四十一話 続 村案内

 それから村の案内を再開。最後の西側に行くため、まず坂を下りて神木のある方に歩いた。僕の前にホノカが先導するよういて、コノはやはり恐怖からか僕のすぐ側をくっついて離れずいる。


「何かさっきまで戦闘があったとは思えないほど普通だね」

「まぁ、たまに結界が緩んで魔獣が入り込んだり、迷い森で狩りをしてたりするからな。ある程度荒事には慣れてるんだよ」

「コノは全然慣れませんけどね」


 村人にすれ違うのだけど、平常運転な感じでいて挨拶をしてくれる。神木まで着くとその周囲では、何人かの人たちが集まって和やかに会話していて、そこではウルフェンをどう撃退したとか何人倒したか自慢し合っていて。流石は異世界だと、そのたくましさに驚いてしまった。


「着いたぞ。まぁ東側と大して変わらないだろうけどな」


 西側の道を道なりに進むと、遊具のある広場がありその奥には背の高い木のマンションがあった。ホノカの言う通り対称的な構造となっている。けれど、遊具の種類はまた別で、それが凄く気になった。


「あれってシーソー? こっちには丸太が何個かあって……そこに的あての的が書いてある」


 広場の左には木の真っ直ぐなタイプのシーソーがあって、座る部分の裏側にはタイヤではなく無色の魔石が嵌っている。反対側には僕の背丈くらいある丸太が真っ直ぐ立っていて、それが四つ等間隔にそれぞれ少し離れた位置にあった。その丸太にはそれぞれ的の絵柄が書かれている。


「オレ達は良くここで遊んでたんだ」

「どうやって遊ぶの?」

「気になるか? だったら久しぶりに遊んでみようぜ、コノハ」


 ホノカは悪ガキのような笑みを見せると、僕から離れないコノの腕を掴み、シーソーに無理矢理連れて行く。


「行くからっ、そんな強く引っ張らないでよー」


 仕方ないなという様子でコノは左に座りホノカは右に。シーソーは現状平行のままで浮いている状態だ。


「これはな、裏についてる魔石に入ってる魔力を上手く身体の中へ取り込めた方に傾く遊具だ。じゃ、やるか」

「えー? コノは一度も勝ったことないから気が進まないんだけど」

「案内なんだから紹介しないとな。よし、せーのでやるぞ」


 何だか今はホノカの方がはしゃいでいて子供みたいだった。


「「せーの!」」


 二人は目をぎゅっと瞑ると魔石が淡く輝き出す。外から見える動きはそれだけだった。


「動いた」


 少しするとどんどんホノカの方にシーソーが傾き出す。それに気づいたコノは唸り声を上げて身体に力を入れるも無慈悲に彼女の方は高い方へ。結果、ホノカ側が傾いて地面についた。


「よっしゃあ、オレの勝ち」

「また負けちゃった」


 終えると魔石の光は消えてシーソーは元の位置へと戻った。


「なぁ、もう一回やらないか? 何か昔を思い出して楽しくなってきた」

「……いいよ。コノもちょっと懐かしいなって思ってたし」


 幼馴染同士無邪気にそう遊んでいる光景は凄く眩しくて、僕もアオとそんな風になれたならと、叶えそうにない願いを抱いてしまう。


「「せーの!」」

「おりゃぁぁ」

「きゃぁ!」


 ホノカが全力を出したように叫んだ途端、片方は地面にめり込む勢いで、反対は空に投げ飛ばされそうな速度で傾いた。


「ホーノーカー!」

「ごめんごめん、力入れすぎた」

「本当びっくりしたんだからね!」


 二人はシーソーから降りる。するとコノはすぐにホノカに駆け寄ってぷりぷりと可愛らしく怒る。


「後で何か奢るよ。それで許してくれ」

「……しょーがないな」

「サンキュー。じゃ次は丸太だな」


 僕達は丸太が並ぶゾーンに移動した。丸太は地面に埋まっているのかびくともせず、太さがあってその上には両足を乗せれそうだけど、高くて普通には登れそうにない。


「ここは、空飛ぶ魔法で遊ぶんだ。こんな風にな」


 ホノカは魔法で丸太の上に飛び乗った。そこで一旦解除してから、また唱え直して一つ向こうの丸太にジャンプ。通常なら届きそうにないがそこで魔法で浮遊して届かせた。それを一番奥の足場まで繰り返す。奥まで行くとひとっ飛びでこちらにやってくる。


