六十二話 村巡り、思い出巡り

 昼になるとオボロさんと共に二人が戻ってきた。その間に僕は考えるのと同時に特別編に何度か目をやって、その二人を僕とコノを少し重ねてみたり。そんな事をしていたけど進展はしなくて。二人は着実に進んでいるのに、僕一人だけが動けないでいる。それに焦りと孤独感が押し寄せできて、どんどん自分がわからなくなっていった。


「それじゃ行こうぜ」

「ユウワさんも大丈夫ですか?」

「うん」


 昼ご飯を食べ終えてから、少し時間を置いて部屋で休んでいるとでそう声をかけられた。二人はもう準備万端といった感じで、僕はすぐに立ち上がり二人と共に家を出た。


「……やっぱ高いなー」

「やっぱり慣れないか?」

「うん……毎日いるのにね」


 そうコノは自嘲気味に笑う。ただ、恐ろしさを感じているからか浮べる笑みは引きつらせていた。


「で、でも長く下は見れるように……うぅ」

「無理すんな。さっさと降りるぞ」


 ホノカの空飛ぶ魔法でふわりと地面の上に着陸。コノは安定した大地に戻れた瞬間に腰を屈めて落ち着かせていた。


「こ、怖かった」

「無茶すんなよ」

「う、うん。ごめんなさい。だけど前よりは頑張れたよ」


 顔を上げたコノは幼さが残るにへらとした朗らかな表情を見せる。それにホノカはダメージを喰らったように一歩後ずさる。


「そ、そうか……えっと良いじゃん。頑張れよ」

「うん! ありがとうホノカ」

「お、おう」


 ホノカは素直に褒めた事を照れくさそうに頬をポリポリとかく。コノはお礼を言いながら立ち上がると僕の方に来て。


「お待たせしてごめんなさい。早速行きましょう!」

「え、ちょ……」

「こ、コノハ?」


 彼女は僕とホノカと手を繋いで歩き出した。僕らはそれに引っ張られる形でついて行く。


「急にやるなよな。びっくりするだろ」

「えへへ、ごめん。でもいいでしょ?」

「まぁいいけどさ」


 横に広がって僕達は村の中心部へと向かった。僕の左手にはコノ柔らかくて小さな手が体温を伝えてくる。その熱と少しの緊張で手汗が出ないか心配になりながら歩いた。


「二週間前ってあっという間ですね」

「そうだね」


 最初に訪れたのは神木の前。虹色の葉を持つこの木はまさしく神の木というか風格がある。まぁ、これは神木の一部だと言うことが最近わかったわけだけど。

 周囲を見渡すと祭りの旗や建物も完成形のものが設置されていて、もう儀式まで間もないということが肌で感じれる。


「……」


 ここでホノカと知り合ったんだっけ。その前は森の中で勘違いで殺されかけたっけ。


「コノ、何だかユウワさんとホノカといるのがずっと前からいる気がしてるんです。本当は二週間も経っていないのに」

「ちょっとわかるかも。毎日一緒だったからかな」

「そうですよね! ……もっと長くいればいつしか幼馴染みたいに思えたり?」

「流石にそれは……どうだろう」


 コノの向こう側から不機嫌そうな目が僕の方に矢印が向いている。肯定したら魔法が飛んできそうだ。


「ユウワには、絶対的な幼馴染がいるから無理だろ」

「そうだよね……確かにコノにもホノカがいるからそこまでは思えないかー」

「そ、そうだよな」


 コノのおかげですぐに機嫌が戻った。でもホノカの言う通り、やっぱり幼馴染がいるとそういう思い込みみたいなのはできなさそうだ。

 そう話していて、ふと神木が風に揺れて見上げるとそこから果物が僕の方に落ちてきた。それはまたストロングベリーで。


「おっと……」

「また貰えましたね。流石はロストソードの使い手です」


 少し間を置いてからさらに神木から二個、フルーツがコノとホノカにも落ちてきた。


「オレ達も……」

「もしかしてイリス様見てくれているのかな。明日儀式があるから」

「だといいな」


 皆で一緒に食べた神木の恵みからは、とろけそうな甘みとみずみずしさ、それに元気が貰えた。

 次に僕たちが向かったのは村の西側だ。ここも相当馴染の場所になっている。魔法で動くシーソーも並び立つ丸太も日常の風景だ。


「コノ、ユウワさんが来なかったら、ここにあまり訪れなかったですし、トレーニングとかも頑張れませんでした」

「そっか……」

「はい! おかげでコノは沢山走れるようになりました。ホノカも少しは安心できた?」

「まぁ、逃げる力はついてるからな。多少は」


 足は決して速いわけじゃないけど、長く走れるだけの持久力は手に入れている。少しでも安心してもらうために彼女は僕達のトレーニングに付き合っていたんだ。


「やった、ホノカに褒められた」

「別に、褒めるのはレアじゃないだろ」

「そうかなー? 前は現実見ろとか言ってきたし」

「それは褒められることじゃないから」


 でも、ここ最近のホノカは意識的に褒めたり共感したりしていた。


「そういや、最初はユウワは弱かったのに、今じゃ全然勝てなくなったな」

「ホノカのおかげで強くなれたよ。実践では活かせるかわからないけどね」

「安心しろ。死を恐れないユウワなら、プレッシャーで駄目になることもない。自信を持てよ」


 ホノカの言葉には強い説得力があって、どんどん大丈夫な気がしてくる。


「ロストソードもある。そらに、オレの力も使えるようになるんだ。めっちゃ強いよ、ユウワは」

「……ホノカの力、使ってもいいの?」

「当然だろ。お前以外いないし、オレはユウワがいい」


 ホノカは八重歯をちらりと覗かせて破顔する。彼女が側にいてくれるなら心強い。それに、ロストソードの中にあれば、コノの側にいさせてあげられる。


「ありがとうホノカ」


 彼女の力に見合うようにもっと強くならないといけない。ホノカやコノのためにも。

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