持ち込まれたバッグ

 着信



 職場に向かう道中


 美優はバッグの外ポケットにチラシをしまい、駅へ向かって歩き出した。

 雨が降りそうな曇り空に、街はどこか落ち着いた雰囲気を漂わせている

 通勤途中、足元が滑らないように気をつけながら歩く美優の頭の中には、さっきチラシを受け取った受け取った青年のことがちらついている


「骨董店か…昔ながらのお店の作りだったわね」


 そうつぶやきながら美優はポケットに入れたチラシを取り出す。


 店の佇まいには不釣り合いなポップなデザインのチラシを眺めながらあのロン毛の男の笑顔を思い出す。


 まだ二十代の美優にとっては骨董店というものにはまったく興味はないが、あの店は妙に気になる。


 一度覗いてみようかしらと考えていると突然スマホの呼び出し音が鳴り始めた。


「ん?」


 いったい朝早くなんだろうかと携帯をのぞいてみるとそれは母の携帯番号だった。


「もしもし?」


『美優。朝早くごめんね。実はね。おばあちゃんが亡くなったの』


「え?」


 突然の訃報に、美優はさっきまで見ていたチラシが手からすり抜けてどこかへ飛ばされたことにも気づかず呆然と立ち尽くした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る