田中伊知子⑧

「歴史を見れば、社会主義がうまくいかないことは明らかだ。制度としては資本主義を採用するしかない。ただし、皆が社会主義的な気持ちを持たなければ、やはりうまくはいかない。『精神の社会主義』が必要なのだ。それも、富む者がただ分け与えるというやり方ではなく……」

「ちょっと!」

 ついに、私は我慢できず、夫に話しかけた。

「なに、野良猫相手に訳のわかんない話をしてんのよ! あなた昔、私に子どもができないってなったとき、犬か猫でも飼おうかって言ったわよね! あのとき、子どもの代わりにペットを飼うなんて嫌だって答えたけど、昨日は幼い男の子にしゃべって、今日は猫って、ろくに話を聴いてあげない私への当てつけのつもり? 不満があるならはっきり言えばいいし、もしそうじゃないんなら、こっちはずーっと子どものことで負い目を感じ続けてるんだから、もっと気を遣ったデリカシーのある行動をとってよね! まったくもう!」

 夫がぽかんとした顔になったのがチラッと見えたなか、私は離れて自宅へと向かった。

 ほんと、気配りもできない、バカな夫!

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