第22話 いつか魔法使いになる少女
——その杖を握った時に、私は思い出したんです。
自分の存在理由。私は何を成さなくてはならないのか。
私は、どうしてここに生きているのか。
——私は、魔法使いになるんです。
顔も名前も覚えていないけれど、私を創った誰かは泣いていたんです。
その涙を止めたくて。その悲しみを止めたくて。
どうしたらいいのかと、産まれたばかりの私は尋ねたんです。そうしたら、こう言いました。
『地上に行って、私の願いを叶えて頂戴。』
どうしたら、その願いを叶えられますかと再び尋ねました。
『方法ならあるの。それは——』
それが、その涙を止める唯一の方法でした。
だから私はそれを受け入れる事にしたんです。
それが、私の始まりでした。
それが、物語の始まりでした。
魔法についての知識はそこで教えて貰いました。
他にもいろいろ教えてくれたと思うんですけど何故か私はその半分以上の記憶と知識を失ってニカルの前に現れたんです。
それでも魔法の知識だけは忘れなかった。それがどうしてなのかずっと引っかかっていたけれど……。今なら分かります。
それが、私にとって一番大切なものだったからです。
私は魔法という存在を肯定し、追求しなくてはいけなかったから。
だから魔法についての知識だけは覚えていたんだと思います。
魔法。
未だその全貌は誰にも分からない存在。
奇跡と神秘の探求の果てに得るもの。
私はそんな魔法が本当にこの世界に存在すると示したいんです。
だから私は魔法使いになるんだと思います。
その中でも、最も謎に包まれた魔法。
——古代魔法。
失われた、古の魔法。
世界が今のような安寧と平穏を手に入れる前、その時代は悪魔が蔓延る混沌の時代。
世界を創った五つの神々は、そんな世界の崩壊を嘆き、憂いていた。
世界神のそんな心に同調した、選ばれし者たちによって生み出された奇跡と神秘の探求の果てに生まれたものこそが、原初、一の魔法。
それから五つの魔法が生まれ、世界はやっと平和を取り戻していった。
その時に生まれた魔法は古代魔法と呼ばれ、その魔法を再現出来る者はこの世界には存在しない。
それが、私の知る魔法についての最初の知識です。
そして、今日やっと私は自分のやるべき事を思い出しました。
私はこの古代魔法を復活させなくてはならないのです。
それが私という存在に与えられた存在理由であり、存在意義なのです。
だから、私は旅の中で探さなくてはなりません。
私が目覚めさせる魔法について。そしてこの世界について。
私はそれを知ってやっと、一人の魔法使いとして堂々と立つことが出来るのですから。
けれど、どうして私が魔法を使わなくてはならないのか。
どうして魔法を使ったら、記憶の中の人物の涙を止める事ができるのかは、思い出せません。
私が思い出せたのはただ古代魔法を復活させ、その魔法を使う事。
それだけです。
だからきっと、私のやる事は今までと何も変わらないと思います。
ニカルやエクターと色々な場所に旅をして、色々な景色を見て、沢山の人と触れ合って。
そうして私は少しずつ自分が復活させるべき魔法について思い出していくんだと思います。
この話を、私は一番最初にニカルにしたかったんです。
私に名前をくれて、お洋服をくれて、行き先をくれたニカルに。
今度は私が話す番だと思ったから、
ねえ、ニカル。
私がこれから先、魔法を追求する一番の目的は自分のやるべき事を果たす為ですが、もう一つの目的もあるんですよ。
これまでニカルは色々な人に『魔法はない、存在しない』と言われてきたと聞きました。
魔法のせいで、沢山辛い思いをした事も知っています。
だから私は、魔法の存在を堂々と世界に教えてあげたいんです。
ニカルの言葉にこれまで耳を貸さなかった人達が私の魔法を見て、本当に魔法はあったんだって、そう思って貰えるように。
それが今の私に出来る、ニカルへの最大限の恩返しだと思ったから。
私はこれから先もずっと、ニカルとエクターと共に道を歩み続けたいと思います。
そしていずれ、その時が来たら。
私は堂々と胸を張ってこう叫ぶのです。
——私は魔法使いの、レノア・ウィッチです!
って。
その時は、ニカルにもちゃんと見届けて貰わないとですね。
私にこの偉大な名前を付けてくれた名付けの親なんですから。
ニカルにも、私の魔法を見てもらいたいんです。
エクターには、沢山褒めてもらいたいです。
『凄いよ、レノアちゃん!』って頭を撫でて貰えたら、私は大満足です。
そんな二人に、私は自慢げに、鼻高々に『でしょ?』なんて笑ってみせて。
そしてまた、三人で旅を続ける。
どうですか?私の考える、最高の物語は。
決して夢物語になんてさせません。私はこう見えて、かなり意地っ張りな女の子ですから。
絶対にその夢を現実にしてみせます!!
おじさんから頂いた、この杖と共に。
そして、全部が終わったら三人で一緒に沢山美味しい物を食べましょう。
ニカルはきっといっぱいお酒を飲んで、私やエクターに絡んでくるんです。
絡み酒、ってやつですね。
私とエクターはそんなニカルに悪態をつきながら、それでもやっぱり一緒になって笑いあって。
ニカルは私の頭に手を置いて、「よくやった!それでこそ魔法使いだ!!」って幸せそうに笑ってくれるんです。
そんなニカルに私は誇らしげな顔で「でしょう?」って言い返したりして。
……実は前に考えた事があるんです。
この旅の終わり、終着点はどこだろうって。
でもきっと終わりなんてありません。
私達の旅はどこまでも続いていくんです。
物語の締めくくりが、『おしまいおしまい。』じゃなくて、『はじまりはじまり。』でもいいと思いませんか?
そんな物語が一つくらいあっても良いと思うんです。
だから私は、そんな物語を、そんな旅を、ニカルとエクターと一緒に目指したいんです。
終点も極点も無い、ずーーっと続く旅。
それがレノア・ウィッチの夢。
なんて、自分語りをしてしまいましたが、結局私は何も変わりません。
これからもずっと、ニカルとエクターの傍にい続けます。
ニカル。こんな私を、これからも仲間だと呼んでくれますか?
こんな私をこれからも傍に置いてくれますか?
出来ることなら私はずっと、二人と同じ道を歩いて行きたい。
レノア・ウィッチとして。魔法使いとして。一人の少女として。
私はまだ、ニカルの隣を歩いても、いいですか?
星の魔法使い【レノア・ウィッチ】 桜部遥 @ksnami
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