せにして欲しいと……」
そう言うと彼は電子証明書を取り出した、それには次世代児作成許可申請とはっきりと記されていた。
それって……!そんな事って…!
「そう…彼に頼まれたから仕方なく…「そんな訳無いだろう!私は…!昔から君を見ていた…!君を想っていた…!だが…君が見ていたのは彼だった…私はそれでも良かった、君が幸せになれるならと……」そんな…でもそうなら私は…!」
そう私は罪深い事をずっとこの友人にし続けていたのだ……想っている相手は違う相手を想っていた、そしてそれに気付くことなく…
「ふっ…ふふふ………こんな中途半端な私と一緒になったら苦労するわよ?」
「そんな事は分かりすぎるほど知っているさ、今まで散々やらかしてきたじゃないか。」
失礼しちゃうわね!……でも、こんな距離がちょうど良いのかもしれない…
「いいわ、貴方と一緒になりましょう…だけど、条件があるの、それを了承してくれたら最後の時まで貴方と一緒にいてあげる。」
「条件か…何をすればいいんだい?」
眼の前の彼は嬉しさと悲しみや後ろめたさ等色々なものが混ざったような表情で私を見つめてきていた。
条件を伝えた後これがどんな表情に変わるのかしら…?
「どんなに時間がかかってもいい!私も何でも協力するわ!だから……彼を追いやったあの!憎いあの男を抹殺して!彼が死刑になってアイツがのうのうと活動してるのが悔しいの!我慢出来ないの!アイツには冷たい海底か灼熱の溶鉱炉がお似合いよ!絶対に!バラバラに分解して捨ててやるわ!」
「………良かったよ、君も同じ考えで。」
「…そう、やっぱり貴方も…」
「ああ、こんな私を最後まで親友と呼んでくれた彼に報いる為にも…!ヤツは存在してはいけないんだ!私も君に誓おう!ヤツに必ず報いを受けさせると!その罪にあった罰を受けさせると!」
ああ…良かった、こんなにも同じ考えを持ってくれていたなんて…!
1人よりも2人の方が成功する確率は増えるのは明らかだし、何よりも明確な目標が出来たのだから…!
「さあ、そうと決まったらリフレッシュといこう、こんな荒れた所ではいい考えも浮かばないからね。」
「えっ…?あっ!」
そう言われ、周りを見渡してみると物はひっくり返っていたり落ちたり割れていたりと酷い有り様だった、こんな状態だったのにそれすら気にできていなかったのかと改めて思い知らされた。
「確かにこれは酷い有り様っていう他にないわね。」
「今片付けを手配した、その間補給も兼ねて早速作戦会議といこうじゃないか、忙しくなりそうだ…!」
そう言うと彼は部屋を後にしていき、私もそれに付き従って外へ向かっていった。
必ず…!どんなに難しい事でも必ずあの男をこの世界から排除してやるのだ…!
とりあえずまずはエネルギー補給だとあちこちから訴えてくる身体を意識しながら私はそう決意を新たにしたのだった。
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