第58話 お互い見つめあったら

「ミオさん、試合始まってますよ!」

「頑張ってください!」

 ザワザワと騒がしい観客席の視線の先は、お互い見つめあい動かないままのマオとミオに、観客席の人達が次々に、ざわめき首をかしげている

「マリヤさんもいないし、本当に大丈夫かな?」

「うん、それに二人で何か話しているみたいだけど……なにかな」

 そう言うとまた試合場にいるマオとミオを見た





「なに怯えているの?」

 ミオが、こちらを見つめるマオに話しかける。話しかけられるとは思わなかったマオがビクッと一瞬驚きつつも何度か首を横に振る

「怯えてない。ミオの方が不安そうな顔をしているじゃん」

「そんなわけ……」

 言葉が詰まり言い返せないミオ。マオも何も言わず二人にまた沈黙が流れる。二人同時に騒がしい観客の声を聞きつつ、同時にふぅ。と深くため息をついて、お互い顔を上げうんと一緒に頷いた

「マリヤさんがまだ来ないけど」

「フラン、まだ来ないけれど……仕方ない」

 二人同時に呟くと、右足を一歩後ろに引いて、トンっと勢いつけて空へと飛び上がった





「魔術を教えるついでに言い争いも教えなかったのか?」

「教えません!」

 ログとフランが集まった本の表紙に写し出されるマオとミオの様子を見ながら、言い争いをしている。その二人の様子をユグスがクスクスと笑って見ていると、ユグスの目の前を一冊の本がユラユラと力無さそうに通りすぎていった

「この本は?」

「ああ、それは……」

「私の魔術!」

 ログの言葉を遮るような大きな声が響いた。三人が一斉に声がした方に振り向くと、息を切らし疲れた顔をしたマリヤが立っていた

「おや、ここがよく分かりましたね」

「この本の数は分かりますよ」

 ユグスの言葉にログが呆れたように返事をして、辺りを見渡すと、ログやユグスの体を隠すほどの本が大量にふぅ。と一つログがため息をついた

「……あなた」

 と、マリヤがフランを見て呟く。見つめられているのに気づいたフランが苦笑いで、首をかしげた

「何でしょうか……」

「どうやら気に入られたみたいですよ」

 ユグスがフフッと笑ってフランに話している間にマリヤがたくさんある本を掻き分けフランに近づいて顔をジッと見つめた

「あなたが私の魔術を奪ったの?」

「ええ、まあ……、そうですね……」

「そう。あなたに奪われたなら許すわ」

「……はぁ」

 返事が出来ず困ったように呟くと、ちらりとログを見て助けを求めるフラン。それに気づいても助ける気もなく、またマオとミオが写り出される本の方に目線を向けたログ。フランが慌ててたくさんある本の間を通り抜けログの肩に座った。フランが去り、しょんぼりするマリヤを見たユグスがフフッと笑う

「試合が動いたみたいですね。本の話はまた後でにしましょう」

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