六十三話 村の一員

 次に向かったのは村の南側だった。店が出ていた場所には、ほんどが日本でも見るような屋台に置き換えられていて、準備してあったの建物と合わさって、完全に祭りが行われる場所になっていた。皆祭り用の商品を並べていて、中には魔法の的あてみたいなものや魔法で商品を当ててゲットする射的みたいなものもある。


「ユウワさん、これってもしかして」

「……うん」


 散歩の途中コノが見つけたのは、僕のぬいぐるみだった。センサーでもついているかのように一瞬でそれを発見してしまう。気づかないで欲しかったのだけど。

「いらっしゃい」

「うわぁー。とうとう出来たんですね! コノ、すっごく楽しみだったんです」

「良い出来でしょう? 彼にも協力してもらったからね」


 コノは興奮して瞳にハートを宿してその商品を眺めて、今にも触りたそうに手を宙に浮かせている。


「あの、買いたいです!」

「まだ売りに出していないのだけど……そうね。祈り手として頑張ってくれるし、プレゼントするわ」

「いえ……お金を出させてください! そうじゃないとコノの気持ちが収まらないというか……」

「いや、普通に貰っておきなよ」


 コノは熱烈なファンみたいな思考になっている。店主さんは苦笑していて、ホノカはジト目で僕を見ていた。


「……ユウワさんがそう言うなら」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます! うぁカッコ可愛いです!」


 受け取るやいなやむぎゅっと抱きしめて、それから至近距離でまじまじとぬいぐるみを見つめる。

 僕のぬいぐるみがそうされているのは、気恥ずかしさがあって。それを止めたくなるも、同じ事をしていたから、何も言えなかった。


「マジで好かれてるなー。オレのぬいぐるみには目もくれず、お前のを取るんだもんなー」

「……そっすね」


 ホノカは不満たらたらにそう呟いてきた。告白を協力している身としては、非常に気まずい。


「あ、そうだ。ホノカのぬいぐるみ買いたいです」

「わかったわ。はい、大切にしてね」

「もちろんです!」


 僕の思いが届いたのか、コノのファインプレーによってホノカのプレッシャーから解放される。


「お金を出してオレを買ってくれた……ユウワよりもってことだよな」

「そ、そうかもね」

「よしっ」


 勝負に勝ったと言わんばかりに小さくガッツポーズを取る。コノはそんな様子に気づくことなく、満足げにぬいぐるみを二つ抱えて戻ってきた。


「何かホノカ嬉しそうだね」

「……まぁな。てかオレも買おっかな」

「ホノカがぬいぐるみを? 珍しいね」

「せっかくだしな」


 そう言って彼女はコノのぬいぐるみを買ってきた。慣れない買い物なのか少し照れているような表情だ。


「もう少し見ていくか?」

「うん。ユウワさんも大丈夫ですか?」

「いいよ」


 そこから僕達はぶらぶらと準備中の店を回っていった。


「おおっ村の主役達じゃないか。これ明日出すんだが、ちょっと食べないか?」

「食べます食べます!」

「美味い……」


 たまに食べ物をわけてくれるおじさんに祭りに出す緑の焼きそばを渡される。味は意外にクリームパスタのような甘さのあるもので、最初は面食らうもすぐに慣れてスルスルと口の中に入れられた。


「明日は頑張れよ。コノハ、ホノカ」

「「うん」」

「ヒカゲくんも彼女達を守ってくれよな」

「頑張ります!」


 それからも歩いていると、多くの村の人たちに声をかけられた。


「今年の主役達、応援しているからな!」

「三人共、無理はしないで気を付けてね」

「もしあいつらが来ても俺たちが退治してやるから安心しろよな!」


 コノとホノカだけじゃなく、僕にも応援のかけ声を貰えた。ただ本当に主役のような扱いを受けるのは慣れていなくて恐れ多い。けど、背中を優しく押されてるみたいにエネルギーになるし嬉しさもあった。


「おっ……人気者たちが来たな」

「やっほーザグにぃ」

「店は出さないんだな」

「ああ。当日は村の警備が仕事さ。教え子の危険を無視するわけにもいないしな」


 村の出口付近の人気の薄い所にサグルさんがいた。特に何かをしているわけじゃなく、遠くから村の様子を眺めているようだ。


「まぁ一番近くにいれるのは君だから、二人の事を頼むよ」

「は、はい! 絶対に守ります」

「うん。にしても……皆相変わらず随分仲が良いみたいだね」


 サグルさんはコノやホノカが持っているぬいぐるみを指し示して微笑んだ。


「クオリティ高いでしょ。サグニィも買っちゃえば?」

「チッチッチ。もう全部買ってる。もちろんヒカゲくんのもね」

「そ、そうですか」


 やっぱりどう反応して良いのかわからなかった。二人と同じように思ってくれているのかなと、じんわりとしたものが広がった。


「というか、ホノカも買うなんて珍しい」

「気まぐれだ」

「ははは、そうか」


 どこか見透かしたような態度で笑う。ホノカは持っているコノを後ろに隠した。


「にしても……改めてここに来たのがヒカゲくんで良かったよな」

「だよね! コノもめっちゃそう思う!」

「そんな……」


 ここに来て僕という人間を肯定されるけれど、やはりそんな大層な人とは思えなくて。でも、皆の気持ちを否定するのも憚れて、その二つにいつも挟まれて息苦しさを感じていた。


「ユウワって自分の事を低く評価し過ぎじゃないか?」

「そう……かな?」

「ああ。たまにはお礼達の言葉を信じてもいいんじゃないか」

「……」


 僕は周りの人の言葉を疑って受け入れようとしていなかった。こんなにも良い人達の言葉を信じきれないなんてやっぱり僕は……。いや、止めよう。これじゃあ無限ループだ。


「が、頑張ってみる」

「コノも全力で褒めてお手伝いします」

「ありがとう、でもほどほどでお願い」


 コノだと色々な補正がかかって何でも肯定されてしまいそうだ。もしかしたら矯正にはそれくらいの方がいいのかもしれないけど。

 ふと空を見上げると、まだまだ日は高くて澄み渡る青で満たされている。それを見ると、少しスッキリとして何か解放されたような気持ちになった。

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