第3章 新たな出会い02
サフィーは一心不乱に北に向かって走り続けていた。身に降りかかる雪も吹きつける冷たい風も、もはや彼女を行く先を阻むことは叶わなくなってきていた。そんなサフィーをつけ狙う者達がいた。
事の発端は数週間前のこと。ドントルの耳にある噂が入った。自身の領内で光の如く疾走していくユニコーンを見たのだという。最初は半信半疑であったドントルであったが、その目撃報告が増えるにつれて、彼の興味はユニコーンへと引き寄せられていた。そうして彼は遂に領内の各地の掲示板にある御触書を掲示させた。
『近日目撃報告が多発しているユニコーンについて、無傷で捕獲した者に多額の報酬を支払うことを約束する』
そうなれば狩人達が黙っている筈が無かった。早速彼らは馬を駆り、ユニコーンを血眼になって探し始める。幸いなことに、サフィーはその足跡や美しい鬣の一部等、自身の存在を証明する痕跡をそれなりに残していた。そして、狩人達の中にはサフィーに追いつく者もいた。彼らからすれば、ユニコーンの存在なんぞ、走る金塊にしか見えなかっただろう。しかし、捕らぬ狸の皮算用とはまさにこのこと。彼らはサフィーのことを侮っていた。
ある狩人は池のほとりで休んでいたサフィーを発見した。狩人は早速縄を手にして、彼女の元にそっと近づく。しかし、サフィーは直ぐに邪な気配を察知した。そして、疾風の如くその場から駆け出した。狩人は慌てて馬に跨り後を追おうとしたが、その間にサフィーは地平線の彼方へと逃げ去ってしまっていた。狩人は一獲千金の機会を失ってしまったのであった。
ある狩人のグループは目撃情報を照合し、サフィーが北に向かって走っていることを突き止めた。そこでその間にある大河に架かっている橋を一つだけ残して全て落とし、残された橋で待ち伏せを行った。しかし狩人たちが寒さに耐えながら待てど暮らせど、ユニコーンがそこに現れることはなかった。何せサフィーは大河を軽々と飛び越えてしまったので、そもそも橋を渡る必要などなかったのだ。
ある狩人は村から処女の少女を攫ってきて檻に入れ、ユニコーンをおびき寄せようと試みた。狩人の望み通りサフィーは少女の悲鳴を聞きつけてそこに現れた。
「大丈夫ですか?お嬢さん?」
サフィーはアリトンの真似をして淑女の姿勢で少女に接した。少女は眼前に本当にユニコーンが現れたことに驚き呆気に取られた。だが直ぐに我に返って大声で叫んだ。
「ダメ!ユニコーンさん!今すぐ逃げて!!!!!」
その背後では狩人は涎を垂らして縄に手に忍び寄る。しかしその刹那、サフィーの角が眩く光った。
「そんなことしてはいけません!」
狩人が手にしていた縄は蛇のように動き出し、彼をぐるぐる巻きにして縛り上げてしまった。
「全く、アリトンの言った通り酷い人間もいるものですね。幼い子をこんな目に合わせるなんて……」
サフィーは縛られ、蓑虫のように藻掻く狩人に向けて呆れたように呟く。
「ーーさて、今出して上げますからね」
サフィーが錠前に角を翳すと、それはポロリと地面に落ちた。
「……あ、ありがとうございます……」
「そんなに他人行儀にならなくても大丈夫ですよ。私の名前はサフィー、貴方のお名前は?」
「リ、リサです……。あの……ごめんなさい……私のせいで……」
リサは深々とお辞儀をする。
「いえいえ、最近はもう慣れたものですよ。それよりも貴方のお家は何処ですか?宜しければ、私が送っていきますよ?」
「え⁉そ、そんな……」
「遠慮しなくても大丈夫ですよ。そんな薄着では凍えしまいます。私の背中に乗れば多少は温まれる筈ですし」
そう言いながらサフィーは腰を下ろし、リサに跨るように促した。
「……わ、わかりました……それでは、お言葉に甘えて……」
リサは恐る恐るサフィーの体に触れた。その瞬間から春の温もりがリサの体を満たし、さっきまでの寒気が一気に吹き飛んでしまった。
「あ、暖かい……」
「フフフ、それは良かった」
サフィーはリサが安心している様にニッコリと微笑んだ。世界はこんなにも寒くなっているのに、今この場だけは春のように暖かくなっているようにも感じられた。
(誰かを助けると、こんなにも心がほっこりとするのですね……)
サフィーは心の中でそう呟くと、リサから家を尋ね、そのままそこへ直行した。寄り道にはなるが、人助けには変えられなかった。
「あの……あの狩人さんは……?」
「大丈夫ですよ。ちょっとしたら縄も解けますから」
春風はユニコーンと共に 龍川凡流 @lv100
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