第13話 ツバキの断頭
『き、気を取り直しまして……。終始ヒノメ班を圧倒していたイチバ班が、一転して苦境に立たされるとは誰が予想できたでしょうか⁉ 波乱の一戦となりました!』
クロワの実況を聞いたイチバが
「二人が負けるとはね。ま、あんたを倒してあの二人も始末すれば結果は変わらないかんね」
「ムイちゃんとミズクちゃんが頑張ったのに、私だけ負けるわけにはいかないでしょ!」
ヒノメの叫びを浴びてもイチバに怯む様子は無い。ただ、槍を旋回させて表情を引き締めた。
「
「
「あんた晴火流だったの? それ
思い至ったイチバが嘲笑を浮かべる。
「ははーん。晴火流の異端の長刀使い、それがヒノメってことか」
「そんなことはいいから、とっとと終わらせるよ」
イチバは短槍の穂先を下げ、応戦の意思を見せる。ヒノメも中段に構えて攻撃に備えた。
ヒノメとイチバが同時に動く。二条の閃光が交差し、火花と衝撃が炸裂。手が痺れるほどの強烈な圧力に耐え、刀身で短槍を押し返す。
距離が開くと、ヒノメは長刀を垂直に斬り下ろした。素早くイチバが槍を払って一撃を弾き、刺突を返してくる。寸前の差で避けたものの刃が脇腹を掠め、傷口からハナビラが散った。
ヒノメは痛みに顔をしかめる。ハナビラで疑似的に構成された肉体であっても、この苦痛は本物。長刀しか使えないこの
ヒノメは短刀を極意とする晴火流の免許皆伝を有する父を持ち、子どもの頃から父親に剣の技術を教えられていた。
晴火流での短刀の修行には特徴がある。初心者は普通の長さの刀を持ち、相手に長刀を持たせることで
ヒノメは十二歳の頃から長刀を手にして父親の稽古相手を務めていた。父親は名人だけあって短刀を操り、ヒノメの長刀を軽くあしらう技術を有していた。
ヒノメの人生の歯車が狂ったのは二年前。病床にあった父親が急死し、いつかは父親から短刀術を習えると信じていた少女は、長刀しか使えない異端の存在となった。
「どうして……」
不意にヒノメが発した言葉を聞き、イチバが怪訝に眉根を寄せた。だが、すぐにそのイチバの面は驚愕の表情に上塗りされる。
「どうして! どうしてッ⁉」
長刀を振るうごとに叫ぶヒメノの剣幕に圧されるように、イチバは一歩ずつ後退していく。イチバが表情を引き締めた。意地の気合で刀身を押し返すと、仕切り直すように後方へと跳躍。
「ヒノメッー! 調子に乗るんじゃないよ! あんたに使うのは初めての大技で決めてやる!」
イチバが穂先を地に擦るほど低く短槍を構え直した。イチバの気力が高まっていくほどに、その槍から溢れる光輝が増していく。
ふと、ヒノメの視界からイチバが消失。咄嗟に、ヒノメは半身になりつつ長刀を斜めにして防御していた。
途轍もない圧力の塊がすれ違ったと思ったとき、ヒノメは脇腹に激痛を覚えてよろめいた。はるか後方まで駆け抜けた颶風が急制動をかけて止まり、荒い息を吐いたイチバが振り返る。
「惜しかったね。でも、その様子だと次で終わりだ!」
再び構え直そうとしたイチバの膝がカクッと折れる。自身の肉体を叱咤するように無理矢理に足を踏みしめ、イチバが槍を構えた。
空気を砕く勢いでイチバが急加速。その身が霞むほどの超速突進からの刺突がヒノメを襲った。ヒノメはイチバの姿が消えたと同時、自ら仰向けに倒れる。
一面が空に覆われるヒノメの視野のなか、無心で振った長刀に手応えがあった。
「くぁッ⁉」
視線で声の行方を追うと、腹部を真一文字に斬られたイチバが地面を転がって倒れ伏している。寝た状態からのヒノメの
ヒノメは立ち上がってイチバに歩み寄る。イチバも槍を支えにして身を起こしているが、ひどい損傷で素体を維持できず、身体中からハナビラを噴き出していた。
接近するヒノメに気付いたイチバが短槍を持ち上げる。ヒノメの長刀が空を走り、その軌道上に位置したイチバの両腕を両断。地に落ちた槍が乾いた音を上げ、イチバの腕から血汐のようにハナビラが噴出した。
呆然とするイチバへと走った二条の剣閃がその両脚を切り裂く。ひざまずいたイチバの横にヒノメが並んだ。
満身創痍となり自身の敗北を甘受しているイチバが、ヒノメを見上げる。
「どうして泣いてんの。初めて勝ったんだろ?」
指摘されて初めて、ヒノメは涙を流していることに気付き、長刀を掲げて呟く。
「どうして、父さんの剣を教えてくれずに逝ってしまったの……?」
ヒノメが長刀を一閃させる。
切断されたイチバの頭部がハナビラとなって霧散。その肉体もハナビラと化して舞い乱れる。
深紅のハナビラが降り注ぐなかに佇むヒノメへと、クロワの熱狂した声が落ちてきた。
『ヒノメちゃんがイチバちゃんを
クロワの讃嘆の声も、ヒノメの耳にはどこか遠い。
『ここで
初めて勝者として拍手を浴びたヒノメは、両目の涙を袖で拭って客席を見上げた。
破壊された生命花から三つの人影が投げ出され、イチバ、ライミ、モミジの三人が意識を喪失し、だらしなく路面に横たわっていた。三人は救護班によって医務室に運ばれていく。
視線を戻したヒノメは苦悩をひた隠し、喜びを分かち合うために仲間の方へと歩き始めた。
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