第12話 思い出抱く守護者たれ

『何とも苛烈な攻勢をかけたミズクちゃんですが、スクルちゃんの反撃の前に散ったぁ! 決闘の一戦目で敗北したのはミズクちゃん。アクタ班が一歩勝利に近づくー!』


 クロワの実況もミズクの敗北を裏打ちしている。頼りにしていたミズクが敗北して救援の望みが少なくなったことで、ムイの面に絶望が彩色された。


「はぁーはっは! ムイさー、仲間が弱い気持ち、これで分かったでしょ? 自分が辛いときや助けてほしいとき、何の役にも立たないんだよ? ウチがこんなに頑張っているのにさ、助けてくれないの。分かったでしょー⁉」


 タキシの哄笑が響く。ムイは蒼白になった顔を映像花から背けタキシへと向けた。


「まだわたしは甘えてたんだ……」


「どうしたの、ムイー?」


「まだ、わたしは仲間だけに戦わせようとしていたんだ。わたしも戦わないといけないって、分かっていたはずなのに」


 ムイが握りしめた拳を高々と掲げた。


「〈百花繚乱・思い出抱く守護者たれ〉!」


 ムイの籠手が鮮烈な青い光輝を発し、弾けた波動がタキシの全身を震わせた。籠手の表面をたくさんの小さな花弁カランコエの青い幻影が彩色し、ムイがタキシを見上げる。


「ごめんなさい。わたしはタキシちゃんと戦わないとダメみたい」


「本気で言ってんのー? ムイがウチを倒せるっていうわけ⁉」


「この前の試合で、守っているだけじゃ大事な人を守れないって気付いたんだ。怖くても痛くても、タキシちゃんみたいに戦いたくない相手でも、戦わないと守れないものがあるって分かったの。だから、ごめんなさい」


 ムイが右手を引いて攻撃の構えを見せる。圧倒的に有利な立場にいるせいか、タキシは恐れることも無くムイを見下ろした。


「ムイのくせに言ってくれるね。やってみれば⁉」


 タキシは狙いを絞らせないように不規則な軌道で飛び回った。縦横微塵に飛ぶタキシへと、ムイは右手を向けて照準をつける。


『スクルちゃんとミズクちゃんの戦いに終止符が打たれ、次にタキシちゃんとムイちゃんの戦いに目を向ければ驚き! 二人とも百花繚乱を発現して、すでに戦局は最終局面のようです! 狙いをつけられないように飛ぶタキシちゃん、ムイちゃんの一撃は届くのかぁ⁉』


 ムイの籠手が発射され、光の尾を引いて空に走る。超速の一撃はタキシの身体から大きく逸れ、上空へと突き抜けていった。


「惜しかったねー! 簡単にウチを倒せるなんて思わないことだよ」


 動きを止めて空中に浮遊するタキシが勝ち誇って笑い、それを見たムイは急いで走り出した。


『外れたー⁉ 今まで相手を確殺してきたムイちゃんの一撃が外れました! 残ったもう一つの籠手でタキシちゃんを倒せないと、ムイちゃんの勝利は絶望的です! ……いや、あれは!』


 クロワの実況に戸惑いが生まれ、不審を覚えたタキシが背後を振り返った。


 その目に映ったのは、一度は外れたもののムイの腕に戻るために急降下してきた籠手だった。


『ムイちゃんへと自動で戻ってくる籠手がタキシちゃんの背中を目指して走る! ムイちゃんが急に移動したのは、自身と籠手の間にタキシちゃんを挟むためだったようです!』


 咄嗟にタキシは身を捻るが躱しきれず、籠手が二枚の羽を直撃。砕けた羽がハナビラに還元されて舞い散り、身体に受けた衝撃で体勢を崩したタキシが降下する。


 残った羽を動かして墜落の勢いを減らすも、地面にぶつかったタキシは何度も回転してからやっと停止した。


 激痛で呻き声を漏らすタキシが顔を上げると、目の前にムイが佇立している。慌てて立ち上がったタキシが挑むようにムイを睨んだ。すでに右腕の籠手を装着し直しているムイは、悲しげな表情で左手を伸ばす。


 タキシの胸倉を掴んだムイが左手を掲げると、タキシの足が浮くほどの高さまで持ち上げられた。タキシは無駄であってもムイの腕を叩いて抵抗を止めない。


「ムイ……! あんたにウチを倒す度胸があるの⁉」


「タキシちゃんの役に立てなくてごめんね。タキシちゃんの思い出に残るわたしが役立たずのままで残念だけど、わたしのなかにあるタキシちゃんの思い出は今でも良いものばかりだよ」


 タキシに初めて罪悪感のような感情が動き、その表情が苦しげに歪んだ。


「わたしたちの思い出はもう終わってしまったけれど、加護花カランコエとしてミズクやヒノメさんとの新しい『思い出』を『守って』いきたいんだ。そのために、ここで負けるわけにはいかないの」


 タキシが諦めたように目を閉じ、暴れていた手足から力を抜いた。


「ムイ、ごめん」


 ムイの籠手が射出され、その反動でムイの上体が揺らいで後退する。光と化して空に向かって走る籠手とタキシを見上げたムイは、左手を上げてゆっくりと握りしめた。


 その瞬間、籠手が閃光を発して爆発。爆光が乱舞して白煙が渦巻くなか、タキシだったハナビラが風に乗って去っていく。


「ごめんなさい」


 空を仰ぐムイの頬を一筋の涙が伝っていた。

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