第7話 反撃の火蓋は切られた

『やぁーっとヒノメ班が大通りに到着! こんなに時間がかかったのは、作戦会議でもしていたのだと信じたい! その成果を見せてくれるのかァー⁉』


 若干クロワの私情が入った実況のなか、ヒノメ班とイチバ班が睨み合う。


『モミジちゃんの〈この千手は守りのために〉は、味方一人にしか効力を発揮できません。防御文様を斬り込み隊長のイチバちゃんに纏わせているのは、常套手段にして鉄壁の戦法です!』


 ムイは防壁を展開しつつ前進。ヒノメとミズクはその背に隠れて、相手の出方を窺う。


 突如、土煙を巻き上げてイチバが疾走。瞬く間に距離を縮めてきた。


 応戦するのはヒノメ。防壁に向けて突き出された短槍を横から受け止め、噛み合った互いの刃から星屑が飛び散る。琥珀ヒノメ灰色イチバの瞳がぶつかり合い、空間で不可視の火花を散らした。


 ヒノメが槍を押し返し、イチバは後方に跳び退って勢いを殺す。踏み込みざまに放たれたヒノメの斬り下げをイチバが躱すも、縦の軌跡を描いた切っ先が翻って横薙ぎへと続く。


 その首をめがけて水平に走る刃をイチバは槍の柄で防御。間合いが近すぎてイチバは思うように槍が振るえず、そこがヒノメの狙い目だった。


 長刀を押し返したイチバは体当たりをしかけてくる。距離を開けるために引くか押してくるかは想定済みであり、ヒノメは横っ飛びでイチバの側面に回り込んだ。


 虚を突かれてイチバの反応が遅れる。小振りに斬り下げられた一撃が左肩口に決まるが、刃先はその肌の表面に食い込んだだけだった。


 イチバは傷口から微かなハナビラを散らすものの、モミジの防護文様によって確かな損傷を与えられないでいる。焦りを隠せないヒノメに対し、イチバは薄ら笑いを浮かべ余裕の面持ち。


 じりじりとイチバが後退。それを追おうとしたヒノメは仲間を思い出して踏み止まった。


「危ない危ない。引っかかるところだった。……、ムイちゃんとミズクちゃん、ライミとモミジを狙って。イチバは私が止めておくから」


「わ、分かった」


「ぶっ潰してやります」


 ヒノメの背後で待機していたムイとミズクが前進を開始。イチバの前には長刀を掲げるヒノメが立ち塞がる。立場が入れ替わったイチバは、苛立ちを視線に乗せてヒノメを睨んだ。


 防壁を展開するムイの後ろからミズクが飛び出し、浮遊する六冊の本が光条で弾幕を張る。周辺の路面が穿たれて破片を巻き上げ、ライミとモミジはイチバに向かって駆け出した。


 仲間を守ろうと動くイチバを妨害するため、ヒノメは攻勢に移る。ヒノメが刺突を放ち、電光と化して宙を斬る刀身。イチバは槍を地に突き立て、その反動で空中に身を躍らせる。


 イチバはヒノメの頭上を飛び越え、その背後に着地。そのまま駆け出してミズクの射線の前に割り込むと、槍を回転させて光条を弾いた。


後ろに退避した二人モミジちゃんとライミちゃんと何やら会話するイチバちゃん。おやー、イチバちゃんの防護文様が消えていきます! これは別の人物に文様を移したようです』


 イチバの後方から全身を文様に彩られたモミジが走り出た。すぐさまミズクの速射が襲いかかるも、両腕を交差させるモミジに痛手を負わせられない。苦痛に表情を歪めながらミズクを攻撃範囲に捉えたモミジは、しゃがみ込んで両手を地面に着いた。


 モミジの手を起点に文様が石畳に描かれていく。ミズクまで達して波動を解き放つ寸前、割って入ったムイの防壁が一撃を防いだ。


「助かりました、ムイぴょん。後で頭をなでなで・・・・してあげます」


「あれを何とかしてくれたら、大歓迎だけどぉー……」


 モミジの手から連続して生まれる文様が衝撃波を生み続け、ムイは防御に徹するしかない。ヒノメが援護に向かおうとした矢先、弦楽器ベースの音色がその耳朶を打つ。


弦楽器こいつはまだ鳴き足りないって言ってるじゃん!」


 犬歯を剥き出してライミが笑う。ヒノメは物怖じすることなく、雷の雨のなかで小刻みに進路を変えて突き進む。驚愕をその面に浮かべるライミへと、ヒノメが肉薄した。


 疾駆するヒノメの前に飛び込んできたのはイチバ。慌てて演奏を止めようとするライミを振り返り、イチバが口を開く。


「そのまま弾き続けな」


 ライミが動揺しつつも演奏を続け、電撃が放出されるなかでヒノメとイチバが相対。電撃をかいくぐったヒノメへと、イチバは槍を投躑した。思わぬイチバの行動に反応できず、ヒノメはその腹部を刺し貫かれる。


 その直後、電撃が避雷針となった槍に集まり、その柄を通してヒノメの全身を感電させる。イチバの嘲笑を目に焼きつけながら、ヒノメの視界は一瞬で暗闇に染まった。

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