「凄い」

「へへっ。エルフの子供はここで空飛ぶ魔法で遊んでそれが練習になって、飛距離を伸ばしていくんだ。これがエルフ皆が魔法が扱える一つの理由だな」

「そうなんだ。じゃあコノも……って、コノ?」


 至近距離にいるコノに訊いてみると頭をぶんぶんと横に振っていて。


「コノハは高い所が苦手だからな。あれは今になってもできないんだよな」

「あれ? でも空飛ぶ魔法使った人に張り合って、できるって言ってなかったけ?」

「魔法は使えるんです……自分には使えませんけど」


 コノは自虐的に薄く笑いつつ肩を落とす。空を飛べないの割とこの村だと相当不便な気がするが大丈夫なのだろうか。


「そうだヒカゲ、せっかくだしやってみないか。コノがタイミングを上手く合わせて魔法を使ってさ」

「やってみようかな。コノお願いできる?」

「うぅ、わかりました。ホノカ万が一の時はお願いね」


 話がまとまり僕は丸太の前に。コノが魔法をかけてくれると身体を浮かせてもらい上まで運ばれる。そこに足がつくと一旦解除された。


「怖くないですか?」

「全然大丈夫」


 あの飛び降りがあったからか、高所に対する耐性ができていた。それにもう木のマンションの三階からの景色は見ていたし。


「コノの準備は整いました。いつでもジャンプしちゃってください」

「よしじゃあ行くよ」


 つま先に力を入れてギリギリの所で思いきり向こう側へと跳躍。


「フライ!」


 身体が放物を描き落ちそうになる所で魔法によって物理法則が捻じ曲げられ、そのままの高さで空を滑り向こうの丸太へ。


「やりましたね! もうどんどん行っちゃっていいですよ!」

「わかった!」


 二つ目から三つ目、三つ目から四つ目へと連続で成功させる。この、魔法で身体能力が拡張されて羽が生えたような感覚はまさに心が飛び跳ねる心地だった。


「次はこっちからそっちに行くね」

「はーい」


 僕はその新感覚もう一回味わうことにした。コノもジャストタイミングで魔法をかけてくれるから、何だか自分の力で飛ぶ鳥人間にでもなったような気分だ。


「ふふっ楽しかったですか?」

「凄く。ありがとうね」

「いえいえ。遊びたくなったらいつでも言ってください。ヒカゲさんが喜んでくれるとコノも嬉しいので。きっとこのために空飛ぶ魔法を覚えたんだと思います!」


 それは言い過ぎだろうという冷静なツッコミを脳内でしつつも、どこかじんわりとした温暖を感じてもいて。


「はいはい、話はそこまでにして次は的あてしようぜ」


 ホノカがボディガードのように僕とコノの間に割って入ってきて、コノを押して的あてのある丸太の側面へと連行していく。


「これは至ってシンプルで、少し離れた所から魔法を当てるんだ」

「でも、壊れたりしないの?」

「ご神木の加護があるので、大丈夫なんですよ」


 加護はこの丸太にも適応されるのか。流石神の力だ範囲が広い。


「的の大きさはどれも同じ。とにかく遊んでると狙いを定めて放つ事を覚えていくんだ」

「ちなみにコノは……」

「流石にそれくらいはできますからね! 見ててください」


 コノは全力で訂正して、それを証明しようと意気揚々と彼女は五メートルほど離れた辺りに位置取りをした。


「シ火スイ球ミ炎熱ノリ焼カ……」


 相変わらず理解不能な詠唱をして、前に出した両手をその的に向ける。


「フレイム!」


 高らかにその単語を発すると両手の中心から小さな炎の玉が放たれ的に着弾。しかし、話の通り丸太は燃えることもなく少し焦げ跡が残るだけだった。


「おおー!」

「ふふん、コノだってこのくらいはやるんですよ」


 彼女はどうだと言わんばかりに胸を張る。それで元々持っているものが強調されて、視線を逸らしてホノカの方に。彼女の方はアオと同じくらいだから安心感があった。


