五十八話 儀式の場

「着いたぞ」

「うわぁすごーい」

「でけぇな」


 儀式の場に到着すると、各々にそこにあった光景に感想を口にする。


「……あれって」


 そこは細い道から解放されたように広々とした空間になっていて、地面は緑の絨毯で覆われている。外周には円を作るように木々が立ち並んでおり、内側にはそれらの姿はない。中心には円を描く泉があり、その中に天を突く巨木が身体を浸している。泉からは水が森の方へと流れ出ていて、静寂な空間には水音が良く聞こえた。


「分かると思うが、あの木に祈りを捧げるのだ」


 あの木にこの空間はひどく既視感があった。それは、僕がこの世界に呼ばれて始めて目を覚ましたあの場所ととても似ていて。


「そういやずっと気になってたんだが、どうして村のご神木じゃなくてあの木に祈るんだ?」

「まだ言っていなかったな。実はあれはご神木の一部でな、本体はあの巨木なのだ。あのご神木こそ神に最も近い存在」

「……でもどうして一部があそこに?」

「あれは、イリス神がこの村の者に管理を託した証。我々の自然を愛する心が相応しいと選んでくれたのだ。だからこそ、島の代表であり簡単にマギアを入れる事ができない」


 あの木がそうなら、あの島にあったのもご神木なのだろうか。


「あのオボロさん。あのご神木って他にもあるんですか?」

「うむ。様々な島にあるぞ、必ずあるわけではないが。自然が多い島にはだいたいある。そうそう、ロストソードの使い手にも関係もあるのだぞ」

「それって……」

「ロストソードの使い手に選ばれた人は、ご神木の元で目覚めるとな」


 あそこで目が覚めたのもたまたまじゃなかったんだ。神に近い存在とも言っていたから、そういう理由で目覚めるのかも。


「そういえば、少し前にこのご神木の元で一人の使い手が目覚めたりもしたな」

「え? コノ初耳なんですけど。もしかして、それがユウワさんだったり? もしくはミズアさんとか?」

「いや違うぞ。確か、モモナアイリという名前だったか。何せアヤメさんがすぐに保護して行ってしまったからな」


 僕は泉の側まで近づく。暗くなっているからあの時と違って幻想的な雰囲気はないものの、やっぱりそっくりだ。この辺りにモモ先輩が倒れていたのだろう。


「そうだ二人共。明日から少し祈りの練習をしてもらいたいのだ」

「やっとか。簡単って聞いてたけど、こんな短い期間でもできるのか、じいちゃん」

「ああ。祈り方を覚えてそれを繰り返すだけだからな。安心してくれ」


 オボロさんとホノカが真面目な話を展開している中、コノは僕の隣に寄ってくる。


「ユウワさんが目覚めた場所ってどんな所だったんですか?」

「ここと変わらないかな。泉も木もこの広い感じも一緒」

「そうなんですね……でもユウワさんが見ていた景色、コノも見てみたいな……。ユウワさんをもっと知るために」


 コノは淡く微笑んだ。それにまたしても心に揺さぶられる。好意をぶつけられるのに慣れるかなと期待していたが、もう無理そうだ。


「その前に儀式を終わらせて、オレ達の未練を解決してから、だろ」

「えへへ、まずは目の前の事から考えないとだね」

「そうそう。いくら簡単でもコノハがちゃんと覚えられるか怪しいしな」

「もう、馬鹿にしてくれちゃってさ。こんなコノだけど、多分……恐らく大丈夫、だよ?」


 段々と語気が弱まって不安そうな表情になっていく。


「そこは断言しろよ。まぁ大丈夫だろうし、マジで駄目ならオレが手伝うよ」

「ありがとう、ホノカ! やっぱり頼りになるなー」

「そ、そうか? ま、当然だけどな!」


 そう褒められてホノカは隠そうとするけど、嬉しさが顔から滲み出していた。


「……」


 仲睦まじい二人の姿をオボロさんは遠くから口角を上げて眺めている。でも、見つめる瞳はどこか悲しげだった。


「そろそろ戻るぞー」

「はーい」

「んじゃ帰るか」


 用も済んだことで僕達はご神木から回れ右をして家へと戻った。その前にちらりと振り返ると、葉が手を振るみたいに風に揺れていた。

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