「おい、何でこっち見たか理由を聞かせてもらおうか」

「いや違くて。ホノカの方も見てみたいなって」

「胸を張ってる姿をか?」


 仁王立ちで凄まれる。その威圧感はオボロさんの血筋を感じざるを得なかった。


「魔法を的に放ってる姿です……ごめんなさい」

「ふん、仕方無ねぇな」


 睨みから解放され硬直していた身体が動くようになり、息を吸い込んだ。何とか許してもらえたのかホノカは、隣の丸太でコノよりもさらに二メートル離れた所まで行った。

 正直意外に感じた。仕草や一人称も男っぽさがあったから、そういうのには興味がないのかと。


「しっかり見とけよ!」


 片手を目標へと向けてコノと同様に呪文を唱えるも、その速度は格段にホノカの方がスピィーディーで。


「フレイム!」


 さらに美しい輝きの火球を的へと発射。距離があるのに勢いは止まらず、ものすごい速さで的確に目標に直撃した。


「すっご……」


 コノには悪いけど素人目で見ても明らかな差がそこにはあった。


「ホノカって凄く優秀なんですよ。身体能力も魔法の才能も抜きん出ていて、村の宝みたいな存在。コノとは大違いなんです」


 いつの間にか隣りにいたコノは、そんな幼馴染を誇らしげに語る。そこには、純粋な凄いという感情しか含まれていなくて、ヒーローを見るみたいにホノカを瞳に映していた。

 その姿はアオを見る僕の姿と重なって。


「ちゃんと見ていたかー?」

「うん、凄い威力だったし正確でびっくりした」

「なら、もっといいもん見せてやるよ」


 気を良くしたのか、ホノカは一番手前の丸太に位置を変えると、今度はまた違う少し長めの呪文を唱えだす。


「ヨ連炎リイシ熱撃ノカ灼スミ……」


 すると両方の手のひらに炎が生み出されて、それを保持した状態でいる。


「バーニング!」


 そう最後のまた新しく聞く単語を言った瞬間に駆け出す。そして四つの丸太の的に走りながら、左手右手と連続で中くらいの大きさの炎の球をそれぞれ一つずつ放った。


「やばっ……」


 驚くことにその魔法は全て正確に的に当たっていた。


「バーニングって村の中でも使える人ほとんどいないレア魔法なんですよ」

「ヒカゲ、これで満足したろ?」

「うん、見せてくれてありがとう」


 そう感謝を伝えるとホノカは指で頬をかいた。


「じゃあこれで村の案内は終了です。どうしでしたか? 過ごせそうですか? その……色々ありましたけど」

「僕が住んでた所とは全然違って新鮮で良いなって思ったよ。まだ不安は多少あるけど、コノやホノカがいるし、村の人も優しいしやっていけそうかな」

「そう言ってもらえてコノも一安心です!」


 それに、色々あったことで僕のすべき事がはっきりとして、コノやホノカの事も多少なりとも知ることができた。

 でもまだ足りていなくて。このエルフの村で過ごす二週間で、二人と仲を深めて本当の未練を知らないといけない。さらには、襲ってくるウルフェン達からコノを守り、儀式も成功させることも忘れちゃいけない。


「ムズ過ぎでしょ……」


 ロストソードの使い手ビギナーには試練過ぎないだろうか。まだ三回目ですよ神様。


「ヒカゲさん?」

「ごめん、何でもないよ。というかこれからどうしようか?」

「もうすぐ昼時だし、一旦解散でいいんじゃないか?」


 確かにまた色んな事が起きたせいで、胃の容量に意識が向いていなかった。


「じゃあ、お家に帰りましょっか」

「うん」

「じゃ、先に。腹が減ってしょうがなかったんだ」


 ホノカは手をひらひらと振って走り去ってしまう。僕たちはその背を見届けた後、ゆっくりコノの家に戻った。

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